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苦手な方はご注意ください。

『連載版決定』光の魔導剣士と魔王軍最強の美少女は、【パラレルワールド】でも活躍するようです:短編

連載版投稿しております!

『光の魔導剣士と魔王軍最強の美少女は、【最高のパラレルワールド】でも抜群の活躍をするようです』

ランキングタグより読めますので是非!!

 魔導剣士リヒトは困惑していた。

 目が覚めたときにはどことも知れない洞窟の中だったからだ。

 

「イテテ、ここどこだよ。確か俺は……ハッ!!」


 痛みが一瞬で吹っ飛ぶほどの想起。

 魔王軍最強とも言える幹部クラスの魔族との戦闘中のことだった。


「思い出したぞ……アイツら、『秘策がある』とかなんとか言って俺ひとりを前衛で戦わせて……ッ」


 握った拳を地面に叩きつける。

 勇者にして同期の魔導剣士であるモルスの策略だ。


 炎の使い手であったが、リヒトに対して常につらく当たっていた。

 しかし実力のあるリヒトに勝った試しなどありはしない。


 そんなとき、魔術師のゲンヤと盗賊のビリーがモルスに悪策を与えた。

 彼らもリヒトのことが気に入らず、どうにかしようと考えていたのだ。


『ちょっと強いからってよぉ。こりゃメチャ許せんよなぁ?』


『えぇまったくですぞ。少し出しゃばりすぎですぞ彼は、えぇ、えぇ』


『へっ、お前らもそう思うか。ちげぇねぇ。……だが、アイツがいなきゃ魔王軍最強の【あの女】にも勝てねぇのは事実だぜ』


『そこでですぞ。この超てんさぁい魔術師ゲンヤの魔術と……』


『オレ様が集めた中での最強のレアアイテムを駆使すりゃ……』


『おう、詳しく聞かせろ……へっへっへっへっへ』


 そうして決行されたのが、『ふたりをまとめて封印するというもの』だ。

 敵幹部の【権能】と、リヒトの【能力】を利用した次元超越術式の応用。


 最後に見た薄ら笑いを浮かべる3人と、背後からの彼女の悲鳴。

 そこからは意識が暗転し、今に至る。


(アイツらがなにをしたのか……ここはどこなのか。疑問は尽きないが、それでも今は立ち上がるんだッ!)


 持ち前のガッツで飛び起きて、周囲を見渡した。

 ダメージはそこまでではないので、十分に動ける。


 かなり暗いが能力を使えばこのとおり。

 リヒトは光を操る魔導剣士だ。


 闇に対する心配などなく、順調に突き進んでいく。

 

「やけに静かだ……こういうとき大抵おぞましいことが起きるんだ」


 いくらか歩いたとき、奥から水の音が聞こえる。

 ちょうど喉が渇いていたので、天の恵みとばかりに走った。


 ────地底湖だ。


 かなり広い。

 奥まで照らしてみたかったが、今は喉の乾きをうるおすのが先だ。


「……ふぅ、うまいな。ようやく生きた心地がした」


 グビグビと飲んでいると、視線の先になにか見えた。


「ん、あれは一体なん────……なっ!?」


 プカプカとなにかが浮いている。

 目を凝らして見てゾッとするほどに理解できた。


「あれは……────ヴィナシス!!」


 ほんのりと照らされる先には虚ろな瞳の美少女が仰向けで浮いていた。

 魔族特有の灰色の肌にまとうのは、夏場のビーチを彷彿させるビキニのような衣裳。


 トレードマークだったツインテールは崩れ、長い髪が絹のように水面に広がっている。


 そんなヴィナシスと目があったような気がして、一瞬たじろいた。

 完全に隙を見せてしまったため、なにかしろの攻撃をしかけてくるかと思ったのだが……。


(なんだ? ……なにも、してこない。浮いてる、だけ? いや、まさか……ッ!)


