表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学び舎の緑風  作者: 瓶覗
60/477

60,休暇の終わり

「セルちゃーん。準備できたー?」


 聞こえた声に、とりあえず返事をする。

 急いで部屋を出て階段を下り、家の中を駆け抜けて外に出た。

 そこにはすでに出店リコリスが待機していて、もう後は乗り込むだけのようだ。


 長期休暇は、終わってみればあっと言う間だった。

 色々やったしあちこち行ったので、余計にあっと言う間だった気がする。

 まさか第三大陸にまで行くとは思っていなかったけど、行ったし楽しかったしそれでいい。


「忘れ物は?」

「無いと思う!」

「じゃあ行こうか」


 休みの間に増えた物たちは全て出店リコリスに乗せてある。

 国の中に入ったらそれらすべてを持って学校に向かい、中身の検査がされたのちに部屋に届く。

 荷物の流れは入学の時と同じなのだけれど、あの時と違うのはやる事がないということだ。


 何もすることがないのに待っていないといけない。とはいっても、別に部屋に居ないといけないわけではないので図書室にでも行っていればいいだろう。

 ……まあ、誰かしらもう戻ってきていると思うので、捕まえて話をしている間に終わるだろう。


 シャムとロイはまだ分からないけれど、リオンは学校が再開されて人が戻ってくるための授業のない数日間の初日には学校に入ると言っていたし。

 ちなみに私は二日目の到着になる。


「さみしくなるなぁ……」

「シオンにい、お出かけついてこないからあんまり変わらないんじゃ……」

「ちゃうやん、帰る場所がここだから気にならんのよ」

「それは変わらないと思うけど……」


 それでも違うのーとだらりだらりと言い続けてのしかかってくるシオンにいはウラハねえの手によって引きはがされ、適当に距離を開けられていた。

 それを眺めていたら、今度は姉さまに抱きしめられた。


「何かあったら帰ってきてもいいからね!」

「ふふ、うん。最終手段ではあると思うけど」

「名前も使っていいからね!」

「ごめん、それはもうやった」

「いいよ!」


 元気よく返事をくれた姉さまはコガネ兄さんによって引き離され、その間にトマリ兄さんに促されて出店に乗り込む。

 そのまま出発して、徐々に見えなくなる家を眺める。


「セルリア?」

「……うーん。楽しみなんだけど、やっぱりちょっと寂しいね」

「主がフォーンに行くことがあったら連絡がいくだろうから、会いに来るといい」

「うん。兄さん達にも会いに行くね」

「ああ」


 いつも通り足を投げ出すように出店の端に座って在庫なんかの確認をしているコガネ兄さんの横に移動して手元を覗き込む。

 ペンを持っていた手はいつの間にか私の頭の上に乗っていた。


 結んでもらった髪を乱さない様に、とゆっくり撫でられる手はいつもの少女の姿と違って私よりずいぶん大きい。

 コガネ兄さんはそのまましばらく頭を撫でていたが、少ししてから何かを見つけたのか手を下ろして笑った。


「珍しいな」

「何が?」

「上を見てみろ」

「……わあ、ドラゴン」

「群れで飛んで、向こうに行くなら戻る所だな」

「ドラゴンの、巣?」


 指さした先を見上げると、空高くをドラゴンが複数体飛んでいた。

 向かう先はドラゴンの巣であるらしいのだけれど、私は行ったことも見たことも無いので気になってしまう。


 杖を抱えて出店の屋根の上に登り、一気に良くなった見晴らしに頬を緩めた。

 ドラゴンは好きだ。会ったことがあるのは三体だけだけれど、昔は飛竜と呼ばれていたのだと聞いてから格段に好きになった。


 私は結局、空が好きなのだろう。

 空が好きだし、飛ぶのが好きだし、飛んでいるものは大体好きなのだ。

 だからドラゴンも好き。姉さまが背中に乗って飛んだことがある、という話を聞いた時に羨ましくて仕方なかった。


「セルリア、そろそろ戻れ」

「はーい」


 屋根の上でどれくらい空を見上げていたのか分からないけれど、呼ばれたので中に戻る。

 よく見たらもうすぐフォーンに到着する、というところまで来ていたようだ。だから呼び戻されたのだろう。


「ドラゴンは良く見えた?」

「うん。最後の方は距離があってぼやけてたけど」


 話しながら、自分の荷物を確認する。

 全て魔法で浮かせて持っていく予定なので量は問題じゃないのだけれど、うっかり店の在庫を持っていったりしてはいけないので念のためだ。


 フォーンの中に入って、少し進んだところでリコリスを止めてもらい、荷物を浮かせながら出店を降りた。

 振り返ってコガネ兄さんに手を振って、前に回ってトマリ兄さんにも手を振って。


「行ってきます!」


 と元気よく言ってみたら、各々から緩い返事が返ってきた。

 引きはがされて家に置いてこられた姉さまとシオンにいと違って、二人はあくまでいつも通りだ。

 基本的に出店リコリスを担当しているので私に会う頻度も一番高いから別に他より寂しくないのだと言っていた。


「……よし、行こう」


 杖をぎゅっと握り直して、浮かせた荷物がちゃんとついて来ているのを確認して、吸った息を深く吐いて。今日からまた、ちゃんと。なにがというわけでもないけど、ちゃんとしないと。


 そんな漠然とした思いを一旦投げ捨てて、とりあえず学校で見知った人を探そう、と歩きなれた道を進む。

 大通りを進めば着くのだけど、人が多いし今日の私は大荷物だからと細道に入る。最初はのんびり歩いていたのに、段々と速度が上がっていって最終的には学校までを駆け抜けた。


 到着したところで一度振り返って荷物を落としていないことを確認して、これを預けた後に誰かいないか探してみよう、と思っていたのだけれど。

 学校の正門を潜ったところで木陰に座ってボーっとしている見慣れた姿を見つけた。


「ん?おー!セル!」

「リオン!久しぶり」

「やーっと来たかよ。シャムもロイもまだなんだよ」


 にぱーっと笑ったリオンに駆け寄って、とりあえず大きな外傷なんかは見えないことに息を吐いた。

 その後は荷物を預けて、もともとリオンが座っていた位置に二人で腰かけて学校に入っていく生徒の観察がてら、お互いの休み中の話になった。


今話で休みは終わり、学校再開です。思ったより休み期間の話が長くなってしまった気がします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