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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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97,穏やかな一日

 雲一つない青空の下、家で食べるための野菜たちが植えられた畑で指定された野菜の収穫に勤しむ。

 籠いっぱいの芋を抱えて湖の方に持っていくと、湖の水面に顔を出している水竜と目が合った。


「こんにちは」

「キュルル」

「姉さまに用事かな?」

「キュル」

「呼んでくるからちょっと待ってね」

「キュー」


 ツルツルとした身体とどこか愛嬌のある顔立ち。

 この水竜という生き物は、姉さま一押しの水中移動性能を持っている。

 キュルキュルとよく鳴いて私に謎のアピールをしてくるあの子は昔からうちによく遊びに来る水竜だ。


 大体の場合姉さまに会いに来ているので、言葉が分からなくてもとりあえず姉さまを読んでおけば間違いない。

 そんなわけで芋の入った籠はその場に放置して作業部屋の窓に向かう。


 コンコン、と窓をノックすると、少ししてから窓が開いて姉さまが顔を出した。

 中からは熱気が溢れてくるので、また何か煮ていたのだろう。

 薬作りはやたらと煮る工程が多い、って姉さま前に言ってたし。


「どうしたのセルちゃん」

「湖に水竜が来てるよ」

「お、そうなんだ。ありがとうすぐ行くよ」


 今日は多分ただ遊びに来ただけなのだろう。

 姉さまには知らせたしこれで私は芋ほりに戻れる。

 なんて考えながら籠を置き去りにした場所に戻ったら、確かに置いたはずの籠がどこかに行っていた。


 ……どこに行ったんだろう。万が一にも湖には落ちない様にとそれなりに距離を取って置いたので水竜のいたずらはということはないと思うのだけれど。

 考えながら辺りを見渡したら、家の方からトマリ兄さんが歩いてきた。


「おいセル」

「トマリ兄さん、籠知らない?」

「これか?」

「それー!なんで兄さんが持ってるの?」

「倉庫に入れてきたんだよ。お前は何してたんだ」

「水竜が来てたから姉さまに知らせてきたの」

「そうか」

「トマリ兄さんも芋ほりする?」

「しねぇ」


 手に持った籠を返された。芋ほりする兄さんはあんまりイメージ出来ないけど、元はオオカミなのだし意外と楽しんでくれる気もする。

 まあ、断られたし何かを察して圧をかけられたのでそそくさと退散するけれど。


 芋ほりに戻る途中で姉さまが家から出てくるのが見えた。

 すぐに行く、とは言っていたけれど、作っていた薬は大丈夫なのか。

 もしかしたらコガネ姉さんが代わりにやっているのかもしれない。


「セルちゃーん」

「サクラお姉ちゃん。どうしたの?」

「ウラハが木の実の収穫手伝ってほしいって」

「分かった。じゃあこれ、芋入れ用の籠」

「はーい!」


 交代!と元気よく去って行ったお姉ちゃんを見送り、私は木が植えられている区画に向かう。

 果樹園、と言ってもいいのではないかと思うくらいの量があるけれど、果樹ではないから何と呼べばいいのか分からない。


 姉さまたちは木の所、とか呼んでたなぁとぼんやり考えながら歩いていき、既にいるのであろうウラハ姉を探す。

 あたりを見渡しながら木の間を歩いていたら、上から声をかけられた。


「セルちゃん、上よ」

「ウラハねえ。なんの収穫?」

「ハイポーションの実よ。成熟前の実が欲しいってマスターが言ってたから、十個くらい取って持って行ってくれる?」

「うん、わかった」


 木の上に腰かけたウラハねえから籠を受け取り、ハイポーションの木に向かう。

 いつも使っているロングステッキは置いてきたので、懐から予備にしているタスクを取り出した。

 籠の持ち手に腕を通して、その手でタスクを握って風を起こす。


 このタスクは使い慣れているし、風を起こして木の実を収穫する程度は軽々こなせるスペックのものなのでいつもよりちょっと身軽に収穫予定の木に近付いた。

 成熟前の実、ということでいつもなら取らない様に避ける実を探す。


 ウラハねえから渡された籠の中には収穫用の鋏も入っていたので見つけた実から回収していって十個目を回収したところで足元の風を霧散させた。

 木の上程度の高さからなら魔法の補助がなくても着地は余裕だ。


「姉さまー?」

「お、どしたのセルちゃん」

「ハイポーションの実のお届け……だけどお話し中だった?」


 作業部屋に行く前に湖を見てみたら片手を水に浸けた状態で水竜と話している姉さまがいた。

 姉さまは動物と話が出来るので、この状態はまさしくおしゃべり中だったのだろう。

 どうやって聞こえるのかと聞いたら、普通に話してるのと同じだよ、と言われたのを覚えている。


「ううん、そろそろお開きにするところだから大丈夫だよ。ありがとうねー」

「これで大丈夫だった?」

「うん。流石セルちゃんちょうどいい成熟具合」

「これは何に使うの?」

「昨日買った花の種と合わせて新薬の研究に使うんだ」


 立ち上がった姉さまに手を振るようにクルリと回って水の中に潜って行った水竜を見送り、姉さまにハイポーションの実を渡す。

 新薬研究の手順は完全に思いつきらしいから、今回も急に思い立って収穫を頼んだんだろう。


 ポーションの実じゃなくてハイポーションの実な当たり何か理由があるんだろうか。

 多分聞いても分からないので聞かないでおくけど。

 ともかくこれでウラハねえから頼まれたお手伝いは一旦終わりだ。


 芋ほりが終わっていなければそちらを手伝いに行くけれど、もうそろそろ終わった頃だろう。

 とりあえず行ってみよう、とそちらに足を向けて、作業部屋に戻っていく姉さまと別れる。


「あ、セルちゃん!」

「おかえりなさい。こっちももう終わるから、全部運んだらおやつにしましょうか」

「わーい!」

「はーい」


 今日のおやつは何だろう。昨日の夕飯時に出てきたタルトはあれで最後だと言ってたから、他のものなのは確かだけれど。

 そういえばモエギお兄ちゃんを途中から畑で見かけなくなったので今まさに作っているところなのかもしれない。


「さあ、残り終わらせましょう」

「おー!」


 元気よく拳を突き上げたお姉ちゃんに続いて拳を作り、そっと空に向けておいた。


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