73,座学も大事、は最初から言われていた
後期に入ってそれなりに時間が経って、最近先生たちが数か月後にある学年末テストという物について言及し始めた。
筆記と実技とあるらしい。その結果によって何かあるわけではない、と先生たちは言っていたけれど、あの言い方は絶対知らされないだけで何かしらの判断材料にされるやつだ。
リオンあたり、今からでも筆記の勉強した方がいいんじゃないだろうか。
どんな内容なのかは分からないけれど、授業でやっていたあたりが出るのだろうし大体寝ているリオンは結構不味いと思う。
「セルー……」
「自己責任自己責任。反省しなー」
「うへぇ……教科書くらい読むべきか……?」
「むしろ今まで読んでなかったの……?」
放課後になって泣きついてきたリオンと共にいつも通り学校内の林の手前にやってきて、木陰に入ってのんびりと話す。
危機感を持っているだけいいのかな、と思うけれど今までさんざん起きてなよと言ったのを無視したのはリオンだ。
「そーいやさ、セルお前先輩たちと飛んでただろ」
「なんで知ってるの」
「見えたんだよ。あれ俺もやりてえ」
「えー……勉強しなよ……」
「やるから!今日の夜とかにやるから!」
このキラキラした瞳、もしかして羨ましかったのだろうか。
確かにリオンも私が飛んだのを見てからすげぇーと言い続けてはいたけれど。
他の人も一緒に飛べると分かってソワソワしている……とか?
……ありそうだ。すごいこっち見てくるし。
それでもまあ、今日飛んでやることはないだろう。
「勉強しな」
「えー!先輩たちは飛ばすのにかよぉー」
「ちゃんと勉強してテスト乗り切ったら空中散歩くらい付き合うよ」
「本当だな!?約束だぞ!」
「そんなに飛びたいのね……」
かくいう私も最初に覚えたがった魔法が飛行魔法なのでちょっと笑ってしまう。
やっぱり人は空に憧れるものなんだろうか。
飛ぶのは気持ちがいいし、鳥なんかを見ていると自分で飛んでみたくもなる。
「勉強……勉強なぁ……」
「そんなに嫌なの?」
「嫌……ってか、まあ。大事なのは分かんだけどさぁ……」
まだ何か言っているリオンを眺めつつ、私も最初の方から復習しておこうかと考える。
一応日課としてその日に習った内容と次にやるだろう内容を予習復習はしていたけれど、最初の方の内容は忘れているところもありそうだ。
……そういえば、ソミュールは大丈夫なのだろうか。
テスト内容は大丈夫だとしても、彼女はテスト中に寝てしまって何も書いてないなんてこともありそうな気がする。
まあ、そのあたりは先生たちも何か考えておいてくれるだろう。
ミーファは真面目に授業を受けているし、教科書の文なんかで読めないところがあると私に聞きに来ていたりと意欲的なので心配いらないかな。
「……テストって、やっぱり研究職の方が難しいのかな」
「だろうなー。向こうは基本座学だろ?」
「たまに夕飯の時も授業の内容話し合ってるよね」
「あれ聞いてても何が何だか分かんねえんだよな」
「そう?」
「……やっぱセルって研究職向いてると思うぞ」
「魔法は全部戦闘職なんだもん」
なんだか恒例になってしまった気がする会話をしていたら建物の方からヴィレイ先生が歩いてきているのを見つけた。
今日は魔法を放っているわけでもないので、先生が来る理由が分からない。
目だけで何かしたのか、何もしてないぞとそんな会話をして、二人そろって先生の方に向き直る。
いつの間にか、先生は目の前まで来ていた。……怒られるようなことは何もしていないのだけれど、ヴィレイ先生は片目が隠れていることもあって、何だが妙に迫力があるのだ。
「リオン。セルリア」
「はい」
「なんすかせんせー」
迫力はあるけれど、怒られることをした覚えはないのでびくびくする必要はない。
リオンは良くも悪くも調子が変わらないので、とりあえず先生の次の言葉待ちだ。
……とりあえず、怒ってはいなさそう。何かしらで怒られる時はもっとこう、お前ら何してんだ的な目を向けてくるので。
「お前たち、次の休みは暇か?」
「休み、ですか?用事はないですね」
「俺もとりあえずなんもねえかな」
「街に用事があるんだが、荷物持ちについて来てくれないか」
「珍しいですね……そんなに荷物が多くなる用事なんですか?」
「ああ。面倒なら断ってもいいが」
ヴィレイ先生がこうして誘ってくるのは珍しい。というか、初めてだ。放課後に手伝いをすることはよくあるけれど、休みにはそもそも先生を見かけることすらない。
……これは、連れて行ったら私たちの利になるかもしれない何かがあるということなのだろうか。
私は何かと目をかけてもらっているし、リオンは座学で寝ていること以外は優秀な生徒だ。
とりあえず、私が部屋に引きこもって過ごすより有意義な休日になりそうなことだけは確かな気がする。
「行きたいです」
「俺もー!せんせーの用事とかなんか楽しそうだな」
「リオンお前、俺のことを何だと思ってるんだ」
「なんか怪しくて頼りになる人」
「それは貶してるのか?それとも褒めているのか?」
リオンはなんだかんだヴィレイ先生に懐いているようだ。
そのまま少し先生と話していたけれど、先生は他に用事があるらしく飼育小屋の方へ去って行ってしまった。
「用事ってなんだろうなー」
「先生の休日なんて想像つかないよね」
内容は教えて貰えなかったので、そんなことをのんびりと話す。
危険なことはないだろうから楽しみにしていればいいだろう。
まだ週の半分ほどなので休日まではそれなりに時間があるし、あまり気にしすぎてもいけないと思うし。
「……リオンは勉強しなね」
「うっ……だよなぁ……」
念のため、と釘をさしたらあからさまに目を逸らされた。
……何もしないで困るのは自分だと思うのだけれど、そんなにやりたくないのだろうか。
考えるのは苦手だーと言ってはいたけれど別に覚えが悪いわけではなかったし、何かしたくない特別な理由でもあるのか。
言いたくないのかもしれないし聞かないけれど、なんだかちょっと勘繰ってしまう。
ただ単に勉強が嫌いなだけという可能性も普通にあるとは思うけど。




