82,違和感の正体
ヴィレイ先生に捕まってどれくらい時間が経ったのか。
体感では一時間くらい経ったんだけど、多分数分しか経っていないんだろうな。
……視線が、痛いなぁ……?
「まだか」
「言語化出来ないんですよ……」
「出来ないままでいいから話せ」
「むしろ何をそんなに求められているんだろう……」
なんだかもう、頭の中がこんがらがってしまった。
ここまで混乱するのも久々だ。なんて、思い出に浸っている場合じゃないんだけどね。
さてどうしたものか。このままじゃ絶対逃げられない。
でも、言語化出来てないのに話せって、それ人の言葉じゃなくてもいいってことになりません?
ちなみに私は人の言葉しか話せないので手詰まりだ。
うーん……。どうしようかな。
「えーっと……えっとですねぇ……」
「何を感じていた」
「なにを……?い、違和感……?」
「いつからだ」
「朝……いや、えっと、夢?見てた時から?」
「夢?普段から見るのか」
「いえ、あまり」
あれ、夢を見ていて違和感があったんだっけ。それとも、起きてからだったか。
夢に関しては、単に懐かしいと思っただけの気もする。
……うーん?多分、夢は関係無いんだと思うのだけれど。
「なんの夢だ?」
「姉さまに拾われた時の夢です。それ自体は懐かしいだけ、なんですけど」
「……始まりから覚えているか」
「夢の、ですか?」
「ああ。話したくなければ構わんが」
夢の始まり、と言うと……なんだったか。
姉さまに出会った時の夢だったのは覚えているんだけど……その前、始めの方は……
「……森、ですね。日が落ちて、暗くなっていく森の中」
「なるほどな」
「これで何か分かるんですか?」
「大通りで暴れたのは堕ちた亜人だ」
「……珍しいですね?」
「そうだな。今日、国内で闇関係の魔力が高まっているのに釣られたんだろう」
「もしかして私もその魔力につられてました?」
「だろうな」
堕ちとは、魔力に染めれれて理性を失い魔族になることを言う。
古い言い方らしいけれど、言い換えられることも無く今までそう呼ばれているらしい。
そうそう起こることではないし、それに遭遇するなんてかなり珍しいことのはずだ。
「……あー……魔力……そっか魔力……」
「風なら分かったのだろうが、闇では分かりにくかっただろう」
「はー……なんかすっきりしました」
「そうか。確認はそれだけだ」
「そういえば先生、なんで私が動揺してるの分かったんですか?」
「無意識だったんだろうが、懐のタスクを上から触っていたぞ」
「え……マジか……」
思わず服の上から隠し持ったタスクタイプの杖を確認してしまった。
……触ってました?本当に?
それつまり私、両手に杖を装備しようとしてたってことになるんだけど……
「行っていいぞ」
「はい。はあ……なんか疲れた……」
違和感の原因が分かってスッキリしたはずなのに、何だがすごく疲れた。
ため息を吐きつつ教室の中に戻り、席に座って今度こそ本を開く。
朝に話して心配をかけてしまったし、ロイにも事の顛末を説明した方がいいかもしれない。
そんなことを考えながら本の続きを読み始める。
時間を確認したらまだそれなりに時間があるので、もしかしたら読み終わったりするんじゃないかと思う。
読み終わったら今日の放課後は図書館に行くことになるだろう。
まあ、多分読み終わらなくても行くけど。
ページを捲って文字を目で追う。黙々と読んでいたら、急に手元が暗くなった。
「セルー」
「んー?なに?」
顔を上げるとリオンが立っていた。
私の一つ前の席の子が気を利かせて椅子を空けてくれたので、リオンがそこに座って背もたれに肘をつく。
「セルさー、冒険者登録しねえの?」
「なに急に。どうしたの」
「しねぇの?」
「うーん……したいとは思ってるけど、すぐにって感じではないかな」
「そうなのか……」
「何かしたいことでもあるの?」
私にそれを聞く理由なんて、一緒に行きたいクエストがあるとかそういうことだろうし。
無理はしないスタイルなリオンがわざわざ私を連れてまで行きたいクエストがあるのかと少し疑問には思うけど、それくらいしか思いつかない。
「欲しい素材があんだけど……その素材落とす魔獣が魔法の方が効くんだよ」
「へえ……素材。何に使うの?」
「剣の強化。これ買った店に何回か行ってんだけど、素材と代金あれば強く出来んだと」
「なるほどねー」
そのうち登録しようとは思っていたので、テストが終わったら考えてみても良いかもしれない。
討伐クエストだと私が登録するときにはもうクエスト自体がなかった、なんてことになりそうな気もするけど、それはそれ。
「他に知り合いの魔法使いとか居ないの?」
「ソミュール」
「なるほど」
つまり居ないのか。ソミュールは寝ている間に安全を確保できる状態じゃないと連れ出せないので、今の私たちじゃ現実的じゃない。
そうなると私が登録することに賭ける、って感じになるのか、な?
「急ぎなら他を探したほうがいいと思うけど……」
「息が合わねえ奴と行ってもむしろ危ないだろ」
「確かに。とりあえず私はテスト終わるまで考えるつもりはないかな」
「そっか。じゃあセルが登録した後でもっかい見つけたら誘うわ」
「うん、そうして」
リオンは組む相手の強さ、より相性を優先するタイプらしい。
誰でもいいから倒せる人と一緒に、ってなるとギルドで募集するか杖持ってギルドに来てる人に声かければいいからね。
そのうちリオンと学校外で共闘することもあるんだろと思うと、なんだか楽しみになってくる。
そんなことを話している間に終わりの時間になったようで、ヴィレイ先生が教室の中に戻ってきた。




