6話 いや、お前かよ!
「だれなんだお前……」
背後からついてきた男。それは、俺たちと同じ制服だった。
あれが、雛子の言っていたストーカー。
いかにも、優男な雰囲気してるけど、そういう奴に限って裏がある奴多いんだよな。
「九鬼くん…」
雛子がポツリとそう言った。握っていた手がブルブルと震えている。
やっぱり、怖かったんだな。
目を合わせずに俺にぴったりくっついている。
「おい、お前が水吉ってやつかよ」
「そ、そうだけど?」
ぶっちゃけめちゃくちゃ怖い。こんなやつに絡まれるのはここ数年なかったからな。
「それ、俺の女なんだけど?」
「いや?こいつは、そうじゃないって言ってたぞ?」
「んなわけねぇだろ。雛子は俺のことが好きなんだよ。せっかく優男演じてあとちょっとでイケると思ったのに」
チッっと舌打ちをしながら言う九鬼にドン引きした。
いや、やべぇだろ……学年の噂で普段めちゃくちゃ優男って聞いてたけど、昔に会ったやつと同じくらい気持ち悪いなあ…
「それで告白したけど失敗してフラれてストーキングしてんのか……お前、ふつうにやべぇやつだな…」
「あ?調子乗ってんの?陰キャと雛子とか釣り合ってないからwどうせ男避けに使われてるんでしょ?」
すんごい……なんでわかったんだ?
頭は回る方なのか?
てか、さっきから思ってたんだが、ちょっとこいつ見覚えあるんだよなぁ…
「いや、違うな。普通に告白して付き合った」
「嘘つかなくていいから!もうね、わかっちゃってんの!それに、今からお前のこと捻るから」
「それで、人気の少ないところまで待ってたんだな。お前どんだけ粘着質なんだよ」
やばい……ちょっと、煽りすぎたかも……
「あ?普通にうぜぇよ。今から殺されねぇとわかんねぇようだな」
ぼきぼきと指を鳴らす九鬼だが、こっちには切り札があるんだよ。
「そんなことしていいのかよ?退学になるぞ?」
これが最強の切り札。もうね、優等生とかなら土下座して謝るもんね。
「バレなきゃいいんだよ!バレなきゃ」
「証人がもう一人いることを考えてね」
笑っていう九鬼だが、こっちには証人がもう一人いることをお忘れなく。
俺は人望がないから大丈夫だと踏んだのかもしれないがこっちには雛子がいるからな!
俺の人望はなくても雛子がいる!これで最強だ!(他力本願)
「チッ……セコイぞ」
「そう思うなら俺一人の時に仕掛けてくればよかったのに」
「いや、ここで締める!九鬼康隆をここまで怒らせたんだ、覚悟しろよな?」
ん?ヤスタカ?
あれ、ちょっと待って?
おれ、やっぱこの名前知ってる……九鬼って聞いたとき変だなぁ…って思ってたけど、俺この名前知ってる!
「おまえ、もしかして鬼タカかよ?」
「なんで、その呼び方知ってんだよ!それは、俺の尊敬する人が呼ぶやつなんだぞ!」
「おい……やっぱお前かよ」
「は?え、ちょ、ちょっと待て……え、もしかして、シュウの兄貴?」
「もしかしなくてもだよ」
はぁ、やっぱそうだった。
こいつ、俺のキックボクシングの後輩だわ。
年齢は同じだけど、ウチが入ってたクラブは入ったもん順だったし……
「え、まじかよ……ウソだろ……見た目も全然ちげぇし……苗字だって」
「親が離婚して前の苗字に戻ったんだよ」
「ウソだろ!?」
「てか、見た目がちげぇと言いたいのはこっちだよ。お前むかしツーブロックだろ」
「い、イメチェンしたんすよ!」
「ね、ねぇ。ごめん。まったくついてけない…」
俺にぴったりくっついていた雛子が俺の制服を引っ張って言った。
「ああ、ごめん。こいつ、俺の古い知り合いなんだよ」
「そうだったの?やっぱ、水吉はヘンな知り合いが多い…」
それって、雨蘭さんも含まれてるのかな?