 ここへ来たときに死んだのか。

 だとしたら、魔王軍は貴重な戦力を失ったことになり、あとは烏合の衆にも等しい。


 喜ばしいことなのだろうが、妙な違和感が残る。

 ヴィナシスは本当に死んだのだろうかと。


 触らぬ神に祟りなしと言うが、警戒しつつ彼女に近づいてみる。

 動く気配はなく、彼に委ねるままに岸に引き上げられた。


「……なにしてるんだろう俺。まぁ、水に浮いたままにしておくのもなんか気が引けるし……」


 彼女は好敵手であった。

 傲岸不遜ごうがんふそんで、自分より強い存在は魔王を含めひとりもいないという自信家であり、それに見合うほどの実力者でもある。


 綺麗に横たわらせたヴィナシスに手を合わせ、また進むことにした。

 こうして進んでいくと、この洞窟がいかに大規模なものかがわかる。


 特に分かれ道もない……はずだったのに。




「あれ? ここってさっきの湖じゃあないかッ!!」


 嫌な汗が伝う中、咄嗟によぎった嫌な予感が的中した。


(ヴィナシスが、いない? でもここは確かに俺がさっきいた場所だ。……ありえないッ!)


 次の瞬間、背後に急な気配と強い衝撃が走り、そのまま押し倒されてしまった、

 背中に乗っかっているのはなにか確認するとそこには……。


「ヴィ……ヴィナシスッ!」


「……」


「どうして、お前……クソ、ちゃんと生死を確認をしておけばよかった。あれはお前の作戦か? やられたよ……俺もこの状況に動揺していたから、まんまと引っ掛かったよ」


 様子がおかしい。

 さっきから語りかけても返事をしない。


 ジッとリヒトを観察しているようで気味が悪かった。

 率直に言えば、ヴィナシスらしくない。


「オイ、バカヤローでもなんでもいいから返事をしてくれ。……あんなに過激だったお前が俺を取り抑えただけなんて珍しいな」


「……ちょっと」


「お、なんだ?」


()()()()()()()()()()()()()()?」


「────え?」


 ここへ来て、驚愕の展開。

 少し話すと、彼女は記憶を失っているようだった。


 よりにもよって、リヒトに関する記憶だけ。


 十代後半の見た目にして、抜群のプロポーションを誇るヴィナシス。

 身体のラインに沿って滴る水が、より目のやり場を困らせる。


 しかし、そんな反応を気にもしていないように、彼女はリヒトを問い詰めた。


「アッハッハッハッ! アナタが勇者パーティーのひとりですって? バカにしてんの?」


(おいおいマジかよ……記憶までうまい具合に変換されてるぞ。……俺のやってきたことが全部アイツらのものになってやがる)


「あーおかしぃ。……それで、勇者パーティーのひとり様であるアナタはなぜここにいるのかしら?」


「なぜって決まってるだろ。俺もお前と同じくここに飛ばされた。覚えているだろう? 連中は特殊な術式で俺たちを吹っ飛ばしたんだ」


「もちろん。でも、そこにアナタはいなかったわ。いるはずないじゃない。だって勇者パーティーは『3人』でしょう? 勇者パーティーのメンバーは全部記憶してるもの」


(俺だけごっそり忘れてるんだよなぁ……)


