95,便利で面白い道具
上空から現れた巨大馬車が着地する場所を空けるために家の傍に駆け寄り、避難が完了したところでコガネ姉さんが馬車に大きく手を振った。
馬車が地上に降りてくるのと同時に玄関から姉さまが出て来て、着地した馬車から顔を出した女性に駆け寄る。
「チグサさん!」
「やあアオイちゃん!久しぶりだね」
「お久しぶりですー!」
「セルリアちゃんも久しぶり。前回来た時に君は居なかったからね」
「お久しぶりです。学校に通い始めたもので」
軽く話している間に馬車から続々と人が降りはじめ、流れるような手さばきで馬車をお店の形に動かした。
片側の壁がたたまれてカウンターのようになり、移動型万能店アジサシの看板が掛けられる。
馬車が店舗に早変わりしている間に馬車を引いていた二頭の馬の手綱が外れてのんびりと敷地内を歩き始め、いつのまにやら箱詰めされたポーションを取りに行っていたらしいコガネ姉さんが戻ってきた。
「札が付いてたのだけ持ってきたけど、これで合ってる?」
「うん、ありがとうコガネ」
ふわふわと周りに浮いた木箱が一か所に纏めて降ろされ、姉さまとチグサさんのチェックが済んだ順に馬車の中に運ばれていく。
その横でサクラお姉ちゃんとモエギお兄ちゃんが二頭の馬と戯れていた。
……二人はアジサシさんの馬と仲が良いんだよね。
姉さまによると、昔旅をしていた時は小鳥の姿で馬の頭に乗っていたりもしたらしい。
その状態で話もしていたというから音ではない会話というのは便利だ。
「ああ、そういえば。セルリアちゃんに見せたい物があるんだ」
「私に、ですか?」
「うん。きっと、君が持っていた方が役に立つだろうから」
チグサさんは、時々よく分からないことを言う。
それでも、差し出されるものが役立たなかった試しがないので一応シオンにいに確認を取ってから手招きしているチグサさんに近付いた。
手渡された箱を開けると、中にはかなりしっかりした厚みと幅があるブレスレットが入っている。
私が持っていた方が役に立つ、ということは何か魔道具なのだろうか。
……魔力は、感じないけれど。
箱から取り出して手に取ってみても、やはり魔力は感じない。……魔道具じゃ、ないのかな?
とはいえただの飾りを訳あり気に差し出すような人でもないだろうし……
考えながら弄りまわしていると、三色に分かれた帯の中央の色が若干動くことに気が付いた。
何かすると、この部分が外れるんだろうか。
ちょっと魔力を込めてみたりしながら弄ったけれど、結局分からなかった。
「ふふ。中央の色と同じ飾りが付いているだろう?」
「……あ、これですか?」
「そう。それを同時に押して」
両サイドに付いている小さな宝石のような飾りの色を確認して、言われた通り中央の色と同じものを押す。
軽く押しただけでは反応せず、それなりに力を入れたところでカチッと音がして中央の帯が真っすぐに伸びた。
「えっ!えっ!?」
「あはは!じゃあ次はその伸びた部分に杖の柄を当ててごらん」
「はい……当てました、けど」
「その状態で魔力を流して」
言われた通りに杖に魔力を流すと、帯が杖に巻き付いた。
驚いてブレスレットを持った手が離れたけれど、杖にくっついて落ちずにとどまっている。
杖に巻き付いている部分とブレスレットの部分は、外れはしないけれど向きは変わるようだ。
「もう一回飾りを押すと離れるよ」
「……お、面白いですね」
「ボクも最初に見た時は思わず笑っちゃったよ」
着けてみてもいいかと聞くと、もちろん、と気持ちのいい返事が返ってきた。
どうやら付けた後に少しだけ太さの調整が出来るようで、すっぽ抜けない程度に調整してもう一度杖を巻き付ける。
「……おお……すごい……」
「飛行魔法を使っている際に杖を落としてしまわない様に、って考えられたものなんだって」
「そうなんですね。確かにロングステッキはうっかり落とす、とかよく聞きます」
「君は特に飛行魔法が好きだったろう?持っていたらいいんじゃないか、と思って」
確かにこれならうっかり手が離れても杖が手元から離れることがない。
魔導器から手が離れたら魔法の発動は止まってしまうけれど、もう一度掴み直せる場所にあるのだからリカバリーも出来る。
……思っていた以上に便利なものだった。
あと動きが面白い。
「ええやん。セルちゃんこれから戦うこともあるやろうしなぁ」
「そうね。ただの移動ならともかく、戦闘中に飛んでいて落ちた、じゃ大ごとだもの」
「おや、戦闘に出るのは反対なのかと思っていたよ」
「怪我はせんで欲しいけど、戦い慣れんと自分のことも守れんし」
「マスターは基本的にじっとしてるから守ってくれる人が多いけど、セルちゃんは自由に動く方が好きだものね」
少し離れたところから見守っていたシオンにいとウラハねえが寄ってきて、私の頭を撫でながらチグサさんと話し始める。
私が姉さまと違って戦闘に消極的ではないことは、多分もう皆分かっているんだろう。
攻撃魔法を専攻科目に選んだ時点で分かり切ったことではあったんだけどね。
それでも、シオンにいは反対してきたりするかなーとも思っていた。
私に甘々だから忘れていたけど、実は結構現実主義だったのを今思い出したところだ。
「んで、これ値段は?」
「代金の代わりに、ちょっと知りたいことがあるんだ」
「あら何かしら。分かる事ならいいけど」
「君たちなら分かることだから大丈夫だよ。この星が一度に現れる日を知りたいんだ」
流れるように買い与えられていたし、流れるように取引が纏まっていた。
……これ、もしかして星の情報が欲しいからこのブレスレットを持ってきたとかあるのだろうか。
いや、それだけなら普通に聞くだろうし考えすぎだとは思うけれど。
「あー……これ出るまでに時間かかるで?」
「分かってるよ。だから知りたいんだ」
「滅多に揃わんしなぁ……ちょっと待ってな」
「うん」
星の名前が書かれているらしいメモをもってシオンにいが家の中に入っていく。
調べに行ったのだろうか。星はシオンにいの専門だから手伝えることも無いし、私はウラハねえとチグサさんのおしゃべりを邪魔しない様に暇そうにしているトマリ兄さんに近付いた。
「ん?話終わったのか」
「じゃーん」
「なんだそれ」
聞いているのかと思ったけれど聞こえてはいなかったらしい。
見せた方が早いからとブレスレットに杖を付けると、面白れぇなと感想を返された。




