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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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87,年一度のゴーレム点検

 グラル先生を手伝うことになったので、とりあえずソミュールを移動させながらどこに寝かせておこうかと相談する。

 ゴーレムの確認と言っていたので向かう先は屋外運動場だろうから、運動場近くの危険がない場所に寝かせておけばいいだろうか。


「今年は結局、最初から最後まで君ら三人が一番だったなー」

「そうなんですか?」

「そう。バランスも取れてたし何よりいい意味でお互いに遠慮がないからね」

「まー確かにセルは遠慮ねえよなぁ」

「え、何?文句?」


 今の私はテンションが高いから、喧嘩ならいくらでも買うけども。

 リオンに杖を向けつつそんなことを言うと、慌てて文句じゃねえよ!?と弁明してきた。

 なんだ。やらないのか。


「セルリア今日テンション高いな?」

「テスト終わりましたからね」

「それでそこまで上がる質だった?」

「知ってますか?私アオイ姉さまの妹なんですよ」

「なーんか納得出来ちゃった。なんでだろ」


 話しながら歩いて屋外運動場に移動し、まずはソミュールを設置する。

 もぞもぞしていないし、寝る体勢はこれでいいらしい。

 それを確認してから小脇に抱えていた箱を地面に置いているグラル先生の傍に寄る。


「さーて、始めるぞー」

「そういやせんせー、このゴーレムってどういう仕組みなんだ?」

「あれ、説明してなかったっけ」

「結局聞けてない、かな」


 そういえば何だかんだうやむやにして今日まで来ていたんだったか。

 分からないままでも戦う分には問題ないので一年間分からないままにしていたんだろう。


「んーっとな、これは少量の魔力を込めると稼働するんだが、俺の魔力を込めると生徒との戦闘訓練用に動いて、ヴィレイとかが魔力を込めると外敵からの防衛用に動くんだよ」

「へー……魔法使えなくても使えんの?」

「おう。作る時にそうやって設定してんだと。埋める前にどっちで起動するのか設定するらしいぞ」

「なんでそんな曖昧な言い方なんですか?」

「やったの数年前だからなぁ……」


 簡単に言っているけれど、それを作って設定しているのはかなりすごい人だと思うのだけれど。

 どんな先生がやっているのだろうか。もしかして魔道具の研究室を監督していたタイン先生とかがやっていたりするのかもしれない。


 ……考えていたらちょっと気になってきた。

 今度遊びに行ったら聞いてみよう。

 合作とかなのかもしれないし、仕組みは知っているけど回路は気になるし。


「セルリアはこれ起動できるんじゃない?」

「魔力の設定してないのに起動するんですか?」

「いくつか乗っ取り防止の魔法はかかってると思うけど……多分出来る」


 だとしてもやる必要はないのでやらないけど。

 そんなことを話しながら先生は地面に置いた箱を開けて中に入っている魔道具を起動させていた。

 ……ゴーレムの掘り起こし用、かな。


「さーてと……ちゃちゃっと終わらせるぞー」

「せんせー俺ら何すりゃいいの?」

「ゴーレムの外装が壊れてないか確認してー。セルリアは出来れば内部回路が壊れてないか見てー」

「はーい」


 返事をして、地面から出てきたゴーレムを手分けして確認していく。

 ミーファとリオンはそれぞれ端から外装の確認をしていくらしいので、私はミーファの後ろから魔視を起動させて内部を確認する。


 先生は掘り起こし用の魔道具が入っていた箱の中からモノクルを取り出して、それを付けつつリオンの後ろに立っていた。

 もしかしてあのモノクルは魔視のための魔道具だろうか。


「……先生、破損してるのはどうすればいいんですか」

「あー、箱の中に赤い紐があるから、それを巻いといて」

「分かりました」

「そうだわ、言い忘れてた。リオン、ミーファも。外装破損はこの青い紐を巻いといてくれー」

「はーい」

「ういー」


 紐が巻かれているものは修理が入るんだろうな、なんて予想をしながらゴーレムの腕に赤い紐を括りつける。

 去年まではこの作業を先生が全部一人でやっていたのだろうか。


 ……これを一人で全部やるのは大変だろうな。

 私たちに声をかけた理由も何となく分かる。

 これは単純に参加人数が多ければ多いほど楽になる作業だ。


「そういや君らは休みの予定とかあるん?」

「休みは……とりあえず帰宅ですかね」

「アオイさん寂しがってるんだ?」

「らしいです。またあちこち連れまわされるって」

「俺は前の休みと同じだなー」

「私は……ソミュちゃんの所にお世話になる、かな」

「そうなの?」

「うん。良ければおいで、って言ってもらってるから」


 テストも終わったし、あとは卒業式が終われば学年が上がり後輩が入ってくることになる。

 その入れ替えのための休みが一ヵ月あるので、私は家に帰って前の休みと同じようにあちこち連れまわされつつ過ごすことになるらしい。


 リオンも前の休みと同じ、ということはフォーン国内に残って冒険者活動に励むのだろう。

 ソミュールはまた知り合いの所に泊まると言っていたし、今回はミーファも一緒らしい。

 あとでロイとシャムにも確認しようと心に決めつつ取り合えずゴーレムの確認を進める。


「ま、怪我無く過ごして二年目も頑張ってくれー」

「せんせーたちって休みの間何してんだ?」

「この休みは来年の準備だな。申請すれば長めに休暇も貰えるけど……取ってる人はあんまりいない気がする」

「ヴィレイ先生に部屋片づけるように言っておいてくれませんか?」

「無理だろー。あいつ散らかし魔だし」


 ……もしかして私はまた休み明けに散らかりまくったあの部屋を片付けることになるんだろうか。

 一ヵ月でどれだけ散らかるのかを認識してしまったので、軽く心が折れそうなのだけれど。

 誰でもいいから一人くらいヴィレイ先生が部屋を片付けるように誘導しておいてほしい。


 私が休み明けに片付ける未来が変わらないならせめて少しでも散らかり具合がマシなことを願うばかりだ。

 ……いや、冷静に考えるとなんで私が片付けないといけないのかって話になるんだけども。


「……あー、セルリアってヴィレイの手伝いしてんだっけ」

「手伝いというか……まあ、はい」

「あいつの研究室が前よりマシになったのはセルリアの功績かぁ」

「前まではもっと酷かったんですか」

「たまに土砂崩れみたいな音とかしてたぞ」

「うわ……想像できる……」


 というか何度か遭遇したことがある。

 なんて、関係ない話をしながらもゴーレムの確認作業は進んでいき、日が暮れる前には全ての確認が終わって解散になった。


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