第四話 オオカミとアクマの子
あれから数日。
狼のおかげでアラムの怪我も随分と良くなりました。
アラムが目を覚ますと、狼の子供達が餌の猪を食べているところでした。
『起きたか。お前も食うがいい。』
親の狼はアラムにも果物を用意してくれていました。
まだ狼が怖いアラムは恐る恐るその果物を手に取り食べます。
「あ、ありがと、う、ございます。」
その果物は食べた事の無いものでしたが、みずみずしくて甘いものでした。
『そなたは傷が癒えたらどうするのだ。』
「……。」
『家は?』
アラムはうつむいて首を横に振ります。
『そうか。見つけた時の様子を見る限り察しは付く。』
「……。」
『それにそのツノと羽だ。人間達の中で暮らすのも辛かろう。』
そうだ。僕はアクマの子だから。
みんなに嫌われて、殺されそうになって、捨てられたんだ。
『幸いここは魔物が多く、人間が入れない森とされていてな。そなたから出ている魔力も我等のものに紛れてそうそう見つかるまい。』
『それにここ崖を隔てて人間が決めるところの国境が分かれている。』
「?」
『少し難しかったか。崖の上の人間共はこちらには来れないということさ。』
アラムは少しホッとしたものの、同時にこれからどうなってしまうんだろうという不安が襲います。
『どうだ。しばらくここで暮らしてみては?』
「え?」
『行くあてが無いのだろう?』
「……。」
『さっきも言ったように、ここには人間はやって来ない。それに我等はここの主とされているから、他の魔物達も手を出しては来ないだろう。』
「…どうして、そんなにして、くれるんですか?大きくなったら食べる、とか…。」
『ふふ、そんなガリガリを食べるくらいならその辺で獲物を捕まえた方がマシさ。』
「じゃあ、なんで?」
『さあね。でもあんなボロボロになった子供を放っておけないだけさ。そんな事が出来るのは人間だけだ。』
「…僕は、人間の子じゃないから…。」
『…その角と羽はいつから生えて来たのだ?』
「ハネは、崖に落とされる前、殺されそうになった時…。ツノは、生まれた時からって…。」
『その羽は今はまだ小さいがな。その内それで食べるようになるかもしれない。』
どちらにしても、アラムには他に何をどうすればいいかも分かりませんでした。
「よろしく、お願い、します。」
アラムは狼のお世話になる事になりました。
一方その頃。
しばらく家を空けていたお父さんが帰ってきました。
「ただいま。」
「お帰りなさい!」
「お帰りなさい、お父様。」
「お帰りなさい、貴方。」
家族皆がお父さんに駆け寄ります。
「皆、元気にしていた様だな。ん。ディラン、その首飾り、は…!」
お父さんの背筋がゾクっと凍ります。
「ディラン、その首飾りはアラムのものではないか!すぐに返しなさい。」
「やつはもういません。」
「何?アラムを何処にやった?」
「あのアクマの子ですか?はい、やつは僕がやっつけました!」
「は?どういう事だ…。」
「だから!あのアクマの子は僕がやっつけて、崖の下に落としてやったのです。」
みるみるお父さんの顔が赤くなりました。
「この馬鹿者が!!!!!」
直後に一番上のお兄さんであるディランは殴り飛ばされてしまいました。
お父さんに褒めてもらえると思っていたディランは何が何だか分からず、震えています。
「え、えっ…?」
「貴様、なんて事を…!」
「だ、だって、ツノが生えてるし、それにハネだって、生えてきたし…。」
羽?やはり…。
「貴方、おやめ下さい!」
お母さんとお付きの人達がお父さんを止めに入ります。
「お前がいながらなんという様だ、これは!!」
「いいえ、私がそうさせたのです。」
「貴様…!自分の子供として育てろと、仲良く育てろと、あんなに申しつけていたではないか!」
「だって、貴方が自分の子だなんていって連れて来るから。」
「何ぃ!?」
「あんなアクマの子が隠し子だなんて!ふざけないでちょうだい!だから、私は…!」
「…それで、アラムは何処だ!」
「あの山にある国境を隔てた崖の下です。」
「…!ああ、何という事だ…!」
お父さんは頭を抱えます。
国境を隔てており、ましてや崖の下は凶悪な魔物達が住む森。
生きているとは到底思えません。
兄弟で折り合いが良くないのは分かっていたが、仲良くするようにずっと言って来たのに。
表面上は繕っていて、そこまでとはお父さんは思ってはいなかったのです。
「貴方、少し休まれては…。」
「触るな!少し1人にしてくれ…。」
お父さんは書斎に籠ってしまいました。