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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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92,入れ替えの休み

 ただいま!と元気よく声をかけると、姉さまはパッと表情を明るくして駆け寄ってきた。

 一つに纏められた髪がふわふわと揺れ、ついでにスカートの裾も揺れる。


「おかえりセルちゃん!早かったね」

「モエギお兄ちゃんと競争してきたの」

「へえ、珍しいね?モエギ」

「セルちゃんが楽しそうだったので、つい」


 いつの間にか人の姿を取っていたモエギお兄ちゃんが照れ臭そうに笑い、姉さまがその頭を撫でる。

 なんてことをしていたら家の中からシオンにいが出てきた。


「おー、セルちゃん。おかえりー」

「ただいまシオンにい」

「荷物置いといで。中でゆっくりお話ししよー」

「うん」


 促されて家の中に入り、荷物を置きに部屋に向かっている途中でウラハねえを見つけた。

 お茶の準備をしているところだったらしく、荷物を置いて手を洗ってくるようにと言われる。

 返事をして早足に部屋へ向かい、荷物を適当に片付けて一階に戻ってきた。


「セルちゃぁーん!」

「わあ、サクラお姉ちゃん!」


 一階に降りると桃色の塊が飛び込んできた。

 受け止めてクルリと一回回り、そのまま一緒に手を洗いに行く。

 ちょっと覗いたキッチンではお茶の準備が進んでいたから、休みの予定なんかを話しながらお茶会になるんだろうか。


「さあ、コガネたちが戻ってくるまでセルちゃんの学校生活について聞こうか」

「姉さま、なんでそんなに張り切ってるの?」

「気になるから!授業は何を取ることにしたの?」

「専攻は攻撃魔法。選択は魔法回路と鑑定にした」

「あら、薬学も星読みも取らなかったのね」

「うーん……興味はあるけど、家に帰ってくれば話聞けるしね」


 実用性を取った、というのもあるけど。

 選ばなかった方の選択肢である薬学と星読みは、アオイ姉さまとシオンにいから話が聞けるし昔から見ていたことだから選ぶ必要性を感じなかった。


 鑑定はもともと興味があったし、魔法回路はよく遊びに行く研究室の関係で少し話を聞いたこともあって選ぶのにためらいは全くなかった。

 今から授業が楽しみ、なんて呟いてお茶を飲むと姉さまたちからは微笑まし気な目を向けられる。


「そうだ、セルちゃんに聞きたかったことがあってね」

「学校のこと?」

「ううん、セルちゃんのお友達のこと」


 普段なら楽しそうに聞いてくる内容なのに、姉さまの表情は真剣だ。

 この目は、仕事のことを考えている時とかによく見る目。

 なんだろうか。薬に関わりのある友人、は記憶にないのだけれど。


「ソミュールちゃんなんだけどね」

「ソミュール?何かあるの?」

「種族的な問題を薬である程度解決できないかなーって考えてるんだよねぇ」

「……寝ない様に、ってこと?」

「うん。睡眠薬の逆バージョン。夢魔族にどれだけ効くかは分からないけど」

「出来たらすごいね……!」


 戦いの最中に眠ってしまうとソミュールも周りの人も危険に晒される。

 それが防げるなら、行動の幅が一気に増えるはずだ。


「まあ、まだやってみようと思ってるだけなんだけどね。夢魔族のこととか全然知らないし」

「それでソミュールの話なんだね」

「うん。種族的なあれこれはコガネに聞けばいいだろうから、とりあえずソミュールちゃんの話が聞きたいな」


 姉さまの薬作りはどんな情報が必要になるのか全く分からないので、とりあえずソミュールの日頃の様子から話すことにした。

 休みの間ソミュールはフォーンに居るし、姉さまが直接話を聞きに行くことも出来る。


 すぐには完成しないだろうけど、できるのなら本当にすごいことだ。

 それに休みの間に作り始めるのなら、ちょっとだけでも姉さまの新薬制作を見ることが出来る。

 何をしているのかは全く分からなくても、窓越しに見ているだけですごく楽しいのだ。


「寝るのって突然なの?」

「突然の時もあるし、何となく寝そうってソミュールが分かってる時もあるよ」

「授業中に突然寝ちゃったら倒れる感じなの……?顔擦りむきそう」

「なんか魔力が緩衝材になるらしくて、怪我とかはしないの」

「なにそれすごい」


 お茶を飲みつつ夢魔族……というかソミュールの生態について話している間にいつの間にか日が暮れはじめ、ウラハねえとモエギお兄ちゃんが夕飯の支度をし始めた。

 その香りにお腹が鳴ったのと、外で出店が帰ってきた音がしたのが大体同時。


 外で音がしているので勝手口から外に出て、荷物を運ぶところだったらしいトマリ兄さんの背中に飛びついた。

 予想していたのかよろめきもしなかったトマリ兄さんの後ろからコガネ兄さんが顔を出す。


「おかえりセルリア」

「急に飛びつくな。あぶねえだろ」

「ただいまー」

「聞けよ」


 わしゃわしゃと頭を撫でられて、昔のように歓声こそ上げはしないがとりあえずされるがままになっておく。

 コガネ兄さんはその間に今日の売り上げを姉さまに報告しに行ったようで、いつのまにやら家の中に移動していた。


「今日の飯なんだ?」

「鳥の香草焼きって言ってたよ」


 そんな話をしながら荷物を運ぶのを手伝い、全て運んだあとは手を洗ってきて夕飯になった。

 久々に食べる家の料理は非常に美味しく、なんだかんだ私は食堂の料理に満足していなかったのかも、なんてぼんやりと考える。


 食堂のご飯も美味しいのだけれど、やっぱり家のご飯が格別すぎるのだ。

 モエギお兄ちゃんとウラハねえは一体どこで料理を学んだのか。昔聞いてみたけれど、いつの間にか出来るようになっていたから学んだわけではないと言われてしまった。


「主が新薬を考えてる話はもうしたんだ」

「うん。さっきね」


 夢魔族の眠りに対する話は姉さまの中ではそれなりに優先順位が高いことだったらしく、少し前からコガネ姉さんとトマリ兄さんに資料集めを頼んでいたらしい。

 私がソミュールと仲良くなって手紙に夢魔族云々を書くようになって初めてしっかり夢魔族という種族を認識したらしく、今後書斎に夢魔族関連の本が増えることになるみたい。


 姉さまは知っていることと知らないことの差が激しく、関わったことのない種族は大体知らないことの方に入っている。

 でも一回興味を持ったらかなりしっかり調べるから、今後姉さまは夢魔族にやたら詳しい人となるだろう。


 そんなことを話しつつ夕飯は進み、最終的には私の休みの間にどこへ行く、誰が来るらしいという話に変わる。

 今回もまた忙しく楽しい休みになりそうだ。


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