86,気晴らし空中散歩
鐘の音が響いて、解答用紙が回収されていった。
先生が去って行った後の教室は開放感からか一気に賑やかになる。
私もぐっと身体を伸ばして息を吐き、にっこにこで寄ってきたリオンに向けて意味もなく風を起こした。
「なんでだよ!?」
「何となく。気晴らしみたいな」
「なんだそれ……」
強いて言うなら、あまりにもニコニコなリオンがそこに居たから、だろうか。
テストが終わって浮かれているのは分かるけれど、そんなににっこにこで近付いてこなくてもいいと思うのだ。
「やーっと終わったんだぞ?」
「まあ、それはそうだけど」
「で、セル!覚えてるよな!」
「何が?」
「テスト終わったら飛行魔法やってくれるって言ってただろ!?」
「あー……そういえば言ったかもしれない」
あれはたしか先輩たちとの模擬戦の後……だっただろうか。
メイズさんとメリサさんを連れて飛んでいたのを見て、自分も飛びたいと言ってきたんだった気がする。
テストが終わったら、と答えたような気もする。
……うん、言った。確かに言ってた。
ならまあ、テストも終わったことだし、リオンが期待の目を向けてきているし、私も飛びたいし。
「いいよ。やろうか」
「よっしゃぁ!」
元気よく拳を突き上げたリオンの様子にミーファが寄ってきて、目を輝かせるものだからついつい誘ってしまい、じゃあついでにとソミュールも連れていくことになった。
なんというか、皆テストが終わったからいつもより動きが軽快というか勢いがいいというか。
四人で移動していたらテストの答案を運んでいるヴィレイ先生を見かけて、何をするのかと聞かれたのでちょっと空を飛んできます、と何とも緩い返事をしてしまった。
危険なことはするなよとだけ言われたので許可を得たものだと思っておこう。
「よーし!やろうぜ!」
「やるのは私だけどね」
「よし、ソミュちゃんはこれで大丈夫……かな」
ミーファまでウキウキで準備をしているのが何だか少し面白い。
ちなみにソミュールは草原をベッドに眠っている。
すやすやと寝息を立てている辺り、ミーファが寝る体勢にこだわっていた甲斐があるのだろう。
「一人ずつしか連れて飛べないから、リオンからでいい?」
「うん!私は今日知ってついてきただけだし」
「とりあえずリオンは大剣降ろしてね」
「おう!」
多少重くても飛ぶことは出来るのだけれど、うっかり落としでもしたら大変なので下ろしておいてもらう。
うっかりソミュールの上に落ちでもしたら大事故だからね。
「行くよー」
「おー……おおお!やべぇ!すげぇ!飛んでる!」
杖を構えてリオンを手を繋ぎ、風を起こして空に上がる。
すいーっと上空を旋回してから停止する。横で歓声を上げ続けていたリオンを見ると、これでもかというほど目をキラッキラさせてどこか遠くを見ていた。
「感想は?」
「セルお前、いっつもこんな景色見てんのか……」
「まあ、そうだね」
「すげえなぁ……」
気に入ってくれたようなので、もう少しこのままでいよう。
まあ、下でミーファが待っているのでもう少ししたら降りるけどね。
「……さ、ミーファと交代かな」
「おう!」
素直な返事を聞いてゆっくりと降下を始め、ミーファの前に着地する。
わああ、と小さく歓声を上げたミーファに手を差し出すと、いつもより赤みがある顔で耳をピコピコと動かしていた。
「セルちゃんかっこいいね!王子様みたい!」
「ふふふ。お手をどうぞ?」
「わあ……」
知り合いに本物の王子様がいる側からするとなんだかくすぐったくなる言葉だけれど、かっこいいと言われるのは中々気分がいい。
身近にカッコイイ女の人はいっぱいいるからね。
なんて、気分を良くしながらミーファと手を繋ぎ、空へ上がる。
リオンに比べてミーファの軽いこと軽いこと。
大きな音が苦手だったり背の高い人が得意じゃなかったりと警戒心の強い彼女だけれど、空高くを飛ぶのは別に平気なようだ。
「どう?」
「すごい!高いねえ!」
「怖くない?」
「全然!セルちゃんとなら怖くないよ」
「……カワイイ……」
なんという可愛い台詞だろうか。これが私じゃなかったらこのまま連れ去っているところだった。
そんなことを考えながらしばらく上空を飛行して、ふと下を見たらリオンが大きく手を振っていた。その横には、何か大きな荷物を持ったグラル先生が立っている。
別に用事があるわけでもなさそうだがミーファも気になるようなので高度を下げて静かに地面に降りた。
何となくソミュールを確認すると彼女は寝たままだったので一旦置いておく。
「前々から凄い子だとは思ってたけどあそこまで自由に飛べるのはちょっと驚いたなー」
「な!セルすげえ!」
「なんでリオンが誇らしげなの?」
私より反応が早いのは一体なぜなのか。
そしてなぜミーファまで頷いているのか。
……耳がピコピコしてる。可愛いから撫でておこう。
「先生は何をしてたんですか?」
「んー?俺はこれから来年に向けての各種整備をするところだよ。通りかかったらなんか面白そうなことしてたから見に来ただけ」
「来年に向けて?」
「そう。地面の中のゴーレムを起動してみたりとか色々な。暇なら手伝ってくれてもいいんだぞー」
冗談めかして言ってはいるけど、手伝ってほしいのは本当らしい。
この時期は先生たちも忙しいらしく、一年目の実技で使うあれこれは全てグラル先生の管轄になっているので確認等を一人でしないといけないのだとか。
手伝えることがあるのかは分からないけれど、一年間お世話になった先生だし、暇かと言われたら暇だし。
そんなわけで空中散歩はこれで終わりにして、グラル先生を手伝うことになった。




