51,姉たちのテンションが高い
朝日が部屋の中を明るく照らして、それに合わせるように目が覚める。
ぐっと身体を伸ばしてベッドを降りて、パジャマに上着だけ一枚羽織って廊下に出た。
一階に降りるとすでに進んでいる朝食の準備の傍ら、何枚かの服が広げられている。
「おはよう、ウラハねえ、モエギお兄ちゃん」
「おはようセルちゃん」
「おはよう、服はそこに置いてあるわ」
「これ?」
「ええ。後で髪も結ばせてね」
「はあい」
示された服を持って一度部屋に戻り、いつもより複雑な服に時間を取られながら着替えを終えて再び一階に降りた。
朝食の準備を手伝おうかと思ったのだが、シオンにいに捕まって後ろのリボンを直される。
今日は茶会に呼ばれているので、いつもより準備が多いのだ。
私は付いていくだけなのだけれど、ウラハねえがここぞとばかりに普段は着ないような服を着せてくるので時間がかかる。
まあ、昔憧れていたお姫様じみた服装が嫌いなわけではないのでいいのだけれど。
……それでも今日のこれは、なんというかレースが多くないだろうか。またレース大量消費祭でもしていたのだろうか。
「…………ふふふふ。先にセルちゃんの髪を結んじゃいましょうか」
「ウラハねえ、その何か不穏な笑いは一体なに」
「可愛いは正義なのよ」
「あ、はい」
これは駄目だ、逆らえないやつだ。
よく分からないけれど、なぜか私がウラハねえのスイッチを入れてしまったらしい。
なので素直に従って椅子に座り、髪を弄るウラハねえに身を任せる。
髪飾りなんかはもうすでに用意されていて、手早く髪がまとめられていく。
どうなったのかは後で確認しよう。きっといつもより凝った髪型にされているはずだ。
「おはよー……セルちゃんが捕まってる。カワイイ」
「おはよう姉さま」
髪を弄られている間に姉さまが起きてきて、なぜか手を振ってくる。
とりあえず振り返してから後ろを窺うと、ウラハねえは満足そうに息を吐いた。髪は弄り終わったらしいので、これなら朝食を食べても問題ないだろう。
服を汚さない様にいつもより気を使いながら朝食を済ませて、出店リコリスに荷物を積んでいるトマリ兄さんの所に向かう。
手伝うことはないのだけれど、この準備の光景を見るのが何となく好きなので。
「セルちゃーん?」
「シオンにい?どうしたの?」
「あ、おった。手えだしてー」
家の中から現れたシオンにいに言われるがまま手を出すと、その上に何かを乗せられる。
細いチェーンの先に飾りがついたこれは、ブレスレットだろうか。
「シオンにい、これどうしたの?」
「作ったんよ」
「作ったの!?」
そんな特技があったなんて、知らなかった。
知らなかったし、今までやっていなかったのにどうして今になって作ろうと思ったのだろうか。
よく分からないけれど、綺麗だし付けていこう。
「星?」
「うん。ちゃーんと魔法も組み込んでるで」
「ちゃんと……?」
「まあ、ちょっとしたお守りやな」
彼は星を司っていたりした気がするので、それ関連の何かだろうか。
星の魔法、というと光系の魔法だと思うけれど、内容が分からない。……まあ、自分はあまり使えない属性なので有難いことには変わりない。
「んー……ちょっと短くするかぁ」
「そうなの?」
「うん。あんまり余っとると邪魔でしょ?」
どこからか道具を取り出して調整を始めたシオンにいを眺めている間に出店リコリスの準備は整ったらしい。
姉さまの支度が終わるのを待っての出発になるようで、姉さまが出てくるよりも早くシオンにいのブレスレット調整が終了した。
再度渡されたそれを手首に着け、先に荷台に乗り込んだ。
いつも座っている場所には服が汚れない様になのか布が敷いてあり、なぜかノリノリでエスコートしてくれたコガネ兄さんにそっと座らされる。
「……機嫌いいね」
「そうか?」
「うん。普段は姉さまにしかしないでしょ?」
「……確かに」
本人も気付いていなかったようだが、なぜだか今日のコガネ兄さんは機嫌がいいらしい。
機嫌が悪いこともあまりない人だけど、ここまで機嫌がいいのは珍しい気もする。
あとで姉さまに聞いてみよう。ずっと一緒にいる姉さまなら、理由も分かるのかもしれない。
「お待たせ。行こうか」
「おう」
姉さまが荷台に乗り込んで、それを確認してからトマリ兄さんが出店リコリスを動かし始めた。
姉さまの服装はいつも通り……うん。いつもよりレースが多い気がするけど、このくらいの服なら普段から着てる気がするからいつも通りだ。
髪は弄られているようなので、テンションの上がったウラハねえに捕まりはしたようだけど。
……もしや、コガネ兄さんの機嫌がいいのはこれだろうか。
姉さま至高主義のコガネ兄さんは着飾った姉さまを見るのが好きだから、今日は機嫌がいいのかもしれない。というか絶対そうだ。
「なるほど納得」
「かたつむり?」
「かたつ……?」
「あっ、ごめんナンデモナイヨ」
なぜかぎこちなく目を逸らした姉さまに首を傾げてからコガネ兄さんを見ると、口の動きだけで気にするなと言われた。
姉さまは時々よく分からないことを言うので、まあ今回もそれだろう。それすなわち聞いても意味のないこと、である。
「あ、セルちゃん杖持ってきたんだね」
「うん。流石にここに置いて行くけど、なんか落ち着かなくて」
本当ならタスクタイプの杖をどこかに忍ばせていないと落ち着かない、もあるのだけど、これから行く国には持って行っても意味がないのだ。
だからタスクタイプの杖は置いてきたし、落ち着かないからと抱えてきたロングステッキも出店リコリスに置いて行く。
今向かっている国は、この世界で唯一魔法を扱うことの出来ない特殊な国。第四大陸のイピリアという国だ。
ついでに言うと、向かう先は王城の中。イピリアの女王陛下が手入れをして、ごくごく一部の者しか中に入れない庭園である。
セルちゃんは家の中のアイドルなので着飾ってるとみんなのテンションが上がります。