 これ以上はもう無駄だ。

 ならば次の行動に移るしかない。


 この空間からの脱出である。

 現状を話すと、ヴィナシスはすぐさま理解したように周囲を見渡し始めた。


 埋められるべきパズルの型がわかっているのなら、あとはその型を探せばいいだけ。

 彼女の表情は、もうその段階に至るものだ。



 答えを導き出すための簡単な思案、その最終段階。


「なにしてるんだ?」


「決まってるでしょ。術者の魔物を探してるのよ。アナタが感じているのは恐らく幻術の類」


「術者は魔物なのか? となると、ここはそいつのテリトリーか」


「そうよ。でも天下の魔王軍に、しかも魔王軍最強の私に挑むなんて命知らずにもほどがある。ちょっとお仕置きしてやらないと」


 直後、ヴィナシスの視線が正体をとらえた。

 岩壁の奥にへばりついていた巨大グモ。


 ガラガラと不気味な声を鳴らし、ふたりを威嚇している。 

 半透明のガスを漏らしているあたり、あれが幻術の源だとでもいうのか。


「この私を知らないなんてとんだモグリね」


 次の瞬間、巨大グモの肉体が不可視の力によって地面に叩き落とされる。

 そして地面に召喚された無数の鋼鉄の槍が貫いた。


 ヴィナシスの【権能】は健在だ。

 地面に腐臭を漂わす体液が広がっていく中、巨大グモは静かになっていく。


 ひと呼吸分にも満たない秒間の光景が、彼女との力の差を物語っていた。


「終わったわ。ホラ、出口の光が見えた。さっさと行くわよ人間」


「あぁ……」


 ヴィナシスは歩きながら髪の毛を整えるため視線を上に向けていた。

 ゆえに巨大グモの最期の抵抗に気付くのにワンテンポ遅れた。



 ────ザシュウッ!!



