74,ヴィレイ先生の向かう先
テストがあると言われてから明らかに起きている人が多くなった授業を受けたりしていつも通りに過ごしていたら、いつの間にかヴィレイ先生の用事について行かせてもらう日になった。
リオンも流石に今日は寝坊しないだろう、と思うので、私はとりあえず朝食を済ませることにする。
髪はいつも通り纏めて、服は動きやすい物を選んで。
杖を持って食堂に向かい朝食を選んでいつも座っている辺りに腰を下ろす。
先生に言われている時間まではまだ余裕があるから、とのんびりスープを飲んでいたら、向かい側にロイが現れた。
「おはよう、セルリア」
「おはようロイ。お腹空かせてるね?」
「うっかり夜更かししちゃってね。今日は何か用事があるの?」
「ヴィレイ先生のお供。リオンも一緒に」
「へぇー。どんな用事?」
「まだ知らされてないんだ。楽しそうでしょ」
「ちょっと羨ましい」
そんなことを話しながら食事を終えて、今日はいっぱい食べるロイより先に席を立つ。
出かける前に借りていた本を返しておこうと思っていたのだ。
手を振って別れ、部屋に本を取りに向かい、回収してそのまま図書館に足を向けた。
図書館の開錠はレースさんが来た時なのだが、基本どんなに朝早く来ても開いている。
聞いてみたら、朝はすごく早く起きているらしい。
冬は日の出前から起きて色々としていると言っていたし、端的にすごいなぁと思う。
「おはようございます、レースさん」
「あら、おはよう。返却かしら」
「はい。お願いします」
返却手続きをしつつ少し話して、ヴィレイ先生の用事についていくのだと言ったら楽し気に行ってらっしゃいと手を振られた。
手を振り返しつつ図書館を出てきたが、もしかしてレースさんはヴィレイ先生の目的地を知っていたりするのだろうか。
そんなことを考えながら時計を確認して、そろそろ門の前で待っていてもいい時間だろうか、と思いつつ杖をクルリと回す。
……リオンは起きたかな。流石に遅刻はしないと思うけれど。
私の持ち物はいつも使っているウエストポーチと杖くらいなのでこのまま門に向かうが、リオンは大剣を背負ってくるのだろうか。
あれを背負って移動しているのを見ると、幅の確認が大変そうだな、なんて思ってしまう。
「……おー、セルリア」
「おはようリオン。ちゃんと起きたんだね」
「おー……めっちゃ眠い……」
門の前で杖を弄って時間になるのを待っていたら、眠たげに目を擦りながらリオンが歩いてきた。
……短い髪に寝癖が付いているんだけど、もしかして起きてそのまま来たのだろうか。
剣は背負っている。先生が何か戦う必要があるようなところに連れていくようなことをする印象はないけれど、私が杖を持っていないと落ち着かないのと同じようなことなのだろう。
くあーっと大きく欠伸をしたリオンはもう少しして脳が起きてきたらお腹が空いたと騒ぎ始めそうだ。……いや、その前にヴィレイ先生が来るだろうか。
なんて話している間に言われていた時間になり、それとほぼ同時に先生が校舎の方から歩いてきているのが見えた。
服装がいつもと全く同じなのだけれど、もしかしてあれ私服なんだろうか。
「二人とも居るな」
「おはようございます」
「おはよーござ……ふぁぁ……」
「リオンはまだ寝ているのか」
「そうみたいです」
そんな話をして、懐中時計をしまって歩き始めたヴィレイ先生についていく。
私たちの荷物や服装には何も言われないので、特別制限のある場所に行くわけでもないようだ。
「先生、今日はどこに行くんですか?」
「行けば分かる」
「教えてくれねえんだ……」
あくまでも行先は教えてくれないらしい。隠されれば隠されるほど気になるのだけれど。
学校を出て向かっている先は大通りの方だろうか。
……まあ、学校の位置的に大体は大通りの方に向かうんだけどね。
長方形に近い形の外壁で囲まれているこの国の中で、学校の位置はざっくりいうと大門を入って右奥になる。
学校が国内地図で見ると斜めになるように配置されているので、学校を出てそのまま真っすぐ進むと大通りに出れるのだ。
ちなみに冒険者ギルドは国内のど真ん中。大通りを七割ほど進んだ位置にある。
それより手前が商店街、出店の並ぶ大通りの中でも特に賑わいを見せる場所だ。私たち四人がよく遊びに行ってみて回っているのも場所だし、出店リコリスが来るのもこのあたり。
市場と呼ばれていることもある場所で、そこから左の方に入っていくとリオンの大剣を買った店なんかもある職人街になってくる。
私がよく行く文具店は通りの右側だ。冒険者稼業と関係の薄い店が集まっているのが右側に集まっている感じ。
そんなわけで、大通りからどちらに進むのかで何となくお店の系統を絞れるんじゃないかと思っていたりする。左に抜けるようなら冒険者の道具関連だと思っていいだろう。
「……大通り抜けないんですか?」
「ああ。看板を出している店ではないからな」
「隠れ家ってやつか!」
「やっと起きたか」
服の裾でリオンの頭を軽く叩いて、ブーツの底をコツコツ鳴らして先生は歩く。
向かう先は私が行ったことのない大門入ってすぐ右奥に行った当たりだろうか。
あの辺りは宿屋とそこで働く人たちの住宅が多かったはずだ。
壁に近くなればなるほど住宅が多くなったはずだ。
そのあたりを大通りに向かって行くと飲食店が多く軒を連ねている、はずだ。
あまり詳しくはないけれど、確かそう。そこらへん詳しいのはトマリ兄さんなので、兄さんが話していたから飲食と宿が集まる一体のはず。
「お。このあたり俺泊まってたぞ」
「やっぱり宿屋さん多いんだ」
……でもそうなると、本当に向かう先が分からない。
隠れ家的なお店だと言ってもこんなに奥まったところに店を構えるものだろうか。
いや、うん、まあ、姉さまの店とかもうお客さんが来ること想定してないような位置にあるから何も言えないんだけどね。
「さて、そろそろつくが、お前たちあまり騒ぐなよ」
「いや何があるって言うんすか」
「……なんか、なんかちょっと分かった気がする……!」
「え、セルもう分かったのか!?なに!?」
まだ確信ではないからリオンには言えないのだけれど、脳内にとある記憶が過ぎ去っていったのだ。
これはそう、姉さまの知り合いの魔女に一度だけ会った時の記憶。
魔女の隠れ家、招待状を持っていないと見えない扉の先は日の差し込む地中に繋がっていた。
魔術系統の人は、静かな場所を好む人が多いらしい。このあたりは、宿屋と住宅街だから他より静かな区画だ。
そして、ヴィレイ先生の担当科目は考古学と魔術なのだ。




