69,ついに回ってきた順番
私たちの前に先輩たちとの練習試合をするのは五組。
それだけ見ていて、少し気付いたことがある。
今やっているのが五組目なので、それが終わる前にとリオンの耳元でこそこそと呟く。
この距離ならミーファは問題なく聞こえているらしいので、リオンにだけ言っているわけではなく一番効率のいい内緒話の形がこれなのだ。
「まず一個。やっぱりあの盾は魔法加工されてる」
「じゃあなんかセルが魔法かけるんだな?」
「うん。演唱でバレる気がするから、無しで出来る風魔法だけ二人の武器に纏わせるね」
そこまで言ったところで、ミーファの肩に置いていた手がきゅっと握られた。
握っているのはミーファ。これは声の代わりに返されるyesの返事だ。
握り返して、リオンの方に向き直る。
「それから、イーラスさんは多分戦闘時は前髪を上げるから、上げたら私たち警戒されてるってことで」
「前髪?ずっと降ろしてねえか?」
「ソミュールたちの時だけ上げてた。多分ソミュールが初撃撃った後から」
「よく見てんなぁ……」
ソミュールたちは三番目だった。
見ていた限り、最初は起きていたソミュールが自分が寝る前に一人くらいは落とそうと魔法を後ろへぶっぱなし、それを見たイーラスさん次の瞬間前髪を退けていた。
ついでに弓を構えてもいたのだけれど、ソミュールは三発撃ったところで眠りに落ちて退場した。
多分早急に眠気に襲われると悟っていたのだろう。
この後眠ってしまうと気付けるときがあるのだと彼女自身が言っていたし。
結局ソミュールたちも一人も落とすことが出来ず、ソミュールが寝てしまった後はすぐに決着がついた。
有意義な情報をありがとう、と内心呟いたのは私の他に何人いたか。
「で、最後ね。メイズさんに向けて撃たれた魔法に関しては、絶対にレウルムさんが割り込んで防御する」
「……さっきから思ってたんだけどよ、セル名前覚えんの早ぇよな」
「今それ言う?」
「聞きながら誰がどれか考えてたんだよ」
「分かりにくかった?」
「いや、分かったから大丈夫」
「ミーファは?」
もしかして伝わっていなかっただろうかと思って聞くと、手をきゅっと握られる。
多分、大丈夫の意味だろう。ならこのまま続けていいだろう。
「一個、やりたいことがあるの」
「おう、何だ?」
「魔法は全部レウルムさんが防ぐために割り込んでくる。だから、私がメイズさんに魔法を撃っていればレウルムさんをこっちに止められるんだ」
「……つまり?」
「ミーファとリオンで、メイズさんを狙ってほしい。私がレウルムさんを足止めする。弓は……まあ、殺気を感じたら、と言うかあんまり止まったりしない方向でどうにかなってほしいなって」
「なるほど?」
やってみないと分からないのは、仕方ない。だって戦うの初めてだし、実力は向こうが上だろうし。
やってみないと分からないけれど、どうにか一矢報いたい感じはあるので頑張りたい。
せっかく最後に近い順番を引いたのだし、一人くらい落としてみたいじゃない。
「でも盾の人をセルが相手すんなら俺らの武器に魔法かける必要なくね?」
「もしそっちに割り込んだとして、魔法で弾かれると思ってるより腕が持っていかれるんだよ。弾かれるの防止する程度のものだと思っといて」
「ふーん……そういうもんなのか……」
そんなことを話している間に五組目が負けて終わってしまい、私たちの番になった。
手合わせの円に入りつつ、不意を衝くためにリオンの影にいるミーファを横目で確認する。
もうすでに戦闘モードに入っているようだ。いつものおどおどとした雰囲気ではなく、ただ静かで冷ややかな雰囲気を纏っている。
開始の合図はないので、円の中に入って向かい合った時点で試合開始だ。
基本的には待ちの姿勢でいてくれる先輩たちだが、あまり長く準備していると撃たれる。
私はメイズさんの位置を把握して、そっちに魔法を撃つことになるので目は離さずにゆっくりと杖を回す。
まずはミーファとリオンの剣に風を。続いて、自分の周りに風を。
これで矢は防げるはずだ。魔法貫通の矢を使っているのは、少なくともこの練習試合中は見ていない。
視界の端で、ミーファが動いたのが見えた。
同時にメイズさんに向けて風の球を放つ。当然のように割り込んできたレウルムさんに弾かれた。
ここまでは、事前に決めていた通り。後はこれでどこまで出来るか、なのだ。
いつもの手合わせと違って事前準備が多く、この場はまだ風で満たされていない。
まだ杖は回したままだが、それでは対応出来なくなってくると回している余裕もなくなってしまうのだ。
ふっと短く息を吐く。思考を放棄して、目の前の相手に集中する。
まだ戦闘に慣れていないけれど、家の戦闘部隊である兄姉たちから教わったこと。
考えながら戦う余裕のない相手には、ただ対応すればいい。
倒しきる力はなくていい。今私は、この人をここに釘付けられればいい。
なら、下手に思考を回す必要はない。そのために事前に仕込みだけした。
「舞え」
短く、呟くように。目の前の相手には聞こえるように。
他に音を拾えるのは、ミーファくらいだろう。
呪文は省略する、音は拾ってもらう。私が動くと、狙っていると、防がなければいけないのだと思ってもらう。
「……風か」
問いかけではないのだろう。風の音が大きいが、それを作った張本人である私には意外と他の音も聞こえている。
まあ、限度はあるのだけれど。
面倒だ、とでも言いたそうに呟かれたその言葉に、思わず口角が上がった。
ああ、駄目だ、楽しい。楽しすぎて、つい回していた杖をしっかり握って相手に向けてしまった。
レウルムさんとの距離は、いつの間にか先ほどより縮まっている。
「舞え、踊れ。我風の民なり、風の歌を歌うものなり」
先ほどよりも、しっかりとした演唱を。
相手と自分を囲うように、風で壁を作るように。
自分に有利な場を作るため、相手を逃がさないため、こうして壁を張る魔法は意外と数がある。
他二人の様子は見れなくなってしまうが、確認よりも引きはがしを優先する。
それは先に言ってあるし、二人の剣に纏わせた風がまだ残っているから退場していないことは分かるのでそれでいい。
「……魔法使いが一対一するのか」
「…………ふふふ。出来るだけ長く遊んでもらいますよ」
「うわ、質の悪いタイプの魔法使いだ」
ついつい楽しくて答えてしまったけれど、質が悪いは酷くないだろうか。
とはいえ私のやりたいことは先輩も気付いているようで、それでも乗ってくれるのは余裕の表れなのか後輩へのハンデなのか。まあ、楽しいからどっちでもいいのだけれど。