雨蘭が変人ということは全面的に俺も肯定するけどさ。
てか、それよりも……
「おい……鬼タカ…」
「ひぇ……な、なんでしょう…」
「おまえさ、俺に道場でコテンパンにされたとき、もう人に暴力しないって誓ったよな?ああ?」
「それは……」
「それが……兄貴に喧嘩売って、彼女奪おうとしていいのかよ?」
「え、えっと……」
「雛子にいうことあんだろ…」
「も、申し訳ございませんでした……アニキも」
「俺は別にいいけどよ。これだけは誓えよ?」
「なんでしょう…」
こいつも俺が知る限り、悪いやつじゃないんだ。
キックボクシングでも、真面目に受けてたし先輩は立てるからな。
でも、今回は、許せねぇよ。
「お前は二度と雛子に近づくな。これは俺の女だ。もしも破ったら………蹴り殺すからな」
「わ、わかりました……」
「わかったらよし」
「ありがとうございます。シュウの兄貴」
「それはもう昔の呼び方だからやめろむず痒い」
「いえ!やめません!俺は今度こそ、心入れ換えます。シュウの兄貴のようになります!」
「それはやめとけ」
お願いだ。本当に俺と同じ道踏み外して失敗だけはしないでくれ。
「いや!やめません」
「やめろ。呼び方はそのまんまでいいから!俺みたいはなるな!」
「なるほど……兄貴はスペシャルだからということですか?」
「ねえ、マジでもう離れたい……」
俺と鬼タカがいい合っていると、雛子がまた言う。もう、さっきからぴったりくっついて離れない。
「マジでごめん。すぐ行こう」
「うん…」
「じゃあ、お前。約束だけは守れよ?」
「わかりました…でも、まだ話が…」
「また今度だ……あ、それと、お前俺のこと誰かにバラしたらわかってんだろうな」
「わかってます…」
「ねえ、マジ早く…」
もう、雛子が俺の腕を引っ張って走り出すので、俺も諦めてその場から離れた。
多分、大丈夫だろう。これだけ、脅したし。
○
「はあはあはあはあ……ちょっと、どこまで走んだよ…」
「まだ、ついてきてるかもしれない……」
「そんなわけねぇだろ、話聞いてたか?」
「半分聞いてて半分聞いてない!怖かったもん!」
「じゃあ、一回止まってくれ。もしついてきてたら蹴り殺すから」
「わ、わかった……なら、とまる」
そう言うと、雛子はピタリと止まる。振り返ると、誰もいない。よかった、約束守ってくれたか、、
はあはあ……めっちゃ息上がるなぁ……
マジでこんなに走ったの久々なんだけど……
「ねえ、改めて説明して……?」
「おう、わかったよ」
俺は、さっきの会話を詳しく、混乱している雛子にも伝わるように話した。
「えっと……まとめると、九鬼くんはもう私の前に現れないと?」
「その通りだ。」
「でも、嘘かもしれないよ?口約束だし」
「いや、それはないな。破ったら蹴り殺すって言ったから絶対こないぞ?」
「珍しく自信あるね…」
その珍しくってのが聞き捨てならないけど、まあ、仕方ない。
自信はある。文字通り、本当に蹴り殺すからね。
「ああ、あるぞ。絶対約束する絶対あいつは近づいてこない」
「そこまで言うなら水吉のこと信じる」
「おお、さんきゅ」
「あとさ、ありがと……立ち向かってくれて」
「いいんだよ。気にすんな。お前もよく頑張ったな」
「うん……」
雛子は少し、安心したようににこっと笑った。
その瞳にはうっすらと涙が残っている。
マジで怖かったんだな…
俺は雛子の頭をポンポンと撫でた。
「うわぁ!いきなりなに?」
「いや、なんというか。リラックス効果的なのを期待して……」
「だいじょうぶだから!もう、リラックスだから」
と、雛子は恥ずかしそうに俺の手を退けた。
う〜ん、そこまで効果はなかったか……
いやぁ…それにしても、今回は、あいつだったから、俺も全然だったよ。
え?最初めちゃくそ怖がってた?えっと、覚えてないなぁ……
うん、知らない。
「で?どうする?この続き?」
「この続きとは?」
雛子が不思議そうな顔をしてるけど、デートの続きだよ。
もう、目的は排除したから実質やらなくてもいいわせであって……
「ああ!デートの続き!もちろん続ける!」
どうやら、本来の目的を思い出したらしいけど、、
続ける意味なくないか!?
「ほら!手もっ!」
強引につないでくるけど、もう大丈夫なんじゃ……
どうして?
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ボコボコを期待してた方はすみません。
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