98,過ごし方はずっと同じ
店のカウンターに本を広げ、手元には紙とペンを用意してお茶を持ってくるらしいシオンにいを待つ。
店のカウンター、とはいってもお客さんは基本的に来ないのでシオンにいが店番と称してくつろいでいることがほとんどだ。
シオンにいが居座る場所、ということは私が昔からよく居た場所、ということになる。
なのでまあ、私も用事がない時はカウンターに居座って本を読むなり勉強をするなり自由に過ごしていた。
「また色々広げたなぁ」
「シオンにい、これの関連性って何?」
「んー?」
何やら見たことのない色のお茶を二つ持って現れたシオンにいに広げた本を見せると、シオンにいの定位置、私の横の椅子に腰を下ろした彼は文字を目で追いつつお茶を差し出してきた。
受け取って一口飲むと、柑橘系の風味が広がる。
「美味しい……」
「ウラハとモエギが作ったんやって」
「そうなんだ。通りで見たことないわけだぁ」
一緒に渡されたコースターの上にコップを置いて改めてシオンにいを見ると、最初に見せた本とは別の物に目を向けていた。
関連してるもの、と纏められていたから全部読んでみたのだけれど、どこが繋がっているのかいまいち分からなかった本たちを今日は全部広げてみていたのだ。
「あー、これ古いの混ざっとるから分かりにくいんやなぁ。これとこれが同じ事件」
「呼び方変わったの?」
「うん。後は国により歴史により違った、って感じやな」
「これ全部別の国が書いた本なの?」
「どうしてそう思うん?」
「同じ事件ってシオンにいは言ったのに、内容があんまり被ってないから」
質問に対して答えではなく質問を返してくるのはシオンにいの通常スタイルだ。
昔からそうなので、戸惑うことも無く答えるとポスポスと頭を撫でられる。
「国も違うけど、時代も違うんよ。これとこれはおんなじ国が五十年くらい隙間空けて書いたやつ」
「五十年でこんなに内容が変わるの?」
「情報の多さも書き手も変わるかんなぁ。書き手がどの視点で書いたのかも結構重要やで」
「だからこんなにあるのか……」
うちに置いてある本は姉さまが使う薬学系か、そのほかの人が読みたくて集めたものかの二択に絞ることが出来る。
これは多分シオンにいがこの事件を詳細に把握するために集めたものなのだろう。
何に使うのかは知らないけど、時々そうやって急に本が増えるのだ。
ちなみに私の部屋には私が好きで集めている物語系の本が棚を埋め尽くすくらい置いてある。
冒険譚とか読むの好きなんだけど、家にあるのは歴史書とかが多かったから自力で収集するしかなかった。
まあ歴史書も研究記録も魔導書も何でもかんでも読むんだけどね。学校の図書館に入り浸ってはあらゆるジャンルに手を出す日々を送ってるんだけどね。
図書館常在のレースさんからは雑食と称されたくらいだ。
「あ、せや。こないだセルちゃんが欲しがりそうな本見つけたんよ」
「どんなの?」
「古代風魔法解読書」
「読みたい。どこ?手元にある?」
「ちゃーんと買っといたから安心せぇ。今渡すと夜更かししそうやから明日にしよか」
「気になって夜も眠れない……」
「その言い方はマスターやな?」
今くれないならなんで今話題に出したのか。
シオンにいが酷いの……と誰かに泣きついてみようか。
なんて考えていたら後ろの扉が開く音がした。
「ん?なあに?私の話?」
「姉さま」
「セルちゃんの夜更かし防止の話しやでー」
「言われなきゃもっと安眠だったよ」
「思い出したんやもん」
「シオン、あんまりいじめちゃ駄目だよ」
「いじめてへんよぉ」
両手で何かの箱を持った姉さまが器用に作業部屋から出てきた。
箱の中に入っているのは沢山の小瓶のようだ。
「それは新薬の研究?」
「そうだよー。一個ずつ入れて観察することにしたの」
カウンターに箱を置いた姉さまが中の小瓶を一つ手に取る。
わざわざ作ったらしい小瓶の中には確かに花の種が入っていた。
花の種と一緒に入っているのはそれぞれ違う液体のようだ。
「聖水も入れたん?」
「入れたよー。こっちはポーション漬けにしてみた」
「このまま置いとくの?」
「経過観察しつつ色々弄る感じかな。上手くいくと良いけど」
姉さまが失敗しているところを見た記憶はないけれど、たまに「もう嫌だ……」と呟いてソファで潰れていることはある。
それを見たことはあるけれど、あれは薬師的な何かでもう嫌状態なのか、それとも別のことでもう嫌状態なのか分からない。
薬師関連だったとしても、薬造りではなく薬師としての人間関係を嫌がっていたりもする。
なので私の中の姉さまは新薬制作に対して全戦全勝のイメージが強い。
まあ毎回最後には制作出来ているので勝利は勝利だろう。
「上手くいくとええねぇ」
「うん。まあこれだけあれば一個くらい成功するかな」
「成功したら次はどうするの?」
「成功したのと同じ状態の種をいっぱい用意して次の実験が始まります……」
「お、お疲れ様です……」
遠い目をした姉さまがそっと箱を持ち上げて薬の保管部屋に去って行った。
温度が一定に保たれているから経過を見る系のやつは大体保管部屋に置かれるのだ。
「マスターが久々にやる気やねぇ」
「久々なの?」
「自発的にやるんは結構久々やで」
「依頼はあったんだ」
「まあ、最上位薬師やからね」
姉さま以外には作れない薬、なんてのもあるらしいから姉さまは忙しい。
まあ、本当は姉さま以外にも姉さまのお師匠さんが作れるらしいんだけど、薬師会に登録していないから薬師会的には姉さまが唯一なんだとか。
「姉さまのお師匠さん、たまにボロクソ言われてるよね」
「あー、なんかしらを押し付けられたマスターが怒ってる時やな」
「誰も否定しないよね」
「まあ、それが許されるくらい仲ええんよ」
「そういうもの?」
「そういうもん」
そういうものらしい。でも確かに本人の前で文句を言いまくってもそのあとすぐにいつもの調子で話を進められるのは仲がいい証拠なのかもしれない。




