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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
75/477

75,不思議で綺麗な店の中

 行き先が分かったような私と、全く見当もついていないレオンを連れて教えてくれないヴィレイ先生が進む。

 なんだかいつもより楽しそうな気がするのだけれど、もしかして私たちがあたふたするのを見て楽しんでいるのだろうか。


 ありえそうだ。だってヴィレイ先生意外と性格悪いし。

 危険ではないはず、先生は基本的に厳しいけれど、生徒に怪我をさせたりはしない。

 何かあったら庇ってくれるし、休日に生徒を連れ出して危険な目に合わせるような人ではないからそこは心配していないのだれど、だけれど……!


「落ち着きがないな、お前たちは」

「先生が行き先を教えてくれないからです」

「どこ行くかくらい教えてくれてもよくねー?」

「教えるまでもない。ほら、着いたぞ」


 軽く笑った先生が指さす先には、丘に埋まるように作られた家があった。

 お店には見えないけれど、知り合いしか来ない店と言うことなら看板を出していないのも納得だ。

 私の家も、看板は出していないし。Open、Closeの札はあるけれどたまに変え忘れてるし。


 ノックもせずに扉を開けて中に入って行ったヴィレイ先生を見て、リオンと顔を見合わせた後すぐにその背中を追いかける。

 扉が閉まる前に身体を滑り込ませ、中の光景にほぅっと息を吐いた。


「んー?どうしたんだ、ヴィー。お前が人を連れてくるなんて珍しい」

「俺の生徒だ。魔術素材の店は珍しいからな、社会見学がてら連れてきた」

「ますます珍しいな。ヴィーがそんなに気に入るなんて、何か特殊な種族の子たち?」

「片方は最上位薬師の妹だ」

「へえ。花園の妹?溺愛してるって聞いたけど家を出たんだ」


 丘に埋まるように建っていたこの建物は、天窓がステンドグラスになっているようで部屋の中には彩鮮やかな光が差し込んでいた。

 そんな室内で天井から吊るされた布に座りヴィレイ先生に楽し気に声をかけた人、この人がここの店主なのだろう。


 ……色々驚きで流しそうになったけれど、この人は姉さまを知っているのだろうか。

 というか姉さまのことを花園と呼ぶのは大体精霊とか人ではない者たちなのだけれど、この人は人ではなかったりするのかもしれない。


「魔術素材の店……?」

「そうだよ。ようこそ、我が城へ。今日は何をお求めかな?」


 ふふふ、と笑った店主さんは不思議な見た目をしていた。

 姉さまの知り合いには特殊な見た目をした人が多いけれど、その人たちにも引けを取らない。

 ……いや、この人も姉さまの知り合い、なのか。


「姉さまを知っているんですか?」

「花園自身が来ることはあまりないけどね。上位薬学には特殊な素材が必要になることもあるのさ」

「花園……って、セルの姉ちゃんのことか?」

「ああ、そうとも。彼女は大木に守られた美しき花園だ。彼女の幕開きを知っている者たちはそう呼ぶことが多い」

「……セル?これどういうことだ?」

「私もよくは知らないよ。それに、姉さまの呼ばれ方って色々あるからあんまり気にしてなかった」


 気にしてなかった、というのは少し嘘。不思議な人なのだ、姉さまは。

 もしかしたら人じゃないのかな、なんて思ったこともあるけれど、人ではあるのだとヒソクさんは言っていた。


 あの言い方的に人ではあるけれどただの人ではないんだろう。

 美しき花園、愛しき母君、天上の姫……私が聞いたことのある呼称はこれくらいだけれど、そうやって姉さまを呼ぶのは人ではない者たち。


 人には分からない何かがあるんだろうと思うし、姉さまが私に何かを隠してるのは何となく知っている。

 姉さまが言わないなら聞かないけど、何か。何かがあるんだろう。


「花園は君に秘め事を持っているのか」

「多分そうだと思います」

「聞かないのかい?君が知らないそれを知っている者は、今目の前にいる」

「姉さまが言わないのなら、私は聞かないです。知る必要がある事なら姉さまが隠していても誰かが私に教えるでしょうから」

「……ふふふ。君は賢いねぇ、ヴィーが気に入るのも分かる気がする」


 もしかして、試されていたのだろうか。

 もしここで教えてくれと言っていたらどうなっていたのか。教えてくれたとしても、姉さまが私に隠していることは私が受け入れたくないようなことなのかもしれない。


「あんた、せんせーと仲良いんだな」

「ん?」

「ヴィーって呼んでる人初めて見たぞ」

「ヴィーと古くから知り合いなのは魔術系のやつらが多いからな。あまり人前に出ないからそう思うんだろうさ」

「そうなのか?せんせーって友達いないんだと思ってた」


 ベシッとヴィレイ先生の裾がリオンの頭を直撃する。

 いてぇ!と声を上げたリオンを無視して、先生は店主さんに向き直った。


「サルフィ、注文を」

「はいはい。何をお求めだい?」


 注文を始めたヴィレイ先生を邪魔しない様に少し下がって待っていたら、横にリオンが来た。

 まだ頭を押さえているけど、そんなに痛かったんだろうか。

 確かに服の裾とは思えないくらいいい音がしたけど。


「セルってこういう店よく来るのか?」

「よくは来ないよ。何回か連れて行ってもらったことがあるだけ」

「へえー……俺は初めてだな」

「魔法使いと魔術師は別物だからね」


 リオンの保護者は魔法使いだと言っていたし、それなら魔術系の店と面識はなくても別に困らない。

 サルフィ、と呼ばれていた店主さんが言っていた通り、上位薬学には様々な材料が必要になるから姉さまは色々なお店を知っており、私は時々買い物について行っていた。


「社会見学って言ってたけど、ただ荷物持ちが欲しかっただけかい」

「そう言って誘ったからな。文句は言われない」

「そうかい。取ってくるからちょっと待ってて」

「ああ」


 店の奥に去って行ったサルフィさんを見送って、ヴィレイ先生は私たちの方に歩いてきた。

 聞いた感じかなりの量の買い物らしい。

 ……まあ、だから私たちがお供に呼ばれたわけだけど。


「この店をどう思う?」

「不思議なところだな。まだ昼なのに、夜みたいな気配がする」

「綺麗なところですね。窓はないのに風の気配がします」

「他には?」

「んー……?なんか……天井が高いなーって」

「セルリア?」

「……精霊が好きそうな場所ですね」


 先生を見ると、満足げに笑っている。……合格、かな?

 荷物持ち、と言われてきたけれど、社会見学の意味もちゃんとあるらしい。

 そんなことを話している間に店の奥からサルフィさんが戻ってくる。


 その荷物の量を見て、リオンと顔を見合わせた。

 木箱がみっつ。……一人一つなのか、先生は持たずに私たち二人でみっつ運ぶのか。

 ヴィレイ先生が会計を済ませている間に後ろでリオンとどれを運ぶか相談をしておいた。


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