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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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6,勝手をするとすぐバレる

 次に向かったのは建物の奥、日の光が弱く差し込む干し草の上にそれは寝転がっていた。

 複数の足音が聞こえたからか、眠たげに目を開けて面倒くさそうにこちらを見てくる。

 本で、絵は見たことがある気がする。


 太い手足には鋭い爪が輝き、尻尾がゆらゆらと重たげに揺れる。

 顔つきはどこか愛らしいが、全体的に見ると愛らしさが前面に出されるわけではない。

 大きさは、猫より大きくて犬より小さいくらい。


「ああ、眠たいねぇ。ごめんねぇ」

「大丈夫そうか?」

「多分大丈夫だよ。眠たいだけみたい」


 そんな会話をしてからこちらを振り返った先生たちは、生徒を見渡してから干し草の上で二度寝を始めたその生き物を手で示した。


「少しでもこれについての知識を持っている者は?」


 聞かれて、どうしようかと考える。

 考えた後に、周りがちらほらと手を上げ始めたので小さく手を上げておくことにした。

 知っていると言っても本当に少しなのだ。本に載っていたから、そこに書いてあった知識だけは知っているがそれだけだ。


「アレーサ、言ってみろ」

「え、ええと……マルフィスという種族です。普段は土の中で生活していて、魔力を食料にしています。食べた魔力を体内にため込み、結晶化させて排泄するので魔道具師がペットにしていることがあります……?」

「上出来だ。アレーサが言った通り、これはマルフィス。学園で飼育しており、これが生んだ結晶を授業で使用することがある。お前たちも世話になるから今のうちに覚えておけ」

「マルフィスのマレーちゃんだよー」


 飼育の先生がしゃがみ込んで手を伸ばすと、マルフィスはもぞもぞと移動してその膝に上がった。

 そして、そこで寝息を立て始める。


「マルフィスは基本的には大人しい種族だ。ただし、自分の住処を荒らされると体内にため込んだ魔力を一気に放出する。今この個体は上限近く魔力をため込んでいるからな。何かするとこの小屋が飛ぶことになる。妙なことはするなよ」


 淡々と生徒を脅した後に、ヴィレイ先生はドラゴンの時と同じく生徒を指名してマルフィスに触れさせる。

 マルフィスは気にならないのか、飼育の先生の膝の上で眠ったままだ。


 今回は呼ばれなかったので、後ろからそれを眺めながら興味本位で目に魔力を集める。

 魔視、と呼ばれる技術で、目に魔力を集めて視界を覆い、普段見ている風景ではなくそこにある魔力を視認するという行為だ。


 片目だけ魔視を行って、魔力量や属性を観察する。

 確かに、マルフィスは相当量の魔力をため込んでいた。もう少しで上限に達して、ため込んだ魔力は結晶化されるのだろう。


 魔力が結晶化したものは魔石と呼ばれるのだが、マルフィスが生み出したものは純度が高く高価だが質のいい魔石である、と聞いた。

 マルフィスは今、柔らかな赤い魔力を大量にため込んでいた。少しオレンジも混ざっているが、十分に純度は高いだろう。


「セルリア。ついでだ。これが次に生み出す結晶は?」

「え」

「暇だからと魔視をしているからだ」

「……炎だと思います」

「そうだな。今は炎の魔力しか与えていない」


 こっそりやっていたつもりだったがバレていたし、怒られてしまった。

 魔術を担当すると言っていたし、魔力の動きには敏感なのかもしれない。

 ……魔術は、魔力に頼らないものも多かった気がするけれども。


「他に何が混ざっている?」

「……爆発、ですかね」

「ありゃ、混ざっちゃったか。まあ近しいしね、仕方ないね」


 今のはついでなのだろう。

 ……先ほどの質問も、本当にただのついでなのかもしれないけど。

 まあ、勝手にやっていた私が悪いので大人しくしておくことにする。目の魔力もそっと分散させた。


「さて、今近付いても問題ない種族が他にいないから戻るが、ここにはまだほかにも複数種の生物が暮らしている。何かしでかすとフォーン中が混乱に陥る可能性もあるから、ここには不用意に近づくな」


 最後にそんな脅しをかけて、ヴィレイ先生の先導で来た道を戻る。

 薄暗かった小屋の最奥から出てくると、抜けるような青空が広がる今日の日差しは眩しすぎる気がした。


 ヴィレイ先生は全く反応しなかったが、生徒の一部は私と同じで日差しを受けて一瞬歩みが止まった。

 それでもすぐに置いて行かれる移動速度ではないので後を追い、何の問題もなく教室に戻ってきた。


「全員いるな。今から明日以降の日程表を配る。一年時の初めは教室の移動も多くはないから迷うことはないだろう」


 言いながら配られ始めた紙を見て、少しはあるらしい教室の移動を確認する。

 この教室以外には三種ほどしか使わないようだ。

 授業の内容も全体的に基礎を鍛えるものばかり。まだ始まったところなので、これから内容も増えていくのだろう。


「文字が読めないものは記号だと思って認識しろ。上が科目、下が教室だ。上の文字と同じものが書かれた本をもって、下の文字が書かれた教室に移動する。いいな?」


 静かに響くヴィレイ先生の声を聴きながら、いつから図書館に行っていいのかが気になった。

 もう勝手に行っても良いのだろうか。それなりに、自由な時間があるようなのだが。

 ここで何も言及されなかったら、隙を見て聞いてみよう。そんなことを考えつつ机の横にひっかけてある杖を弄る。


 本格的に授業が始まるのは明日からのようで、今日はこの後空き時間になるらしい。

 騒がなければ校内を回っていい、と言われたが興味があるのは図書館くらいだ。

 最後に、何か質問がある者は聞きに来いと言って話を締めくくったヴィレイ先生のもとに、すぐに数人の人が寄った。


 その人たちが居なくなってから聞きに行こうと思っていたのだが、意外と人が多い。

 まあ、急ぐことでもない。座ったまま待っていればいいだろう。

 そう思ってぼんやりと待機してどれくらい経ったのか、わちゃわちゃしていた質問待ちの人が皆いなくなった瞬間に先生と目があった。


「お前はどうした?」

「あ、えっと……図書館って、もう行ってもいいんですか?」

「構わん。本の貸し出し等注意事項に関しては図書館在中の教師が居るからそいつに聞け」

「ありがとうございます」


 答えた後に、先生は深いため息を吐いた。

 ずっと質問に答えてしゃべり続けているのは流石に疲れるのだろうか。

 とりあえず、私は図書館に向かうので杖を抱えて立ち上がる。


 先生に一礼してから教室を出ると、緩く手を振られた。

 悪い人ではないのだろう。何かしら前進しようとする人にはしっかり答えてくれる人の気配がするのだ。


 私の周りには、意外と多いタイプの人。

 やる気のないやつは知らん、という人が多かっただけな気もするけど、やる気があるなら答えてくれるので私は好きなタイプの人だったりする。


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