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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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89,パーティーの準備

 立てかけておいた杖を持って、そっと魔力を巡らせる。

 使うのは風と光、そして音の魔力。

 難易度的にはかなり上位のものなので、演唱を略すことは出来ない。


 構成魔力に風が入っているから、私はまあ扱えるほうだろう。

 風の精霊に加護を受けているので風単体の魔法なら何でも扱えるのが私なのだけれど、他が二種入っていると絶対に成功するとは言えない。


「我見るは遠方の空、碧落の風。聞こえる音は何処より、見える景色は何処より。風よ巡れ、光よ走れ、音よ届け、我求むは彼方の景色。我差し出すは此方の魔力。望むべくは汝が眼、一時我に貸し与え給う」


 ふわり、と体の周りに風が起こった。

 小さな光がその風に混ざって、杖の先端に集まっていく。

 ……成功、したみたいだ。


 杖の先端に集まっていた風を操って、扉の隙間を抜けて広間に向かわせる。

 今、私の視界は風と光の中心にあるので、ミーファがどんな顔をしているのか分からないのだけが残念だ。


 ちなみに私の目の前には光のレンズというか、光で出来た歯車型のモノクルみたいなものが複数個展開されているはずである。

 そのレンズを通して私の今の視界、風と光の中心を見ている感じ。


 杖を動かして風の行く先を決めて、その場所の光景とちょっとした音なんかを拾うための魔法。

 難易度は高いし発動中自分の状態は分からないけれど、遠くの偵察が出来るのでかなり便利な魔法なのだ。


「……ああ、やっぱり準備が始まったみたい」

「み、見えるんだ……!」

「うん。えーっと……食堂の方から噴水のあたりまで整備されてるね」


 しばらく続くだろうか。……というか、当日に整備するのか。

 ノア先生が魔法で一気に物を動かしているのを見ると、まあ朝から始めれば夜までには終わるんだろうとは思うけど。


「……あ、気付かれた」

「えっ?」

「ノア先生に見つかったみたい。笑顔で手振ってるから多分怒ってはいない、かな」

「見てるって分かるものなの?」

「魔視で見つけられるらしいけど……結構馴染んでるはずなんだけどなぁ」


 これは魔法使いとしての慣れの差だろうから嘆いてもどうにもならない。

 そのまましばらく中庭を見て、ある程度準備が進んだところで魔法を解除して視界を部屋に戻す。

 風が収まるのを待って目を開けると、ミーファが目を輝かせてこちらを見ていた。


「さっきの、どうやってたの?」

「風に他の魔力を乗せて、見たい場所まで光を持っていく魔法だね」

「光を持っていくの?」

「うん。光の魔力は物を見るのに使えるから」

「そうなんだ……」


 私の練度が高ければ他の人にも同じ光景を見せることが出来るのだけれど、まだそのレベルにまでは到達出来ていない。

 ……というか、そもそも成功率が四割程度なのでまずはそこから練習が必要だ。


 いつかちゃんと出来るようになったらミーファにも風の視点をお届けしよう。

 そんなことを心に決めてとりあえずミーファの頭を撫でておく。うーん、モフモフ。

 彼女が撫でられて心地よさそうに目を細めているから手を止められないだけであって、私が耳のモフモフを堪能しているわけではない。


「終わるまではまだかかりそうだけど、防音壁張ってみる?」

「そんなことも出来るの?」

「音魔法は一部風で代行出来るんだよ」

「そうなんだ……」


 風の壁を作っておくと音を通しにくくなるというだけ、なのだけれど、まあ防音としてはそれなりの性能だろう。

 私にはあまり違いが無くても、ミーファにとっては大きな差かもしれないし。


 この部屋を覆うくらいなら杖は予備として持っているタスクの方で事足りるだろうから、メインの杖は立てかけておく。

 代わりに懐からタスクを取り出して軽く振るって風の膜を作る。


 ……うん。少しはマシになったかな。

 ミーファにどうか聞いてみると、音が小さくなった!と耳をピコピコさせているのでちゃんと効果はあったようだ。


「さて……お茶の追加はいかが?」

「わぁ……!いただきます」


 そろそろお茶もなくなる頃だろうとティーポットを持ち上げて首を傾げて見せると、ミーファは笑いながら自分のカップを持ち上げた。

 お湯を沸かしつつお茶の好みを聞き、とりあえず同じものでいいだろうと準備を進める。


 茶菓子も棚から出してきて、ここからは本格的にお茶会の始まりだ。

 外の音も気にならなくなったし、のんびりお茶を楽しみながらお互いの休みの予定なんかを話していれば準備も終わって静かになるだろうし。


 そんなわけでお茶の追加を二人分注いで、クッキーをつまみながらの女子会が開始した。

 最終的に分かったことは、このお茶にはクッキーよりレモンケーキが合う、ということ。

 有益な情報なのでお茶のお礼として今度シャムにレモンケーキを渡すことにしよう。



 見上げた空は澄み渡る晴天。周りでは複数の人が物を中庭に運び出していて、夜のダンスパーティーに向けて徐々に会場が出来上がっていく。

 その様子を眺めつつ杖を揺らしていると、後ろから声がかけられた。


「ノア!何してるんだ?」

「おや、グラル君」

「運び込み終わったのか?」

「まだですよ。あまりに天気が良かったもので」

「堂々とし過ぎてサボりに見えなかった……」


 驚きの表情を見せるグラルに笑いかけた後、ノアは持っていた杖に魔力を込めて食堂の扉前に置かれていたガーデンテーブルを浮かせて所定の位置に運び込む。

 それぞれのテーブルにセットの椅子を二つずつ運んでいると、空に風と混ざった光が浮いているのを見つけた。


 あれは、遠視の魔法だろう。

 誰が見ているのかは分からないけれど、中庭の準備状況を見に来たのだろう。

 見つけたそれに手を振ってみると、光が点滅して少し移動した。


 準備を見守っているのかその遠視魔法はしばらく中庭の空を漂っていたが、時折動きが揺れるのでおそらくはまだ慣れていない術者なのだろう。

 ただ、光は揺れても風の安定感が凄い。音の魔力もかなりの精度だ。


 あの魔法を扱えそうな魔法使いで、特に風魔法に長けたもの、となるとあれの主はセルリアあたりだろうか。

 今度見かけたら聞いてみよう、なんて考えながら自分に割り振られた仕事を終え、もう一度空を見上げた。


 このまま晴れ続ければ、今夜は満点の星空が見られるだろう。

 星月夜のダンスパーティーなんて、随分と雰囲気がある。

 夜になったら見回りでパーティー自体は見られないだろうが、星空を見られるなら多少やる気も出るというものだ。


ノア先生の付けているモノクルは魔視を強化する道具なので、先生は基本的にいつでも魔視状態です。なのでセルちゃんの魔法も見つけられました。なんていうちょっとした設定があったり。

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