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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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57,一方その頃・リオン

 くあああ、と大きな口を開けて欠伸をした。

 朝日はとうに昇り切っていて、かなり頂点に近い位置にあった。

 この時間に起きたことに焦らなくなる程度には休みに慣れていて、泊まりなれた安宿の壁にかかった古い時計を見て頭を掻いた。


 多少寝過ぎた気はするが、まあそれは仕方ないので諦める。

 ベッドを降りて寝巻から着替え、荷物をまとめて宿のカウンターに声をかけてから外に出る。

 向かうはギルド。大型の魔物の討伐とか危険な仕事は受けない、と宣言させられているので、何かいい感じのクエストが張り出されていないかをぼんやりと確認する。


 休みが明けるまではあと半月ほどある。宿に泊まるだけの金は稼いであるが、他にすることも無いし別に余裕があるわけでもないので何もしない日というのは受けられそうな依頼がなかった時だけだ。


「……お。これいいじゃん」


 見つけたクエストを他の人に取られないうちにサッと取ってカウンターに持っていく。

 クエストの受注受付窓口は一気に人が来ても大丈夫なように窓口数が多いので多少人が多くても一つくらいは開いている。


「こんちはー」

「はい、こんにちは。クエストの受注ですね」

「うす。おねがいしゃーっす」


 持ってきたのは国内で物を運ぶというもの。

 運ぶものは丈夫なので多少雑に扱っても大丈夫だが、かなり重いので力自慢を募集する、と。

 リオンは見た目はただの青年だが鬼人の血を引いているので力は人よりだいぶ強い。


 今日までに何度か同じような依頼を受けているので、窓口の担当者も何か言うことはなく注意事項と依頼の場所を聞いてクエストが受注された。

 手を振ってギルドを出て、クエストの発注者が居る場所に向かう。


「……ん?あ、あれセルの家の薬屋じゃん」


 大通りを通りかかったところで目立つ大きな荷台を見つけ、思わず声が出る。

 今は依頼をこなしに行かないといけないが、それが終わってまだ撤退の時間になっていなかったら寄ってみてもいいかもしれない。


 特別入用なものがあるわけでもないけど、せっかく貰った割引券もあるので非常用にポーションの一本くらい持っていても困るものではないだろう。

 なんて考えながらてくてく歩いて指定の場所に移動して、依頼人から運ぶものの詳細を聞く。


「じゃあ、よろしくな」

「うっす」


 荷物の量はそれほどでもないが、一つ一つがかなりの重さだった。でもまあ、これくらいなら夕方までには終わるだろう。

 そう思って一度ぐっと身体を伸ばし、箱を数個重ねて持ち上げた。


 持っていく先はここから少し離れた階段を上がった先。ある程度力がないと運んでいけないであろう距離と位置にある。

 魔法使いなら、まとめて浮かせて持っていくことも出来るのかもしれないけれど。


「セルたち何してんだろーなー」


 呟いた言葉に返事を寄こす者はいない。国の中で何となく見たことがある人を見かけることはあるが、話しかけるほど仲良くもないので話す相手が居ないのだ。

 家に帰っていたとしても誰もいない可能性の方が高かったので、そういう意味ではどこに居ても同じだ。なら金を稼ぎつつこの国に留まろう、と思ってたわけなのだけど……


「思ってたより暇だな……」


 そもそも知り合いが多い方ではなかったし、大勢と一緒に居る方が楽しい、というわけでもなかったので一人でのんびり過ごすのも問題ないだろうと高をくくっていた。

 だが改めて一人になってみると、学校で四人で一緒に居るのがとても楽しかったのだと気付いた。


 思っていたより、数倍暇を感じる。ここにあいつらが居ればもっと楽しいだろうなぁ。なんて考えながら適当に時間を潰すことも多い。

 学校の再開まであと半月ほど。それまでこうして暇を感じつつ過ごすのかとため息が漏れた。


 だがまあ、暇を感じている脳内とは裏腹に身体の方は忙しく動いている。

 ぼんやり考えながら運んでいた依頼の品も、数回往復して今持っている分で最後だ。

 担いでいた物を地面に降ろし、依頼人に運び終えたことを伝えに行く。


 確認をしてもらって、完璧に終わっていると確認が取れたらギルドに向かい、報酬を受け取る。

 これで今日のやらないといけないことは終了した。

 時間は、まだ夕方手前くらいなので薬屋は大通りのどこかの隙間に納まっているだろう。


 どうせやる事もないし時間はあるし、予定通り探しに行ってみようと足取り軽く大通りを進む。

 第一目標は薬屋を見つけてポーションを一、二本買うことだが、ついでに何かしら食事も買ってきてしまおうという算段だ。


 宿の一階が食事処になっているところもあるが、今泊っている宿に食事処はない。

 なので、基本的に通りで何か買って宿に戻る生活をしていた。

 高くなくて腹持ちのいいものとなると味はこだわっていられないのだが、そのあたりを気にする性格でもないので切り詰めつつの生活は別に苦ではない。


「……お。あったー」


 人通りの多い通りを人にぶつからない様に周りを見ながら歩き回り、数分してから目的の薬屋を見つけた。

 駆け寄ろうとして、荷台に座って店番をしている人がいつもと違うことに気付く。


 普段見かけるときは真っ白な髪をしたとても綺麗な青年が番をしているのだが、今日は柔らかなクリーム色の髪をした女性が腰を下ろしている。

 とはいえこの大きさの荷台を見間違えるはずもないし、ちゃんと「薬屋・リコリス」の看板もかかっているので間違えてはいないのだろう。


「こんちはー」

「あら、いらっしゃい」

「今日は、店番違う人なんすか」

「ええ、そうなの。……あら?貴方、セルちゃんのお友達?」


 何で気付いたのか、柔らかに微笑んだまま店番の女性は首を傾げた。

 頷きつつセルリアお手製の割引券を渡すと、女性は楽しそうに笑った。


「セルちゃんが気にしてたのよ。大丈夫だとは思うけど、何かあったりしないかーって」

「そうなんすか。……セルは来てないんすね」

「行きたいとは言ってるんだけど……セルちゃん今第三大陸に行ってるのよね。マスターも一緒に行ってるから、コガネもそっちに行ってて。だから店番が私なの」

「へぇー……あ、ポーション二本ください」

「はーい。二十ヤルよ。一本おまけしとくわね」

「あざっす」


 代金を渡して、一本おまけされて三本になったポーションをカバンの中に仕舞う。

 荷台の小窓から顔を出したトマリに挨拶をして、大剣の状態なんかを見てもらって少し話してから店を離れた。


 休み中色々連れまわされるだろうと言っていたのは聞いたが、まさか大陸外にまで足を伸ばしているとは思わなかった。

 大陸内は大体行くと言っていたけれど、本来はそんなに気軽に回れる距離でもないのだ。


 きっと何かしらすごい移動方法があるのだろうと考えてみたが、正直よく分からなかった。

 セルリアだけなら上空を飛び回れると聞いたけれど、彼女の姉である最上位薬師は基本的に誰かに補助してもらって移動していると言っていたはずだ。

 学校が再開したら聞いてみようと思いつつ、今はとりあえず食料を確保するため通りを進むことにした。


セルちゃんと一緒に居ない三人の話も書きたかったので、休み期間の締めくくりがてらそれぞれのお休み風景を各一話で上げていきたいなと思います。

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