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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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62,学校再開の日

 長期休みが明け、ついに授業が再開された。

 休み前と全く変わらない状態で教室に現れたヴィレイ先生は、空いたままの席に一瞬だけ目を向けた後、何事もなかったかのように日程の説明を始めた。


 あまりにも安定の、イメージ通りの先生過ぎて何故か少し安心してしまう。

 知らされた日程は、休みの間に全員が前進なり後退なりしたものだと仮定しての実力把握的な模擬戦がまずあると。


 なんとなく、そうじゃないかとは思っていたけどやっぱり当然のように模擬戦はあるらしい。

 リングでの魔法の扱いは家に居る間にだいぶ練習したけれど、まだ実戦レベルじゃないだろうし大人しくいつも通りの模擬戦をするしかなさそうだ。


 ……まあ、隠し種ってことにすればいいのでこれでいいだろう。

 出来る限り手の内を隠して、同じことの繰り返しで勝ち続けられるならそれでいいのだ。

 他の人にこの一か月でどんな変化があったのかが分からないのでそれには注意しないといけないくらいだろう。


 考えながら話を聞いて、脳内で予定表を埋めていく。

 基本的には休み前と変わらないのだろう。ただ、そろそろ二年目に向けて自分がどの科目を専攻するのかを決めないといけないらしい。


 決定するのは年の終わりだけれど、それまでにある程度決めておく必要があり、そのためにこれからは今まで以上にちゃんと授業を受けるように、と。

 私はもう魔法の攻撃分野で確定だが、決め切っていない人もまだまだ多いのだろう。


 今日は説明と各種確認で終わりになるらしいので、必要になりそうなものでも確認して過ごしたりするべきなのかもしれない。

 ……まあ、多分研究職の方の話を聞いてこっちの話をして、のおしゃべりになって終わるけれど。


 確認、とだけ言われた個別のそれが終わるまでは戻れないのでのんびり順番待ちをする。

 勝手に教室から出なければ自由に過ごしていいらしいので、今日までのんびり話せていなかったし、と寝ているソミュールの元へ向かう。


 前の席を空けてもらって座っていたミーファがこちらをみてパアッと顔を明るくした。

 ミーファがソミュールを運んでいるのは皆知っているので、ソミュールの前の席の人はミーファに席を譲って逆にミーファの席で友人と話していることが多い。


「セルちゃん!」

「やっほー。……ソミュール起きないね」

「うん。ずーっと寝てるの」

「ミーファは休みの間何してた?」

「お手伝い、かな。畑弄ったり、罠とか作ってた。セルちゃんは?」

「各地を連れまわされてた。第三大陸まで行ったよ……」

「わあ……大変そう、だけど楽しそうだね」

「二人ともにこにこだねぇ……」

「わ、ソミュール起きた」

「おはようソミュちゃん」


 話していたら急にソミュールが顔を上げた。

 急に起きたのか、起きてはいたけど反応していなかっただけなのか。

 ともかく今は話に混ざるつもりらしいので、実は気になっていたソミュールの休み期間の過ごし方を聞いておこう。


「僕?僕はねえ……寝てたねぇー」

「それはそうなんだろうけどさ……」

「知り合いがね、猫飼ってて……猫と一緒にずーっと寝てたの」

「猫とソミュちゃん……ちょっと似てる?」

「まあ、睡眠時間は同じくらいなんじゃないかな?」


 何となく、猫団子に混ざって丸くなっているソミュールは想像が出来る気がする。ついでに、ちょっと見てみたい気もする。

 そこに白ウサギが混ざるのか……なんともふわふわな空間だな。


「そいえばねー、セルリアに会ってみたいって」

「……知り合いさんが?」

「そー。魔法とかあれこれやってる人だから、魔法適性とかのうんぬんで興味あるって」

「へぇ。何してる人なんだろ」


 ソミュールが休みの間泊まり込むくらいの人なら悪い人ではないのだろうし、機会があったら会ってみてもいいかもしれない。

 なんて考えている間に順番が回ってきたらしく、先生に呼ばれて廊下に出る。


「各種確認、お前のは……四種ほどだな」

「四種……ですか」

「ああ。杖を弄ったか、リングを弄ったか、持ち込んだ魔道具の詳細、後はお前の荷物に入っていた本について」

「本……?あ、もしやシオンにい……」

「確認してないのか」

「……あと二箱、残ってます」


 入学の時と同じく何か知らぬ間に追加荷物を入れられていたらしい。

 せめて一言欲しかった。まだ開けていなかった箱に入れられていたらしいから全く気付かなかった。今日は帰ったら大急ぎで残りの荷物も整理しないといけなくなった。


「じゃあ本は後で詳細を教えろ。杖は?」

「調整はかけてもらいに行きました。パーツは何も変えてないです」

「リングもか」

「はい」


 壁に寄りかかって気だるげに確認を進める先生は、なんだか疲れている感じだ。

 ……先生は、休みだったのだろうか。

これはなんだか休めていなさそうな顔色なのだけれど。


「魔道具は?」

「湯沸し器です」

「……あれがか」

「あれがです……気付いたら、渡されてまして……」

「……そうか。お湯沸かして何するんだ」

「お茶飲みます。飲みながら読書します」

「そうか」


 ため息を吐かれてしまった。正直自分でも笑えるくらい単純な理由なので表情筋に力を入れて笑わない様にする。

 面倒そうな顔でこちらを見た先生は、顔面に何か紙をベシっと当ててきた。


「うわ」

「お前は魔法系で確定だろうから、実技はそれで組む。確認しておけ」

「分かりました」


 渡された紙は授業内容について、らしい。二枚目が来年に向けての魔法特化構成案、だろうか。結構しっかり私用に組まれたもののようだ。

 ……普通にためになりそうなものを貰えた。しっかり読み込んでおこう。


 これで解散らしいので、このまま部屋に戻る。

 まずは開けていなかった荷物の整理、その後に貰った紙を読み込んで時間が余れば図書館に寄って……それで夕食の時間になるだろうから、夕食の時に研究職の様子を聞いてみよう。


 先生はこの紙を生徒全員分作ったのだろうか。

 すごく大変そうだし、なにより一人一人しっかり見ていないと作れないだろうものなのだけれど。

 これを全員分作っていたから休めてなくて顔色が優れない、と言われても納得できる。というか実際それが理由だったりするのだろうか。


 先生たちが皆これをやっているのだとしたらすごいなぁと感心するばかりだ。

 ついでに、他の人の内容が気になる。リオンとか頼んだら見せてくれたりするだろうか。

 私とは内容が一切被らないだろう物理特化重量重視はどんな内容を貰ったのかとても気になるのだけれど。


気付けばもう2020が終わりますね。

どうにか年内は更新ペースも落ちずに来れたので、来年も頑張りたいです。

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