 射出された矢のように伸ばした前足を、リヒトが前に出て光の力を凝縮した剣『エーテルブレイド』で斬り裂いた。

 光を操る魔導剣士とあってその判断と行動は、まさに電光石火の早業である。


「生死確認はしたほうがいいぞ。俺もさっきし損ねたからな」


「……アナタ、名前は?」


「リヒトだ」


「とりあえず感謝するわリヒト。やるじゃない。それ魔導剣士の力でしょ? ふぅん、まぁ勇者には敵わなそうだけどね」


「さよですか」


 ブゥン……と小さくも異様な唸りを上げるそれを霧散させると、彼女のうしろについていく。

 ともかく今は情報が欲しい、ここはどこで、今はいつなのか。


 暗闇から晴天の広々とした丘に出る。

 洞窟の正体は巨大な岩山だったのだが……。


「あれ、この岩山……」


「どうかした?」


「いや、この岩山どこかで……。それだけじゃない。向こう側に見える河も、あの大きい木も……全部知ってるような気が」


 頭の中が混沌としていく中で、記憶をかきわけ、これらに該当する光景を探っていく。

 まるで危険信号のような違和感が拭えたときには、リヒトは丘の上まで駆け出していた。


「やっぱり、ここは……────俺の故郷じゃないかッ!!」


 それを証拠に、生まれ育った村が見えた。


「間違いない……あれは、俺の村だ……帰って来たのかあの場所から?」


「ちょっと急に走り出さないでよ。ビックリするじゃない」


 フワフワと低空飛行で追いついてきたヴィナシスはリヒトの歓喜ともとれない様子に呆れながらも、村のほうに目をやる。


 どこにでもあるような村だ。

 ちょっと権能を使えばそれこそ秒で滅ぶくらいの。


 しかしどうも様子がおかしい。 

 いつの間にか村のほうへ駆け出して行ったリヒトは気づいていないのか、魔族特有の異様な波長をとらえる感覚が、違和感ありと告げている。


「まぁいいわ。ちょっとついていってみますか」


 そしてふたりはすぐに知ることになる。

 村には誰ひとりとして存在しておらず、もっとも不気味なのが……。


「俺の家が、ない────?」


 リヒトが生まれ育ったはずの家は、影も形もなく、その跡もない。

 ただ小さな井戸がポツンとあるのみだった。


「まるで別世界に来たみたいだぜ……」


 手で頬をぬぐいながら、かつての思い出にふけってみる。

 生活の名残があっただけの村に、リヒトの帰還を迎えてくれる人々はいない。


「ここがアナタの故郷ねぇ。ここまで閑散としてるんじゃ壊し甲斐もないじゃない」


「村の人間がいない。そして、俺の家もだ。どうなっているんだ? まさか魔王軍の仕業じゃないだろうな?」


「アナタの家を井戸にしてでも、魔王軍うちらは水を独り占めしたかったって言いたいわけ?」


「そう、か……そうだよな」


 もしも本当に魔王軍の侵攻なら、村はもっとめちゃくちゃになっているだろう。

 争った形跡も見当たらないし、なによりいなくなってそう古くはない。


「なぁにかわかったの探偵さん、クスクス」


「呑気だなぁ。お前だって飛ばされた被害者なんだぞ?」


「だって私はそのまま魔王城へ帰ればいいだけだしぃ~。まぁここまでちょっぴりは面白かったわ。殺すのだけはやめておいてあげる。あとは勝手にどこかへ行きなさいな。私の気が変わらないうちにね」


「おい待て待て。なにか妙だと思わないのか? この村、いや、この世界そのものに得体の知れないなにかを感じるって」


「なによ私に命令する気? それにさっきから馴れ馴れしいわよ。私のことを知っていながら、恐れ知らずにもほどがあるんじゃない?」


「お前の実力は知ってる。何度も戦ったからな」


「またそれぇ? ……ハァ、頭痛くなっちゃう。いい加減この村ごと生き埋めにしてあげてもいいんだけど?」


 リヒトのみの記憶を失っても好戦的なのは変わらない。

 自分のみが相手との記憶を持っているというのは誰が経験してもきっと妙な感じだろう。


(クソ、解決策……なにか解決策はないのか……)


 戦闘に移行しようとしたときだった。

 下卑た笑い声とともにズシンズシンと地面を鳴り響かせながらこちらにやってくる巨体の影が。


 その正体を見て、リヒトもヴィナシスも思わずギョッとした。

 なにを隠そう、ふたりにとって見知った顔だったからだ。


「グワーッハッハッハッハッ! こんなところに獲物がひとーり! ふたーり!」


(あれは……オークキング!? 俺たちが最初に戦った魔王軍幹部じゃないかッ!)


(嘘でしょ? 歴代幹部最速の死亡記録を樹立した恥さらし、オークキング!? ……な、なんで生きてんの? 生き恥……)


 かつて倒したはずの怨敵であり、死んで当然の無能な同僚。

 謎を抱えたままふたりの前に姿を現したオークキングだが、特にヴィナシスに対する反応が違和感だらけだ。


「ちょっとオークキング、生きてたなら連絡ぐらいよこしなさいよ! 役立たずのアンタでもそれぐらいはできるでしょうが!!」


「なに……?」


「アンタ1番弱いし、魔王も私もそこまで期待はしてなかったけど……、まぁ生きてたんならいいわ。ほら、そこの生意気な人間一緒にブッ飛ばすわよ。私から口を利けば極刑は……」


「小娘、一体なんの話をしている?」


「え?」


「なにッ!?」


「魔王、だと? この世の()()を統べておられるは天上天下に邪神様のみッ! 魔王などと御伽噺おとぎばなしの存在を持ち出し、邪神様とこのワシを侮辱するとは、許さんぞ小娘ッ!!」


 ヴィナシスもリヒトも、オークキングに絶句する。

 オークキングは嘘や策略といったものが苦手であるというのはふたりとも知っていた。


「どういう……ことよ、これ」


「言っただろ。この世界はなにかおかしいって」


「えぇいわけのわからんことをゴチャゴチャとッ!! 我が斧のサビにしてくれるわぁあ!!」




 しかし今のこのふたりからすれば、特筆するほどの強さは持ち合わせておらず、勝負は一瞬で幕を閉じた。


「これでわかったろう。この世界には俺の家、即ち俺が存在した痕跡すらなく、お前の居場所だった魔王軍すらない。もちろん、お前の存在も」


「場所や人物は似てても、なにかが違う世界……」


「そうだ。……その、なんだ。眉唾まゆつばなんだが、一部の魔術師たちが『その存在』を証明しようと躍起やっきになってるって噂を耳にしたことがある。それは、もうひとつの可能性の世界らしい」


「もうひとつの、可能性の世界?」


「あぁ、詳しいことはわからないが、今とは違う歴史を歩んだ世界であったり、根本的に別の世界だったりで、意味が色々あるらしいんだが……」


「それなら聞いたことがあるわ。……まさか、勇者モルスが使ったアイテムが……」


「可能性としてはあり得る」



 ふたりは確信したように声を合わせた。

 ────パラレルワールド!!



