魔王と機械仕掛けの勇者
ポエムが書きたくなって書き殴りました
ゆっくりとまぶたを開け周りを確認する、世界には塵が積もれば山となるなんてことわざがあるらしい。
一理あると感じさせる光景が広がっていた。
屑鉄が積もって一山作られ、歪なバランスで保っていたが、時間とともに崩れてまた新たな屑鉄が頂点に乱雑に積まれていく。
大半は上に引っかかることもできず、騒音を立てながら落ちていき、最後に甲高い音を立てて地面に叩きつけられる。
地面に落ちた屑鉄は二度と陽の目を見ることはなく、一生を終える、いや、終わったからこそここに行き着いたのか。
運良く万が一、頂点に残れたとしても次に弾かれたらそこまで、後は転がり落ちるだけで地面という最底辺へ落ちていく。
確かに集まれば山になるだろう、しかしそれに価値はあるのか?
小さい事でもコツコツとやれば山になる、そこに善悪の区別はない、なぜならこうして乱雑に処理したごみ山がいくつも集まってできたのが、不毛の地、廃品解体処理屑鉄投棄場
生き物はおらず、魔物だってここには近づかない、ここにあるのはただのガラクタのみ、最初からか途中からかは判別がつかないが、無駄、無意味、無価値、存在否定の烙印を押され、原型を止めることすら許されない、せめて嵩張らないように朽ちてくれ、捨てた人間の心理はこんなところだろう。
(…………俺は……そうだな………さしずめ人間の形をした塵………)
無価値な屑鉄塗れの世界で唯一、人が眼中に入れてくれる存在かもしれない、邪魔臭いという理由で。
なんとなくそれでも誰か見てくれるだけマシか、そんな歪んだ価値観になんの疑問も持たずに納得する。
俺達はそもそも人間ですらない、いや人間だったが妙な物を体に捻じ込まれ、なんだかよくわからないものにされた、人でもなければ魔物でもない。
神を目指して、中途半端に人の枠を飛び出して、天使どころか、悪魔にもなれず、なら自分達は一体何なのか、彼なりに出したのがさっきの答え。
もしかしたら自身を元人間と思い込んでるだけの化け物かもしれない、ここに来る前の自分を忘れてしまってるのか、それとも最初から人間じゃなかったかもしれない、自身の過去を示す物的証拠など持ってない。
形があり、木材やら硝子よりも硬度を誇っていた、鉄や鋼が今やただのガラクタ、元の姿など面影もない、いや、硬く、一度形を決めてしまえば後は変えづらい、だからこそここまで執拗に潰されるということなのだろうか?
ともかく、有形物ですらこの有様なのだ、最初から形などない無形な記憶などいくらでも歪み、改竄され、無から有にすらなる、さながらいらない物を叩き、潰し、切り刻み、有形物をバラす解体処理工程のよう、一つ違うのは減ることはあっても増えることはないということだけ。
それでも妄想に浸れる分まだ意味がある気がする、無形物にすら負ける鉄と鋼、その事実に辟易する。
何にもわからない俺が自信を持って言えるのはこの世で最も脆いもの、それは鋼と鉄。
硝子も木材も石も、存在を許されるが、鋼と鉄だけは許されず削られ、燃やされ、溶かされ、屑鉄という残りカスになる事すら出来ない物もある。
哲学とも言えない幼稚な考えを頭の中で展開するが、胸の中の憂鬱が増しただけだった。
(……………鉄と鋼なんて……脆すぎる………)
上から他のに比べると巨大な塵が落下してきて奇跡的、または必然的に当たらなかったのか、それすらわからない。
俺と同じ最底辺に落ちてきたものを横目で確認する。
自身と同じ、人間の形を型取った塵、ただ自我あるかないかそれだけの違いしかない。
「………こんにちは……
………何人目の家族かわからないけど……
…俺は…………外の世界に行くよ………
……君を置いていくことを……
……許してくれ……
…こういう時人って……
……君の分までで生きることが葬いになる……
……なんて言うけど……そんなの生者の理屈……きっと俺が君だったら………
こうして見下ろして……
外に出る俺を恨みがましく見るんだろう……
……でも…………それでも…………許してくれ……」
よく見なければ微かにしか光が見えない淀んだ彼の瞳から、雫が落ち、彼が言うには人間の形をした塵の瞳に溜まった後、頰を流れていく、濡れた頰を拭ってあげる彼、しかし、拭われた塵本人は彼のことを光のない空虚な瞳で見ていた、まるで嫉妬と憤怒が織り混ざった末に漆黒に染まった、そんな風に思い込んでしまいそうになる。
