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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
93/477

93,伸びた髪

 朝日が窓から入ってくる。

 もそり、と身体を起こして部屋の中を見渡し、そういえば家に帰ってきたんだ、と思い出す。

 ぼんやりした頭で実家での行動を思い出しながらとりあえずベッドから降りる。


「……ああ、着替え。どうしよう」


 普段は特に何も考えないで制服を着るのだけれど、家に帰ってきているわけだしクローゼットの中から選ばないといけない。

 まあ適当にスカート選んで色味の同じブラウスを着るだけなんだけども。


 欠伸を噛み殺しながら寝間着を脱ぎ捨て選んだ服に着替え、髪は弄らず部屋を出て一階に降りる。

 髪留めは手に持ったのであわよくば朝食待ちをしている誰かが結んでくれるだろうという魂胆だ。

 起きていて暇で私の髪を結んでくれそうなのはシオンにいだろうか。


「おはようウラハねえ」

「おはようセルちゃん。お茶を淹れるところだけど、飲むかしら」

「うん。ありがとう」


 淹れてもらったお茶を受け取ったところで、食材を持ったモエギお兄ちゃんがキッチンに入ってきた。

 手伝うことはあるだろうか、と考えたところで後ろから頭に何かを乗せられた。


「んえ?あ、おはようシオンにい」

「おはよう。まだ眠そうね?」

「おはようさん。何飲んでるん?」

「レイクレンよ。シオンも飲む?」

「貰うわぁ」


 頭に乗せられたのはシオンにいの手だったらしい。

 眠そうに欠伸をしながらお茶を受け取ったシオンにいは私の髪をじっと見つめて、指先で髪を弄り始める。


「シオンにい?」

「んー?」


 声をかけても聞いているのかいないのか分からない返事しか返ってこない。

 なんだろう。一応梳かすだけ梳かしてはきたけれど、何かそんなに気になることでもあるのだろうか。


「シオン、セルちゃんが困ってるわ」

「んー……」

「一撃入れたら目も覚めるんじゃない?」

「もう目ぇ覚めたわ」

「おはようコガネ姉さん」

「おはようセルリア」


 拳をにぎにぎしながら現れたコガネ姉さんにシオンにいが身を引き、コガネ姉さんに髪を撫でられる。

 ……今日は皆私の髪を撫でたくなる日なのかな?


「セルリア、髪伸びたね」

「あー……そういえばもう一年くらい切ってないかも」


 前の休みが明けた時に前髪が伸びて邪魔だったので自分で適当に切ってしまったのだけれど、そこから半年経っているのだから髪も伸びるだろう。

 前髪は切ってから半年だけど、後ろ髪は一年間伸びっぱなしだし。


「シオンにい、それで撫でてたの?」

「いや?いい手触りやなぁって」


 シオンにいは私のことを何だと思っているのか。

 まあ別にいいけれど、無言で撫でられる側の気持ちにもなってほしい。

 ……いや、私もシオンにいが猫の姿の時は無限に撫でていたりするけど。


「前髪くらいは整えようか?」

「うん。後ろはまだこのまま?」

「いざとなったら魔道具の材料にもなるし、ある程度は伸ばしたままの方がいいと思うわ」

「じゃあ、このままにしとく」


 髪や爪は個人の魔力を宿したまま切り離せるし新たに伸びてくるので魔道具の材料にしやすいのだ。

 他にも切り離された髪を媒体に魔法を発動させたりもできるので、魔法使いは性別を問わず髪を伸ばしがちである。


 私もウラハねえから伸ばした方が何かと便利、と言われて伸ばしていたし、今回もそれは変わらない。

 急ぎで道具を作る必要もないので前髪以外は伸ばしたままになるだろう。


「でも邪魔やない?」

「慣れてはいるけど……」

「後ろ髪を切るようならセルちゃんの危機を知らせる道具でも仕立てようかしらね」

「なんでそんな大層なものをついで感覚で作るの?」


 普通それを作るから髪を、となるはずなのに何故髪を切るなら作ろうか、になるのか。

 これが種族の違い……なんて内心震えている間に朝食の支度が進んでいき、コガネ姉さんが姉さまを起こしに行った。


 配膳を手伝っている間に姉さまが降りてきて朝食になり、髪を切るからついでに道具を、という話が当然のように容認される。

 姉さまも感覚がおかしいんだった。というか、ウラハねえ達の感覚に毒されているんだった。


「あ、それとは別なんだけどね、多分今日アジサシさんが来ると思うから欲しい物とかあったら言ってね」

「アジサシさんから連絡来たの?」

「近々行くよーってちょっと前に言われてたんだ。今日な気がする」

「なるほど」


 アジサシさん、というのは「移動型万能店アジサシ」というお店のことだ。

 世界中を旅している旅商人であり、そこらの宿の一室より広いのではないかと思うような大きな馬車がお店になっているのでかなり有名な人たちだ。


 姉さまとは独立前からの知り合いらしく、時々第三大陸のガルダまで行くのに乗せてもらうこともあった。

 リコリスには薬の仕入れに来るのだけれど、ついでに買い物もさせてくれるので普段家から出ようとしないシオンにいなんかは来るのを楽しみにしている。


 私も絵本を買ってもらったり馬車を引く二頭の馬に遊んでもらったりと楽しい思い出が多いので会えるのは楽しみだ。

 ……ただ、店主であるチグサさんの見た目が昔から全く変わらないことだけがずっと疑問ではあるけれど。


「今回は仕入れだけして泊まらずに行っちゃうみたいだから必要なもの思い出してね」

「それでマスターここしばらく薬の作り置きしてたんか」

「え、むしろなんでだと思ってたの?」

「セルちゃん来るから思いっきり遊ぶんかと」

「……やっとけばよかった……!」


 本気で後悔していそうな声を出した姉さまを横目に朝食を食べ終えたトマリ兄さんが早々に席を立ち、その後各自食事を終えて自分の作業に向かって行く。

 姉さまも何だかんだ言いつついつも通り食べ終えて作業部屋に去って行き、私は食器の片づけを手伝うことにした。


 食器の片付けが終わったらウラハねえが髪を整えてくれるらしいので、それが終わったくらいでアジサシさんが来るだろうか。

 私は取り急ぎ買わないといけないものはないけれど。シャムが最近竜の本を探しているらしいのでもしあったらそれを買いたい。……まあ、値段によるけどね。


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