2話 転生とその後2
そよ風は風の精霊のささやき声である。とあったのは、何の物語だったか忘れたが、パチパチと音を立てる焚火の側で大地に身を預け、星を眺めるこの瞬間は、本当に人知を超えた超常の存在に身をくすぶられているような安心感と心地よさがあった。
俺が強くなった理由をあいつらに話して間もなく、光輝は訓練してくると言って森へ入っていった。
俺のアドバイスが参考になればありがたいが...
「想像を創造する、か。言い得て妙だな」
自分で言っておいてなんだが、この表現は適切ではない。
例えばさっきのシチュールウ。あれはバターや塩などの材料があったから作れたものだ。
つまり、普通の錬成師としての能力の範疇に過ぎない。
魔力を全ての根源とするのであれば、それは使い手に全て依存してしまうことになる。
例えば、石を創造する、石は自然的に石となるプロセスをすっ飛ばして、俺の魔力によってその存在を具現化している。
つまり、使用者のイメージにブレが生じる、維持に必要な魔力が枯渇する、他の魔力の干渉を受ける。そういった要因で、石としての存在定義があやふやになる可能性があるのだ。
そういった干渉が無いとしても、俺が人間である限り、いずれ俺による存在証明も困難になり、石は魔力の分散という形で空中に霧散してしまう。
だから俺はこれで全てを解決することは困難なのだ。
馬での移動よりも俺の創造で車やバイクを作ってしまった方が早い、しかし、乗っている最中に会敵した場合、途中でその存在......車が霧散して、尚且つ俺の魔力不足で戦えない。なんて状況になってしまえば目も当てられない。
俺の力は万能じゃない。
「人は神にはなれない。か、一体全体、こんな緻密な世界を作り上げ、その存在を証明し続ける神ってやつは何なんだろうな」
思わず独り言ちる。
俺は魔力を全ての元として、ありとあらゆる物質、現象を創造できる。
それは確かに錬成師からの延長線の力だ。
実際、俺は魔法が使えない。
だが、言い換えれば、だ。想像を創造する力によって、全ての魔法を再現することが出来るという事。
俺は気持ちを入れ替える、これはゲームでも物語でもない。
死んだら終わる。俺たちはまだ魔王軍の脅威を知らない、生き残らなくては。
より一層この世界を、自分を理解し、生き残り続けなければならない。
「結城様~~!」
俺がそんな決意を固めてるってのに...
「どうしたんだよティターニア、全く...」
「むっ何ですか一体!こんな美少女が呼びに来たっていうのに!」
自分で美少女って言うなよ......
ティターニアは可愛くない訳ではない、風に揺れる金色の髪の毛も、青く美しい瞳も、名の如く妖精のような可愛らしさを持っている。
だが......
「好みじゃないんだよなぁ......」
「ん? 何か言いました?」
思わず口に出てしまっていたようだ、危ない危ない......
「なんでもないよ、それでどうしたんだ?」
「その、光輝様もどこかへ行っていますし、ええと......」
ティターニアはモジモジとしながら、その白い肌を紅く染めている。
それは決して焚火の明りに当てられたからではないことは、声音や仕草から容易に想像できた。
「ダメだ、そういう事は村や町でしかしないと言ったはずだ。いくら低位のモンスターしか現れないとはいえ、警戒は怠れない」
建前だった。
周囲には俺が結界を展開している為、害意のある何かが接近した場合は瞬時にわかる。
だがしかし、俺は対してこの女、ティターニアに特別な感情は抱いていないのだ、男故の過ちから、お姫様に余計な感情、期待をさせてしまったのは心苦しいのだが......
「早く寝たほうがいい、明日も早いんだから」
「はい......」
ティターニアはシュン、とした様子でトボトボと寝袋の方へ帰っていく。
明日は早くに出発し、セールを目指さなくてはならない、セールに着いた後の予定なども組みつつ、俺は星を見ながら、いつの間にか眠りについていた。
「さて、出発するか!」
焚火は片したし、朝食も取った。
準備は万端だ!だ?のはずなのだが......
「おい光輝、どうしたんだよ? なんかげっそりしてるぞ」
光輝は勇者とは思えない程に何故かげっそりしており、まるで生霊のようにフラフラと馬に跨ろうとしていた。
「うるせえ......よ、寝不足な、だけ、だ」
相変わらず不貞腐れてるやつだ。
ああそうですか、と光輝に吐き捨て自分の馬に跨る。
目指すは商業都市セール!
王都を除けば、この国で最も栄えているという話だ、自然と胸も高鳴る。
だがしかし、やはり馬での移動はロマンを感じるが......
ケツが痛くなるのが偶に傷だな。どこかの鉱山で鉱石をゲットして、車やら何やら作れたらいいんだけど......