 次元を飛び越えての追放にして封印。

 ふたりの敵対者は、"自分たちの根源そのものが初めから存在しない世界"に来てしまった。


「勇者モルス、ずいぶんと姑息な手を使うじゃない。今までの正々堂々さはどこへやらってね。まぁ無理もないことかな。おおかた私が最強過ぎたから打つ手がなくなったんでしょ」


「アイツは昔から裏でコソコソやるような奴だよ」


「……嘘ね。彼の強さに嫉妬でもしてるの? そうよねぇ。同じ魔導剣士なら憧れて当然かもね。でも、それに泥を塗ろうって精神は恥ずべきじゃない?」


(ったくめんどくせぇな)


「とにかく、これからどうすべきかよ。さぁリヒト、どうにかしなさい」


「お前も考えろよ……ったく。帰れるかどうかもわからない以上、まずは情報収集だ。この世界の情勢が知りたい」


「そうね。邪神って奴も気になるわ。この私を差し置いて目立つだなんてイイ度胸してるじゃない」


「怖いものなしかお前は。まぁ頼もしい限りではあるが」


「ふふふ、そうよね。魔王軍最強のこのヴィナシス様が一時的とはいえアナタのパートナーになってあげるんだから、光栄に思いなさい」


(できれば記憶も戻ってくれると嬉いんだが、今はそれどころじゃないからな)


「さぁ行くわよ!」


 こうして、パラレルワールドの奇妙な縁のふたり旅が始まった。

 訪れるべき最初の街は すでに決まっている。


 アーリズの街。

 駆け出しの魔導剣士だったリヒトが最初に訪れた場所で、果物を使った『スイーツ』が上手く、スイーツなどと小馬鹿にしていたにも関わらずひと口食べた直後にドハマりしたという思い出がある。


 街には多くの観光客や冒険者たちで溢れかえっており、元の世界にはない活気が見れた。

 規模も王都と変わらないほどに大きく、年中祭りのような賑わいを見せているのだとか。


「ここはいい場所だ……この匂いはいつでも俺を歓迎し、荒んだ心を癒してくれる……フゥ」


 パラレルワールドとはいえ、スイーツの匂いは変わらずこの街に息づいている。

 魔王討伐の旅が終わったら真っ先にここへ訪れたいと考えていたのだが、人生とは皮肉なものだ。


 ヴィナシスの提案で二手に分かれての行動になり、変なトラブルを起こさないかと心配になったが、とにかくやるべきことに集中することに。


 数分後、ひと通りの情報収集は終わった。

 

「魔術はこれまで通り存在している。……だが、魔導剣士の能力やヴィナシスが使うような権能はないのか。オークキングの話のとおり、魔物を統べるのは魔王ではなく邪神であり、この世を我が物にしようと企んでいる、か。だがあの村に関してはなぜ住民がいなくなったのか不明。……なるほど、ほかにも知り得ない情報がありそうだな」


 噴水前のベンチに座りながら情報をまとめ、この世界に興味を持ち始めとき、ヴィナシスが吞気そうに歩いてくる。

 