瞳ではなく、ぽっかりと空いた穴と言われれば納得できてしまうほど、深淵の色を宿した瞳だった。
これはとある少年の遠い昔の記憶。
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「ーーーなんとか勝てたな」
「そうですね!!」
「やっと世界が平和になる!!」
「帰ったら打ち上げしないとね!!」
「お手柄だぞ、黒鉄!!!」
「………どうも」
激闘の末、魔王を倒した俺達、俗に言う勇者パーティーというヤツだ………勇者の俺、戦士のドアン、魔法使いのチェルシー、聖女のセシア、盗賊のシルフ、皆、この世界を救うため、魔王を倒すために一緒に旅をして来た仲間達は喜びを分かち合う、そしてこの戦いの一番の功労者たる俺を褒め称える。
「「「「ーーーー国に戻ったら早速、黒鉄の解体工程を始めましょうか!!!」」」」
ーーー世界を救った後の勇者なんて用済みな存在はいつも通り解体される………別に魔王は今回が始めてはない、魔王が現れれば俺は造られ、そして倒した後は壊される………魔王を倒すほどの恐ろしい戦力を一国家が持てば、魔王なんていなくてもその戦力を求めて世界大戦が勃発する………折角魔王を倒したのにそれでは本末転倒、だから脅威を倒した後は解体するというのは効率のいいシステムなのだ……。
………このシステムが造られたの初代魔王を倒した勇者、つまり俺が次の勇者の力になればと思い、自分の力全てを魔石に込め、人類に遺した……ほんとは武器の素材とかにしてもらうつもりだったのだが……人類は違う事を思いついた、つまり人体改造した体を用意して、その体に魔石を嵌め込めば勇者を永遠に甦らせ、魔王の処理に使い、倒した後は勇者を解体すれば、世界に永遠に平和は訪れるという訳だ。
ーーーーそして俺は街に着くなり解体される……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーーおお、起きたか、勇者黒鉄!!、さあ魔王を倒しに行くのだ!!」
ーーーーーもう千回を超えたあたりから俺は数えるのを忘れた、世界を脅かす存在が現れば俺は蘇り、それを処理し、処理した俺を人類が処理する。
ーーーーーーーーーーー
「ーーーー負けた…か」
「うん?」
ーーーーー初めて負けた、魔王に負けた、これで世界は終焉を迎える……銀髪、鋭い赤眼、禍々しい見た目、しかしそれゆえに美しい女、魔王は訝しげな声を上げる……
「そうね、あなたの負け………覚悟はいいかしら?」
「………ああ、いつでも良いぞ」
「………潔い男は好きよ」
魔王はトドメとばかりに俺の前に立つ………存在意義を失った俺は投げやりに返事をする………世界が終わるというのに俺はなんだか、少し気分が良かった………ようやく終わりが来たのだと。
「ーーーー私と結婚して!!!!」
「ーーーーはい?」
魔王は俺にプロポーズをしてきた、ご丁寧に指輪まで差し出して。
「ーーーお、おいおい、待て待て待て、なぜそうなる?」
「私が何度も何度も転生しないと倒せないあなたの強さに惚れたに決まってるでしょ!!」
……そういえば魔族といえば基本パワーオブジャスティスな考え方なので、腕っぷしが強いやつがモテる傾向が高いというのはよく聞くが………
「ーーーそれでも俺はお前に負けたんだぞ?、別にとるに足らない存在じゃないか?」
「何回も何回も強さを引き継いで復活してるのに、やっと勝てた相手がすごくない訳ないじゃない!!、今までプロポーズしたくとも我慢してきたんだから!!!!」
「ーーーな、なんでだよ?、別にプロポーズをすること自体はいつでもして良いだろ?」
「何言ってるの!!!、魔族のプロポーズは相手との決闘に勝たなければしてはいけない決まりなのよ!!」
「そ、それじゃあなんで人類を攻撃してたんだ?」
「ーーそ、そりゃ最初は世界を征服するつもりでガンガン進軍してたけど、あなたに倒されてあなたに惚れてからは人類側に積極的に戦争してはないはずよ?、覚えてないの?」
「ーーそ、そういえば、二回目以降は魔王軍は当たりが弱かったような……」
「ーーーーーそれで、どっちなの?、受け入れてくれる?、それとも断る?」
「ーーー悪い、考える時間をくれないか?」
「…………焦らすなんて女泣かせね」
魔王を倒すための勇者は死に、魔王を愛す勇者になったのかは、神のみぞ知る。
尊い