49,買い物は無事終了
私が一目惚れした容器の前で手をソワソワさせている間に、ウラハねえが店番をしていた少女に確認を取ってくれたので、そっと持ち上げて光に当てる。
陶器をベースに、渦を巻くようにガラスが組み込まれた容器。
初めて見るその作りはあまりにも綺麗で、口から意味のない声が漏れる。
滑らかな接合部分は一体どうやって作ったのか全く分からないし、ガラスの渦が綺麗に容器を一周する形で上から下まで斜めに走っているそれは、計算の元こうしたのだろうか。
ガラスの幅もうっすらと白みがかったガラスの色も、余計に際立たせる陶器の純白も、何もかもが綺麗で美しくて。はわはわと声を出していたらウラハねえがとても楽しそうに横で笑っていた。
「決まりかしら」
「これ、これがいい!何入れよう、どれ入れよう?」
「そうねえ。茶葉はガラスの器、なんて勝手に思っていたけど」
「じゃあ砂糖かな、綺麗だよね、きっと」
「そうね。残量も見えるし、良いんじゃないかしら」
そうと決まれば話は早い。
この器のガラス部分に似た、白みがかったガラスの器を探してカウンターに持って行ってお会計だ。
割れない様にと包んでもらったので、それを抱えてウキウキのまま店を出た。
嬉しすぎて忘れてしまいそうだが、買い物は終わりではないのだ。
何なら最初の目的だったティーカップの購入は出来ていないので何も終わっていない。
寄り道でウキウキしすぎただけの話である。
そんなわけで、元居た市場に戻ってきた。
ウラハねえも色々見ているが、私も私で好きに物を見ているので気付いたら距離が開いていたりする。それもまあ、慣れたもの。気付いた方が寄っていくので見失うようなことはない。
そのまましばらく市場を見て回って、目についたものを店主の許可を取ってそっと持ち上げる。
ここの出店には同じものが四つ置いてあり、その柄はスコルでよく見る妖精を模したものだ。
色味は薄い緑で、四つのカップにそれぞれ別の色で花が描かれていた。
「……これがいいかな」
「ええ、これなら合いそうね」
「買っていくかい?」
「はい。そこの三つも一緒にお願いします」
「あいよ」
代金を払って簡易包装をしてもらいながら時間を確認すると、普段ならとっくに昼食を食べ終えているであろう時間になっていた。
それを認識したら、やけにお腹が空いてくる。
思い出したかのようにお腹が鳴って、ウラハねえが笑いながら昼食にしようと声をかけてくれた。
どこか店に入って食べてもいいが、このまま市場で買い食いをするのも楽しいだろう。
姉さまが昔旅をしていた頃、その国の出店で適当に買い食いをして歩くのが特別楽しかったと言っていた。
その頃に見つけたお気に入りは今でも変わらないらしく、久々にその国に行って同じ店を見つけるととりあえず買って頬張っているらしい。
そのあたりの行動は本当に麗しの最上位薬師様には見えない、とコガネ兄さんが呟いていた。まあ、すごく分かりやすく「好き!!!」と書いてあると顔をしていたので文句ではなかったのだろう。
「あ、串焼きだ」
「あら本当。セルちゃんも好きだったの?」
「うん。姉さまは塩派らしいけど」
「その言い方は、セルちゃんもタレ派だったのね……!」
「んふふ。まあどっちも好きだよ」
ウラハねえとはタレ派同盟が組めそうである。
別に塩が嫌いなわけではないので姉さまがそっちにこだわる限り塩でもいいのだけれど。
というか、姉さまの塩への執着が凄いのでこれに関して自己主張をしていくべきではないな、と勝手に思っているのだ。
そんな会話をしながら串焼きを買って頬張り、それ以外にも買い食いをしながら市場を回る。
買おうと思っていたものは既に買い終わっているので、ここからはただの目的がない市場めぐり……つまりはすごく楽しい時間だ。
「どこ行こうか」
「向こうは調度品の市場らしいわ」
「こことは別になってるんだね」
「ええ。行ってみましょう?」
「うん」
日常的に使うものの方が衝動買いをしてしまったりするものだ。
私は休みの日でもあまり寮から出ないので市場を見るのも久しぶりだが、ウラハねえは今まで通り時々出かけては何か気になったものを買ってきたりしているのだろう。
そうして家には物が増えるのだ。
あまり増えすぎると断捨離の日と称して物置を全員で整理することになる。
誰が買ってきたのか分からないものが出てくることもあるので、我が家の物置は基本混沌としているのだ。
「……そういえば、物置の整理って最近やったの?」
「いいえ?最後にやったのは……二か月前くらいかしらね」
「それは結構最近な気がする……」
私が学校に通いたいと姉さまに相談に行った頃に一度やっている気がするので、半年くらいで物置の再整理が入ったのだろうか。
一体なぜそこまで一気に物が増えたのか。多分何となく買ってしまった、というだけなのだろうけど。
なんて話しながら市場を見て回って、気になるものを手に取りはするが買いはせず、市場から抜けて海を見に行ったりしている間に日が傾いてきた。
時間を確認して、そろそろ戻ったほうがいいだろうという話になり大通りで出店リコリスを探す。
移動を終えた今の時間ならどこかの店と店の間とか、使われていない隙間とか、そういうところに綺麗に収まっているはずだ。
最悪見つからなかったらウラハねえが連絡を取って探してくれるので、ちょっとしたかくれんぼくらいの感覚で通りの端を回る。
「……あ、あった」
「あら本当。……収まりがいいわね」
「ね。ピッタリ」
壁と壁の隙間にすっぽり収まっている出店リコリスと、そこで足を揺らしながら店番をしているコガネ兄さんを見つけて歩み寄る。
兄さんもこちらに気付いて顔を上げた。
「おかえり。買い物は出来たか?」
「うん。あのね、すっごい綺麗な容器があったの」
「良かったな」
自慢するように持っていた袋を掲げると、軽く笑って頭を撫でられた。
そのままコガネ兄さんの後ろに乗り込み、見つけた宝物を見せたくて仕方のない子供のようにいそいそと袋を上げる。……まあ、実際見せたくて仕方のない子供なのだけど。
「見てー!」
「……すごいな。初めて見る形状だ」
「でしょ、綺麗でしょ?」
「何騒いでんだ?」
「あ、トマリ兄さんも見て!」
通りから死角になる出店の前部分でくつろいでいたらしいトマリ兄さんが窓から顔を出したので、すかさずそちらにも自慢する。しばらくそうしているうちに撤退する時間になったので、うっかり割らない様に容器を袋に入れ直した。