「その様子だと、ずいぶん頑張ったみたいね」


「……あぁ」


「私も色々見てきたわ。っていうか凄いわよ。犬耳に猫耳! 獣人っていうんでしょ? アイツらってあそこまで都会派だっけ?」


「……色んな種族がいる。元の世界じゃ森の奥や山岳地帯に集落を作っていたが、この世界じゃ普通に皆と暮らしているんだろう」


「でしょうね。リザードマンも見たわ。元の世界だったら速攻で討伐されるでしょうに。……ん~と、ねぇさっきからどうしたの? ヒトを睨みつけるようにして、感じ悪いわ」


「当たり前だろう。お前、両手に持ってるソレ、なんだ?」


「なにって……クレープ」


「買ったのか?」


「うん」


「……情報収集は?」


「────ここの街のクレープは最高に美味いってこと」


「そうか、それはお手柄だな。実に有益な情報だ気に入った。……だが俺はそれ以上に情報を稼いだ。報酬としてそのクレープをくれるとありがたいんだが?」


 しかしヴィナシスは嫌よとでも言うように、無言で横に隠すような動作をしてクレープをリヒトから遠ざける。

 

「ひとりで食う気か?」


「自分で買いなさいよ。結構安かったわ」


「……ハァ、お前なぁ、状況がわかってんのか? いくら似通った世界だからって、油断は命取りだ。この先だってなにが起こるかわからないんだぞ」


「それぐらいわかってます。でもウダウダ悩んだってしょうがないでしょ。まったく人間って異常なまでに慎重ね」


「自信家なところは変わらないな」


「当然じゃない。私ってば魔王軍最強よ?」


 そう言いながらリヒトの隣に座ると、彼の顔をじっと見つめる。

 魔族特有のルビーのように純粋かつ気高く輝く瞳の中に、リヒトの虚像が浮かんだ。


 ────美しい。

 こうして黙って無表情に近い顔をしていると、殺戮などとはほど遠い、神秘性を孕んだ美少女像そのものだ。


 リヒトは一瞬ドキリと心臓を弾ませたが気を持ち直し、同じく目を合わせて彼女がなぜそうするのかを問うた。


「……どうした。俺の顔になにかついているか?」


「いいえ、ただアナタはよく私のことを知ってるなって……。初めて会ったときからずっと思ってたの」


「……やっぱり覚えてないんだな俺のこと」


「言ったでしょ。アナタとは初対面だって。……でも、やっぱり不思議なものね。パラレルワールドなんかに飛ばされたところに、私のことを知ってる人間とこうしているだなんて」


「そうか……」


「安心なさい。別に殺す気はないわ。この世界から抜け出すまではね。それまではお互い協力関係。……ほら、これあげるから元気だしなさい」


「お、おう。ありがたい。感謝する」


 果物の酸味とクリームの甘さが舌に沁みわたっていく。

 ここへ来て最初の食べ物がクレープでよかったと、吐息を漏らしつつ痛感した。


「美味しそうに食べるわねぇアナタ。そんなに好きなの?」


「愛している」


「へっ?」


「愛しているんだ。この街の、この味を。よかった……この世界の街の名産がもし肉とかだったら……きっと俺は野垂れ死んでいただろう」


「そこまで!? ハァ~、アナタ色々変わってるわね」


「それだけこの街のスイーツは美しいんだ。この味が俺に勇気をくれるといっても過言ではない」


 ヴィナシスは若干引き気味に黙った。

 とはいえ、絶賛したくなるほどなのは彼女も同じだ。


(私のこと知ってたり、スイーツにここまで熱くなったり、ますます変な奴ね。近くにおいておけばもっと役に立つかもしれないし、このまま泳がせとくか)


(知っているようで知らない情報があったりと、初見の場所よりちょっとタチが悪いな。それにヴィナシスの記憶が俺のだけ消えているのも気になる。偶然か? まぁいい。どちらにしろコイツと組むことになった以上、生き抜かなければ)


 時刻は昼を少し過ぎた程度。

 今度はふたりで歩き回ることにした。


 既知と未知が融合した世界の中で、ふたりは思いがけない出会いと冒険をすることとなる。

 そのスタートは、すでにこの街で始まっていた。

短編からの連載作


『光の魔導剣士と魔王軍最強の美少女は、【最高のパラレルワールド】でも抜群の活躍をするようです』


是非ご覧ください!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヴィナシス可愛くて良きですね〜!世界設定も面白い!!共闘しなきゃいけないのってなんか萌えますね
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