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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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83,テスト前の落ち着かない空気

 朝、いつも通りの時間に部屋の明かりが灯り、それに反応して身体を起こす。

 まだぼんやりとしている頭で時計を確認してベッドを降り、とりあえず顔を洗おうと隣の部屋へ移動した。


 今日は学校全体が特別日程で進むので、間違えない様にしないといけない。

 とはいえ朝食はいつも通りに食べて大丈夫なのでとりあえず食堂に向かえばいいだろう。

 そんなことを考えながら着替えて髪をまとめ、杖を持って部屋を出る。


 リオンは今日、ちゃんと起きてくるだろうか。

 流石に寝坊してテストを受けないのは怒られるどころじゃすまない気がするのけれど。

 なんて考えながら食堂に入り、適当に朝食を選んで座る。


「おはようセルリア」

「おはようロイ。今日はデザート付き?」

「糖分は大事だからね」


 そう言って笑ったロイは、私の斜め前に座ってパンを千切る。

 テストは今日と明日の二日間。戦闘職より研究職の方が筆記の科目数は多いだろう。

 それを同じ日程に詰めるので、テストが近付くにつれ研究職組の悲鳴が聞こえてくるようになっていた。


「そっちはテスト何科目くらいあるの?」

「今日は五つ。明日が四つ、かな。来年からはもっと増えるみたい」

「大変だね……こっちなんて今日三つの明日二つで終わりだよ」

「でも実技があるんでしょ?」

「そっちも来年から本格的に、だから今年はそんなに厳しくないし」


 つまり一年目のテストは研究職が圧倒的に辛いのだろう。

 悲惨な結果になるのは戦闘職だろうけど、それを気にするかと言われたら気にしないと思うし。

 なんて話しながら朝食を食べ進めていると、お茶と茶菓子を持ったシャムが眠たげに歩いてきた。


「おはようシャム」

「おはよ……」

「今日はお茶菓子付き?」

「糖分が欲しくて……頭回さないとだから……」


 言いながら私の横に座ったシャムを眺めつつ、そういえばいつもより甘い香りがする、と周りを見渡した。

 ……研究職の制服を着た人たちがかなりの確率で甘いものを持っているのだけれど、そうするように指示が出ていたりとかするんだろうか。


「お前ら本当に朝早えのな……」

「うわ、リオン」

「うわってなんだよ」

「おはよう。今日は早いね?」

「流石になー」


 普段なら起きたとしてもギリギリなリオンまで起きてきた。

 これがテストか……と謎の感動を覚えつつスープを飲み干し、パンの最後の欠片を口に放り込む。

 リオンは相変わらず朝食なのかと疑いたくなるような量を持ってきているけれど、今日は時間に余裕もあるので急かす必要もないだろう。


「テスト終わったら遊び行こうねー」

「シャムはその前にそれ食べきらないと」

「大丈夫、大丈夫」


 まだ一つも終わっていないテストを前にシャムがのんびり呟くのを聞きながら、私はマグカップを置いた。ロイはもう食べ終わっているけれど、シャムを待ってから行くらしい。


 私もリオンが食べ終えてから行くつもりなのでもう少し待機だ。

 ……そろそろミーファがソミュールを起こした頃だろうか。

 ソミュールはテスト中に眠った場合別で時間を取っての再試験になるらしい。


「リオンはテスト勉強ちゃんとやったの?」

「やった……はず……」

「なんでそんなに自信なさげに……」

「俺的にはやったんだよ。でもさぁ、周りを見てっとこれはやった部類に入らないんじゃねえかって思えてくんだよ」

「つまり?」

「やったことにしとこうぜ」


 それでいいのだろうか。まあ、いいって言うなら何も言わないけど。

 きっとリオンの気分くらいは変わるんだろうし。うん。

 テストの結果は変わらないけどね、そこは言ったらいけないんだろう。


「よし、僕らは先に行くね」

「うん。じゃあお昼に」

「じゃあなー」


 眠たげなシャムを連れて去って行ったロイを見送り、もうほとんど食べ終えているリオンに目を向ける。

 ……本当に食べるのが早いな。


「よっし、行くか」

「そうだね。途中にミーファとソミュールが居るかな」


 食器を片付けて廊下を進み、予想通りソミュールを運んでいたミーファを見つける。

 朝のソミュール運搬を手伝うところまでがいつもの流れになっている気がするのは私だけだろうか。割と毎日見かけていると思うんだけれど。


「おはようミーファ」

「あ、おはよう!今日はリオンもいるんだね!」

「テストだからな!ちゃんと起きたぞ!」

「テストじゃなくてもちゃんと起きて。手伝うよ」

「ありがとう!」


 視界の端でリオンが不満げにしているけれど、見なかったことにする。

 ミーファは単純に見えていなかったようで、そっと荷物を持ったリオンにお礼を言っていた。

 ソミュールは起きない。……今日の分のテストは、後日受けることになりそうだ。


 教室に入ると、いつもより人が多い気がした。

 ソミュールを席に設置して時計を確認すると、時間はいつも通りだった。

 みんなテストだからといつもより早めに教室に来たのだろう。


 よく見てみればリオンと同じように遅刻ギリギリな人たちも既にいるようだし、これがテストというものか。なるほどなるほど。

 一限の始まりまではまだ時間があるけれど、教科書でも読んでいようか。


「セル、セル」

「……リオン、勉強したら?」

「質問!一個だけ!」


 最後の最後で焦るなら、もっと最初からやっておけばいいのに。

 そんなことを考えながらジッとリオンを眺めると、なぜか拝まれた。

 ……仕方ない、別にやりたくない訳じゃないし、始まるまでそれをやっていてもいいだろう。


「仕方ない。いいよ」

「よっしゃ!ありがとな!」

「……ねえ、俺も混ざっていい?」


 イソイソと教科書を開くリオンを眺めていたら、後ろから控えめに声がかけられた。

 振り返るとリムレという名の同級生が立っていた。何度か話した記憶はある。

 邪険にされた記憶はない。……うん、多分いい人。


 リオンも別に反対ではないらしいので、三人でテスト最後の追い込みをすることにした。

 最終的にはミーファも混ざって四人になり、ある程度やったところで時間を告げる鐘が鳴った。


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