78,これぞ大はしゃぎ
手合わせの円の中で、リオンと向かい合ってそれぞれの武器を構える。
こうして向かい合うこと自体は初めてではないけれど、お互いに本気で相手を倒そうとしている状態は初めてだ。
ブォン、と音を立てて杖を回す。
周りに起こした風を自分のものとして風魔法に変換するのは今までも私がやっていたことなので、私が何をしてるのかはリオンにも分かっている。
だからなのか、それを阻止するように普段あまり即攻撃はしないリオンがすぐに動いた。
私はリオンの間合いに入りたくないので、風を正面に分厚く作ってリオンの身体ごと横に流す。
自分は逆側に回り込んで、間合いを保ちながら位置が入れ替わる形になる。
フッと短く息を吐く。
気を付けていないと一瞬で距離を詰められる。
息を吐いて、深く吸う。集中しないと一瞬でやられてしまう。
飛ぶのは最終手段にしたい。
もうすでに一回飛んでいる時点で何度飛んだって同じことではあるんだけど、まあ何となく最終手段にするのが癖付いているのだ。
「踊れ旋風」
「うおっ!あぶね!」
リオンの足元に風を起こして身体ごと巻き上げてやろうと思ったのに、一瞬で気付かれて逃げられてしまった。
もっと強く起こせばよかったかもしれないけど、リオンの間合いに入らない様に急いで作ったからそれだけの威力を持たせられなかったのだろう。
「むう……」
「隙ありっ」
「うわっ」
一瞬で強く風を起こす練習もしないと、なんて関係のないことを考えた一瞬で、リオンが間合いを詰めてきた。
思わず杖を盾に受け流し、あまりの重さに腕が痺れる。
どうにか杖を落とさない様に両手で杖を持ち、自分の周りに風を起こしてどうにかリオンを引きはがす。後ろに飛んで逃げつつ目で見ていては追いつけないことを悟った。
後ろから見ているのと対面してみるのとでは随分と感覚が違う。
目で見るより、風に流れを教えて貰う方がいいかもしれない。
そんなわけで靴の底に薄く風を起こしてその上に乗る。
この風の下にもう一つ風を起こすと、上空まで飛んでいけるようになるのだけれど今はそこまで飛んでいく必要はないので薄く張るだけでいい。
自分の足で動くより風で滑る方が早いし、場を満たしている風でリオンが動いたのを察知して逃げるのにも使える。
「なんか嫌な風だな!」
「なんで察知してるの意味わかんない!」
魔法を扱うような装備は付けていないし、そもそも魔法はよく分からないと言っていたくせに私が仕掛けた風の動きを察知しているのだろうか。
これが野生の勘なのかな、それとも鬼人の血的な何かかな。
腹いせにリオンの足元の風を巻き上げて剣を重点的に上に持っていく。
まあ、筋力に物を言わせて普通に耐えられてしまったけどね。くやしい。
なので今度は氷を作ってリオンの真後ろに浮かばせて勢いよく引き寄せる。
「あっぶね!」
「なんで避けるの!」
「そりゃ避けるわ!」
リオンが回避したせいで氷は私のところに飛んでくるので、風でリオンの方に撃ち返しておく。
簡単に打ち落とされてしまった。くやしい。
頭の上にくそでかい氷作ったろ。
「おいセル!?」
「ふははは!」
「楽しそうだなクソ!」
ああ、楽しい。もっと広い場所でバンバカやりたい。
もう楽しいから飛ぶのは最終手段とか知らない。
ふわりと浮いて、リオンを風で抑え込みつつ作った氷の上に着地する。
氷のイメージは一番最初の魔法基礎授業でノア先生が私たちに向けて落としてきた氷の塊だ。
あの時は溶かす側だったけれど、今度は落とす側。
押しつぶしたる。全力で。
「おらぁぁぁ!!」
「おっ……もてぇ!」
氷の上に乗ってしまったのでリオンの姿は見えないけれど、風でどこに身体があるのかは分かる。
剣で壊すことも受け止めることも無理だと悟ったのか横に抜けようとしたので、杖を回して氷の下に吹き込むように風の層を作る。
「そこまで」
かかった声にハッとして、作っていた魔法のあれこれを全て壊して地面に着地する。
危ない。思いっきり押しつぶそうとしてしまった。
リオン生きてるかな。氷は砕いて飛ばしたから濡れてはいないと思うけど。
「セルリア」
「はい」
「はしゃぎ過ぎだ」
「ごめんなさい」
「リオン」
「うっす」
「逃げられる範囲をしっかり認識しろ」
「うーっす」
「二人とも話しすぎだ。壁際で反省会でもしてろ」
「はーい」
「はーい」
普段は終わりの合図だけで終わるヴィレイ先生からしっかり怒られてしまった。
……楽しかったな。なんて内心で思っていたら睨まれたし。わあ、バレてる。
リオンも普通に無事みたいなので、二人で元々立っていた壁際に移動する。
「セルってあんな声出すんだな」
「どれのこと?」
「氷落とすときの」
「……ああ、あれか」
たしかに普段は出さない音量でおらぁとか言った気がする。
別に普段はやらないだけで出すよ。トマリ兄さんの影響で結構口が悪かったりもするからね、私。
「とりあえず一勝、と」
「うわ、次ぜってぇ勝ってやる」
手合わせが始まる前と同じように壁に寄りかかって、ヴィレイ先生に言われた通り大人しく反省会を始める。
私の反省点はとりあえずはしゃぎ過ぎてリオンを押しつぶしかけたことだろう。
リオンの反省点は私が風を起こす前に氷の下から抜け出さなかったことらしい。
それにしても、あそこまで風の動きを読まれるとは思わなかった。次も勝てるように色々と練習しないといけないだろうか。




