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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
71/477

71,ちょっとした空中散歩

 先輩たちとの手合わせが終わり、放課後になってみんなが自分の目的地に向かって散っていく。

 結局どの組も先輩たちを一人も落とすことは出来ず、完全敗北の形で終わった。

 まあ、私的には楽しかったからそれでいいんだけれども。


 そんなわけで満足した私は、いつも通り図書館に行こうと思っていたのだけれど。なんで、今目の前にメイズさんが陣取っているんでしょうか。

 こんな光景前もあった気がする。具体的には、初めて会った時とかに。


「セルリア!セルリアセルリア!」

「はい、セルリアです」


 非常に楽しそうな声で名前を連呼されても何も伝わらないです。

 こんなに楽しそうな先輩は初めて見た。そんなに付き合いも長くないから基本的に知らないことばかりな訳ではあるけど。


「今日研究室来るか!?」

「え、行った方がいいなら行きますよ」

「じゃあ行こうぜー!」


 ……本当に楽しそうだ。授業で格下相手とはいえ連戦してテンションがおかしくなっているんだろうか。

 そんなことを考えながらルンルンで進むメイズさんの後ろを付いていく。


 スキップでもしそうなウキウキ加減で進むメイズさんは、研究室についてもまだウキウキのままだ。

 研究室にはいつも通りメリサさんが先に来ていて、ウキウキなメイズさんを見て「うわあ」とあきれたような声を出した。


「久々に見た」

「結構あるんですか?」

「初めて見るものとかに過剰反応した姿だね」

「メリサ!魔法見るやつ出来るよな!」

「魔視?出来るけど精度低いよ」


 ……何がしたいのだろうか。私を呼んだってことは魔法関連なんだろうけど、まだ何も説明を聞いていない。

 メリサさんと顔を見合わせて首を傾げ、メイズさんに向き直る。


「セルリア、飛んでただろ?あれどうなってんだ?」

「あー、構造が知りたいの?」

「おう!」

「あれは足元に風を起こして浮いてるんですよ」


 キラッキラに目を輝かせてこっちを見てくるメイズさんの言いたいことを察したメリサさんが、飛べるの?と聞いてくる。

 飛べます、と返事をして、でもなんでメリサさんを巻き込んだのだろうかと首を傾げた。


「流石に魔法そのものはパッと説明できないよ。というか普通にセルリアに聞きなよ」

「……それもそうだな!?」

「どういうことなんですか?」

「メイズは分からないことがあるとあたしのところに聞きに来る癖があるの」

「なるほど……?」


 何となく、分かる気がする。何でも聞けば教えてくれる人が居ると、その人に聞く以外の選択肢が脳内から消え去ってしまったりする。

 私も昔、シオンにいに対してそんな感じになっていたことがある。


「というかなんでセルリアが飛んでるところを目撃してるの?」

「今日戦闘訓練だったんだよ」

「……ああ、そんなこと言ってたね」

「凄かったぞー!イーラスも感心してた!」

「へえ、そんなに」

「一発も入らなかったですけどね……」

「二年の差は大きかろう……ふはは!」

「うわあ。メイズが調子に乗ってる」


 ふんすっと胸を張ったメイズさんの頭を軽く叩いたメリサさんが笑顔でこちらを向いた。

 そしてメイズさんの頭を小突きながら言う。


「でもまあ、あたしもちょっと見てみたいな」

「飛んでるところ……ですか?」

「うん。そんなに見れる物じゃないから」

「俺もまた見たい!見たい見たい!」

「いいですよ」

「本当!?」

「やったー!林の方行こうぜー!」


 もう一度は皆の前で飛んでしまっているわけだし、ここまで来たらもう何度飛んでも変わらないだろう。飛ぶのは好きだし、学校の裏で飛ぶくらい構わない。


 そんなわけで三人で林の手前……普段から私とリオンが遊んでいる辺りに移動した。

 このあたりで私たちがよく遊んでいるのはヴィレイ先生が知っていることなので、今更ここで魔法を使ったからと怒られることはない。


 少し離れたところからわくわく顔で見ているメイズさんたちが居るし、と普段は省略している演唱をそっと声に出す。まあ、全部は面倒だから略式にするけども。


「その風は我が衣。その風は我の足。我が身に纏え、我が身を空へ押し上げよ」


 小さく呟いて風を纏い、特別分厚くした足元の風を踏んで別に作られた風で足元の風ごと空に登る。

 上がってから一度旋回して、下にいる先輩たちに目を向けた。

 歓声を上げて見上げてきているのでゆっくりと低空飛行に移行し、目の前に浮かぶ。


「わあー!やっぱすげえー!」

「優雅ねー」

「一人くらいなら一緒に上がれますよ」

「本当か!?俺でも行ける!?」

「行けます」


 風の力で押し上がる私が引き上げるので、一緒に上がる人に魔力があるか否かは関係ないのだ。

 なのでメイズさんが虚魔族だろうが関係なく空につれていける。

 まあ、私の熟練度がまだ低いせいで一人しか連れていけないんだけどね。


「やりたいやりたい!」

「へぇーすごいね。自分だけじゃなくて他人も出来るんだ」

「手を繋いでる人を一人だけですけどね」

「十分すごいよ」


 今なら自力で飛べるんじゃないかと思うくらいにぴょんぴょんしているメイズさんと手を繋いで、念のため地面にクッション代わりの風も敷いてから空に上がる。

 グンッと力が入った右手に力を込めて、落とさない様に風を強くした。


「すげえ……!」

「空、初めてですか?」

「おう!魔法使えないと飛べないと思ってたぞー」

「楽しいですか?」

「おう!!」

「それは良かった」


 このくらいなら私的にはそれほどの負担でもないので、ちょっとした空中散歩でここまで喜んでくれるのはなんだかこっちまで嬉しくなってしまう。


「メイズー!交代!あたしもそれやりたい!」


 一人で微笑んでいたら下でメリサさんが大きく手を振っていたので笑って地上に降りる。

 メイズさんは横で不満げにしていたけれど、まあまた今度付き合うので今はメリサさんを空にいざなうことにした。


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