85,初日の最後
ぼんやりと空を見上げる。
雲一つない晴天。なんというお昼寝日和。
何の用事もない日だったら草原に寝転がってしまいたいところだ。
だが悲しいかな。今はテスト一日目の最後の時間である実技の順番待ちをしているので昼寝としゃれこむわけにはいかない。
……いい天気なのになぁ……もったいないなぁ……
「せーるーりーあー」
「ん、起きたのソミュール」
「うん……ミーファは?」
「先にテスト受けて終了待ちしてるよ。ソミュールはまだ呼ばれてない」
「そっかぁ……リオンも?」
「そう。魔法使い組は後なのかなぁ」
実技テストは一人ずつ行い、呼ばれた人から室内運動場に入る。
終わった後は別の場所で試験終了待ちになるので、この待機場所からは徐々に人が減っていくのだ。
リオンとミーファは早々に呼ばれて行ってしまい、暇を持て余した私は空を見上げて今日は飛びやすそうだなぁとかお昼寝したいなぁとか考えていた。
ソミュールが起きたのなら、少し暇を潰せるだろうか。
「ふあ……あぁあ……」
「ソミュール、さっきのテスト解答書けたの?」
「んー……途中までは書いた記憶あるよ?途中で寝たと思うけど」
「まあ、最後は寝てたね。確実に」
何せ私とミーファで寝ているソミュールをここまで運んだからね。
運ばれた後のソミュールはいつもの枕を抱えてぐっすりすやすやだった。
あまりにも気持ちよさげな眠りっぷりに私も眠くなってきたくらいだ。
「早めに順番回ってくるといいなぁ」
「そうじゃないと寝ちゃう?」
「うん……すぐには寝ないと思うけど……くぁ……」
欠伸を噛み殺すソミュールの横顔を眺めながら、あと何人残っているのか確認する。
……人数も減ってきたから呼ばれる確率は上がっているけれど、どうだろう。
なんとなく、ソミュールは最後にされていそうな気がするのだ。
「実技って何するんだろうねぇ」
「私たちは魔法撃つんだろうけどね」
「セルリアは攻撃だっけ?」
「そうだよ。ソミュールは……回復?」
「ううん、サポート。回復はねぇ、昔は出来たんだけどねぇ」
「……できなくなる、なんてことがあるの?」
「僕らの中では、割とあるんだよ。一回大きすぎる魔法を使うと反動で出来なくなっちゃうの」
夢魔族は魔法の扱いに長けた種族だ。
そんな彼らが、魔法を扱えなくなるなんてことがあるなんて。
正直信じられないが、ソミュールが嘘を言うとも思えない。
「反動で使えなくなるほどの魔法って……何を回復したの?」
「……んふふふ」
「言いたくないならいいけど」
「んふふ。違うの。言いたくない訳じゃなくてねぇ……いつか、セルリアには直接見てほしいなぁ」
「……まあ、じゃあ、機会があったら?」
「うん」
楽し気に笑うソミュールは、一体何を直したのか。
直接見てほしい、というならいつか案内してくれるのかもしれない。
……考えてみれば、ソミュールが学校に入学する前はどこにいたのかも知らないのだ。
「セルリア、来い」
「はい」
「あー……後でねぇ」
「うん、呼ばれるまで起きてなね」
「頑張るー」
話している間に順番が回ってきたのでソミュールに手を振って室内運動場に入る。
中に何か特別なものが置かれている、というわけではないのだけれど、何をするのだろう。
「魔法使いの実技試験は、属性を一つ選んでどのレベルまで魔法を扱えるかを見る。魔法の種類は問わん」
「分かりました」
「属性は風だな?」
「はい」
なるほど。確かにこれなら攻撃魔法だろうが補助魔法だろうが関係なく得意なものを使える。
とりあえず杖を構えて待っていると、手元の紙にペンを走らせていたヴィレイ先生が顔を上げた。
「さて……順に上げていくぞ。行なったことのないところまで来たら言え」
「分かりました」
一般的に扱われる魔法は、分かりやすく難易度設定がされている。
一から順に上げていくことになるのだろう。
「始めるぞ」
「はい」
言われた難易度の中で一番やりやすい物を選んで発動させる。
私が普段から使っているのは風を起こして自由に操るというもの。
難易度的には起こすのは一。操るのは二。序盤も序盤の魔法だけれど、簡単だからこそ色々応用が出来るので便利なのだ。
淡々とテストは進み、そのうち無演唱では出来ないものも混ざり始めて……最終的には演唱を略すことも出来なくなってしまった。
……これを一人一人やるとなると時間がかかるから魔法使いは後回しだったのだろう。
「偉大なる風の精霊よ、我が身に其方が加護あらん。幕は既に開かれた。我が魔力を捧げよう、求めるは其方が力、其方が纏う風を拝借せん」
ふわり、と私の周りに風が起こった。
柔らかく優しい風だけれど、これで今の私は弱い攻撃なら自動で弾く結構強力な盾を纏っている状態になっている。
難易度的には最難関レベルなので正しく発動した時点で実技試験はかなりいい線行っているんじゃないだろうか。
……まあ、多分問題になる部分はそこじゃないんだけれども。
「加護持ちか」
「ううう……他のにするべきだったかもしれない……」
この魔法の最たる特徴は、精霊の加護を持っていないと発動しないという部分なのだ。
昔オリジナルスキルを調べた時に知ったことだけれど、その効果を正しく理解したのはかなり後になってからだった。
今回は万が一にも失敗は出来ないし、ヴィレイ先生なら何となく察していそうだしと選んで使ったのだけれど、冷静になってみればやめておいた方がよかった気がしてくる。
……もうね、かなり連続で魔法を使っていたせいで考えるのが面倒くさくなってしまったのだ。
「まあ、なんであれこれで実技試験は終了だ」
「はぁ……疲れた……」
まあいいや。疲れたから考えたくないし、ヴィレイ先生が何かしら悪用することはないだろうし。
考えるのも後悔するのも後回しだ。先に終わらせているリオン達と合流しよう。




