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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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80,昔の夢と違和感

 パラリ、と教科書を捲る。

 自室の机の上に広げた教科書とノート、ついでに図書館で借りてきた関連書籍を使って新しいノートに内容をまとめ直していく。


 淡々と作業しているけれど、これがなかなか楽しい。

 ノートは先生が書いた黒板の写しなのでまとめ直していると雑に書かれたメモ書きの内容も補完出来てどんどん穴が埋まっていくのだ。


「んー……もうちょっとやったら終わりにしようかな……」


 時間を確認して一度ペンを止める。

 そろそろ本当にテストが近くなってきたのでいつもの予習復習に加えてノートの纏め直しを始めたのだけれど、集中してしまってどうにも時間が過ぎるのが早い。


 でも今やめるには中途半端だからもう少し進めてからやめた方がいいだろう。

 ここでやめると再開するときによく分からなくなりそうだし。

 そんなわけで一度置いたペンをもう一度持って続きを書き進めていく。


 やっているのは魔獣と魔物の分類。

 まだ一年目ということと、本格的にやるのは研究職だけという理由からまだまだ簡単な分類しかやらないけれど、それでも一年分の知識だ。量はそれなりにある。


 分類と簡単な生態や生息区域をまとめて、その他本から情報を拾って書き込んでいく。

 このあたりは実用性の高い知識だが、リオンなんかはこの授業もしっかり寝ていた。それでいいのか、と思ったことも一度や二度ではない。


 それでもテストが近いぞと先生から脅されて慌ててやり始めてはいたし、どうにか……なるのかな?まあならなくても私は困らないけれど。

 ミーファはこれよりも魔法基礎を重点的にやっていたようだ。


 こっちは何となく知っているから、と言っていた。

 学校に通う前から知っていた知識なのだろう。生きるのに必要だから、とそのあたりを本能的に覚えている生徒はそれなりにいる。


「……よし。終わりー」


 区切りのいいところ、と先ほど決めた場所までまとめ終わって、ペンを置いてもう一度グーっと身体を伸ばす。

 肩を回してバキバキと鳴る音にちょっとびっくりする。


 びっくりしながらもノートと教科書を閉じて重ねて端に寄せ、ペンも乗せてから立ち上がった。

 髪をまとめていた飾りを外して寝る前に一度櫛を通して絡まっていないことを確認し、明かりを落とした。

 そして勢いよくベッドに飛び込む。……落ちた、の方が正しい気もするけれど。


 楽しかったけれど、まあ疲れるものは疲れるので。

 あー疲れた。と息を吐き、もぞもぞと掛布団の下に入り込んで引き上げる。

 先ほどまで元気に起きていたはずの脳はすぐに眠気を訴えてきて、思っていたより早く意識は夢の中に落ちていった。


 そして、夢を見た。


 懐かしい夢だった。

 薄暗い森の中、一人で不安で、それでも移動することは出来なくて。

 ただそこで待っていなくてはいけない、というその言葉だけがあって、だからずっとそこに居た。


 どんどん森は暗くなっていく。

 その中に取り込まれていく。

 抗いようのないそれに目を閉じていたら、いつの間にか眠っていた。


 次に目を開けた時に見えたのは、今まで見た中で誰より、何より美しい人。

 天使だと、思ったのだ。

 これが天使というものなのだろうと。


 私を迎えに来たのだろうと、確信のようなものがあった。

 でも違うと言われてしまった。

 その人は天使ではなく、私の姉になった。


 その笑顔に後光のようなものを感じて、ぐっと目を閉じる。

 次に目を開けたら……

 開けたら、目の前には見慣れた天井があった。


「……夢。懐かしい」


 私がセルリアと言う名前を貰った時の夢。

 なぜ今見たのだろうか。別に、何か思い出すようなことはなかったけれど。

 意味なんてないのかもしれないけど、少し気になる。


 姉さまに手紙で聞いてみようかな、なんて考えながらベッドから足を下ろす。

 今日の日程と昨日机に積んだ本の種類を考えて、寝巻から制服に着替えたら荷物をまとめて髪留めを手に取り隣の部屋に移動した。


 髪はいつも通りハーフアップにまとめて飾りで留め、荷物と杖を持って部屋を出る。

 いつもと、変わらない朝の支度なのだけれど……あんな夢を見たせいか、何かいつもとは違うような違和感がある。


 なんだろう。手紙で聞いてみようと思っていたけれど、それでは間に合わないような何かがあるのだとしたらどうにも出来ない。

 とはいえ、まだ何かあると決まったわけではないんだけど……


 考えながら食堂に移動して、いつも座っている辺りに腰を下ろして朝食のパンに手を付ける。

 黙々と咀嚼して、物音がしたので顔を上げるとロイが微笑んでいた。


「おはようセルリア」

「おはよう、ロイ。……今日、いつもと変わりないよね」

「ん?なにが?」

「いや……何でもない」


 言語化するのが難しいし、何か確信があるわけでもない。

 だからなかったことにしようと思ったのだけれど、ロイは不思議そうにじっとこちらを見つめていた。


「よく分からないけど……何かあったの?」

「んー……何もない、んだけどね」


 話しながらパンを千切る。

 ロイはまだ納得していないみたいだけど、とりあえず食事を優先させることにしたらしい。

 聞かれても具体的に何、とはいえないので有難い。どうしても、何となくそんな感じ、としか言えないのだ。


「何かあったら遠慮なく言ってね?」

「ありがとう」

「何もなくても言ってくれていいし」

「……言語化、難しい」

「そっか」


 話しながら朝食を食べている間にシャムが起きてきて、のんびりとお茶を啜るシャムを眺めつつ朝食を食べ進めて残り少なくなってきた時にリオンが起きてきた。

 今日も今日とて朝からがっつり。


 一限目の開始時間に間に合うように持ってきた朝食を詰め込むリオンを眺めながら私は朝食を食べ終わり、ギリギリまでリオンを待つ時間になった。

 ……シャムもリオンも、いつも通り。


 やっぱり私の勘違い、というか久々に夢を見たせいで少し考えすぎただけなのだろう。

 それならそれでいい。何もない日常が一番なのだから。


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