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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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90,長い話と休みの話

 晴れ渡る空の下、並べられた椅子に腰かけた生徒たちを見渡して普段は姿を見ない学校長が壇上に現れた。

 長々と続く話を聞き流しながら、セルリアはそっと空を見上げる。


 今日は卒業式、と位置付けられた行事のある日で、四年生の先輩たちが学校から去って行く日である。まあ、一部色々あって来年も学校に残る人が居るらしいけど。

 そもそもその学年の先輩とは知り合っていないので馳せる思いも何もなく、ただぼんやりと話を聞き流すだけの時間が過ぎていった。


 そんな暇な時間に思い出すのは、昨日行った来年の授業選択のことだ。

 メインに据える授業を一つ選ぶだけなのかと思ったら、二択の中から選んでいく形式の授業がいくつかあった。


 研究室の方でやっている授業を選んで取れる、という説明を聞いて一人舞い上がっていたのだけれど、そもそも選択肢に入っていないものもあるし受けたい授業二つからどちらかを選ばないといけないし、で結構悩んでしまった。


 あとで聞いたことだけれど、研究職の方でも戦闘職の授業から選択式で選べる授業があったらしい。受けられないものだと思っていたから嬉しい、と二人が言っていた。


 ちなみに選択肢の数が戦闘職の方は二択だったのに対し、研究職の方は三択だったらしい。

 戦闘メインで動かない予定の人がなるべく自分の利益になるものを選べるように、という配慮だろうと予想はしたけれど、実際なぜかは分からない。


 ……なんて、暇つぶしに回想までしてみたのに話は終わらない。

 何をそんなに話しているのか、というかそんなに話す必要はあるのか。

 この話を真面目に聞いている人はどれくらいいるのか。そんなことを考えている間にどうやら話は終わりの気配を見せ……たのにまだ終わらない。


 何故。どうして。こっそり確認した時計によればもう二十分くらい話し続けているんだけど、まだ終わらないのか。

 もう魔法飛ばして遊んでたいくらいなんだけども。


 まあ流石にそれはしない方がいいだろうから、空を眺める以外の暇つぶしを急いで考えないといけない。

 ……おや、斜め前の方にリオンが居る。すごい眠そう。見つけたついでにリオンを眺めて暇を潰すことにしよう。


 あのままだと椅子から落ちそうな気がするのだけれど、リオンは体幹がやたらしっかりしているので多分寝落ちてもあの体勢のままだろう。

 ……あ、寝た。今、絶対寝た。首がガクってなったもん。


「以上を持ちまして、挨拶とさせていただきます」


 リオン起きないなぁ、なんて思っていたらついに長い話が終わりを迎えた。

 というか、これ挨拶だったのか。こんなに長い挨拶があっていいのか。

 そういえば、入学式でも同じことを思ったような気がする。


 姉さまが来賓の挨拶は真面目に聞く必要はないよ、聞き流しなさい。と言っていた理由が改めて分かった気がする。

 なんて一人頷いていたら、別の人が壇上に上がった。


 ……え、もしかして、もう一人いるの?また長々話すの?

 なんて戦々恐々としていたら周りがざわつき始めた。

 うん、やっぱりみんな終わりだと思ってたよねぇ、なんて思ったけれど、どうやら違うらしい。


 皆壇上に上がった人に驚いているようで、それに釣られてちゃんと壇上を見ると国王様が立っていた。

 確かにこの学校は国立だし、管理は国がしているわけだし、つまりは王様の持ち物なので挨拶に現れたとしても不思議ではない。


 私としては話が長くならなそうで嬉しい限りだ。

 この国は魔王を倒した勇者が造った国。そしてその勇者様が現国王であり、実は私は何度か会ったことがある。


 勇者様と姉さまが結構古い知り合いらしく、その関係でフォーンの王城について行ったことがあったり、そのまま勇者様改め国王陛下とお茶したこともある。

 姉さまの知り合いに第四大陸の王族が多すぎる気がする。なんなら第四大陸の王族全員知り合いみたいなところあるし。


 まあそんなわけで私はフォーンの王様に対してそんなに委縮しないし、無駄に長い話はしない人だと知っているのでとりあえず座り直して聞く態勢を整える。

 流石にここで聞いてないのが丸わかりな態度を取るのはどうかと思うからね。


 ところで、リオンは寝たままなのだけれどあれは良いのだろうか。

 横にいるのが誰かは分からないけど、出来れば起こしてあげてほしい。

 ……あ、ヴィレイ先生がリオンの方見ている気がする。これは終わってからお説教かな。


 うん、そうみたいだ。ヴィレイ先生、呆れた顔でため息を吐いてる。

 そのまま隣にいたノア先生と何か話して、リオンの方を指さして……ノア先生が杖を構えた。

 そして放たれたるは極小の氷。それが真っすぐリオンの方に飛んで行って、首に当たって溶けた。


 びくりと身体を震わせて目を覚ましたリオンは慌てて周りを見渡し、先生に睨まれていることに気付いてそっと目を逸らす。

 その一連の流れを全て見ていた私は笑いを堪えるのが大変である。


 ぐっと噛み締めた唇が痛くなってきたので国王陛下の話に集中しよう。

 そう決めて腹筋に力を入れ、リオンから視線を外して壇上に目を向けた。



 その後、卒業式は無事に終了し、休みに入る前の最終確認、ということで教室に集合しろという号令がかかった。

 移動を始めた生徒を横目に見ながらリオンに近付くと、気配で気付いたのか声をかける前にリオンが振り向いた。


「お、セルか」

「おはようリオン」

「げぇ……見てたのかよ」

「笑いを堪えるの大変だったよ」

「このやろ……」


 座ったままだと普段は見えないリオンのつむじが見える。

 ……押しとこう。なぜと言われたら意味はないのだけれど、何となく。

 なんだよーという文句は聞こえなかったことにして、完全に寝ているソミュールを運ぶミーファを手伝うことにした。


 休み前の最終確認、というのは多分半年前の休みと同じ感じだろうから、時間はかからないだろうと思う。

 今日の残りの時間が自由時間になるならロイとシャムを捕まえて予定を詳しく聞こうと企んでいるのだけれど、どうなるだろう。


「また一ヵ月別々になっちゃうね」

「今回は休みの間にフォーンにも遊びに来ようと思ってるから、結構会えるかもよ」

「あー、セルお前、前回は来なかったくせに」

「休みの過ごし方も分かったから、だよ」


 どういうふうに過ごして、どれくらい自由に動けるか、というのは前の休みに分かったし、姉さまたちも私がいない状況に慣れたようだ、とコガネ姉さんから手紙が来ていたし。

 それに、休みの間暇で暇で仕方なかったのだとリオンが騒いでいたし。


 そんなわけで明日から始まる休みの間、時々フォーンに遊びに来ようと思っているのだ。

 ちなみにそんな計画を手紙ですでに伝えているので、遊びに来る予定の日程一覧も制作が終わっていたりする。


 そんな話をしながら人の流れに乗って教室に向かい、その途中でリオンがヴィレイ先生に捕まった。思い切り笑ったらリオンに軽く殴られたけど、私は悪くないと思う。


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