475,卒業式
自分たちが主役の年が来れば多少は感慨も生まれるかと思っていた卒業式は、やっぱりひたすら眠気に耐えつつ暇を潰す時間になった。
ちなみに今年は、なんと先生から直々に見えない程度の魔法の行使を許可されており、リオンが寝ないように随時起こせと指示を受けていたのでいつもよりは暇しなかった。
途中からリオンが魔力向けるだけで起きるようになったんだよね。
適応力がありすぎる。あんまり派手にやると見つかって式の進行が滞って長くなるから見えない程度に、って厳命されていたのでそこまで強い魔法は使ってないんだけどね。
まあ、そんな暇を持て余した卒業式も無事に終わり、思いっきり伸びをして立ち上がる。
この後、四年生は教室に集まって最後のホームルームがあるんだけど、それまではちょっと時間があるんだよね。
「セル、風消してくれ」
「ああ、はいはい」
さっきまでリオンを起こすために作っていた風がまだ顔の周りをクルクルと回っていて、流石にこのサイズだと斬り飛ばすわけにもいかないのか、なんて考える。
というか、単純に場所が場所だからかな。ここで剣は振れないよね。
「リオンせんぱーい!」
「おー」
「行ってらっしゃい」
「後でなー。お前を探してる奴も来たぞ」
「せんぱーい!!」
「本当だ」
聞き覚えのある元気な声が響いてきて、それと同時に走ってくる姿も見つけたのでリオンと別れてそっちへ歩いて行く。
アリアナも一緒に居たのね、まあ学年同じなら近い場所に座ってるし一緒に来るよね。
「ご卒業おめでとうございます、セルリア先輩」
「ありがとう」
「おめでとうございます!……でも会えなくなるの寂しいから卒業しないで欲しかった!」
「あはは。まあ、今後絶対会えない訳でもないよ。私も卒業した先輩と会う事あったし」
可愛いねぇ、とアリアナの頭を撫でていたら、グラシェが頭を差し出してきたのでそっちも撫でておく。
二人は後二年、色々学ぶことも多いし学校の方が変わることも多いだろうから、大変かもしれないけど頑張ってね。
「セルちゃん先輩」
「お、ルナル」
「卒業、おめでとう、ございます」
「ありがとう」
「あのね、わたし、卒業したらアハウに戻るから、イツァムナーに来たら会いに来てね」
「うん。キニチ・アハウの研究所だよね?」
「魔法研究所っていえば分かると思う」
「分かった。顔出すよ」
ルナルは後三年か。三年も経てばどこに居ようと多少出かけるくらいの余裕は出るだろうし、会いには行けるだろう。
なんて考えながらルナルの頭を撫でていたら、二年生ズが両脇から私の事を囲いに来た。
「先輩、俺はどこに居るかわかんないけど、多分冒険者してるからどっかで見たら声かけてね!」
「私は家に戻るので、ムスペルにいらした際は是非。すぐに参りますので」
「はいはい、見つけたら声かけるよ」
撫でる手が足りない。困ったなぁ。
なんて思っている間にルナルが手を振って去っていき、アリアナとグラシェもつられるように離れていく。
三人に手を振って杖を持ち直したところで横から鈴の音が聞こえて、横を見ると思ったより近い位置に猫耳が見えた。
……くそ、逃げられた。最後くらい撫でさせてくれても良くない?
「先輩、あまりにも狙うまでが早くない?」
「そこに猫耳が居たから……」
「……まあ、いいや。卒業おめでとう」
「ありがとう。お祝いに耳か尻尾触らせてくれてもいいんだよ?」
「それはちょっと。代わりにこれあげる」
「……茶葉?」
「そう。貰ったやつなんだけど、俺は飲まないから。多分いいやつだよ」
「やった、ありがと」
差し出された瓶を受け取ってラベルを確認したら、本当にいいやつだった。
これ王城からの貰い物だったりする……?私が貰っていいの……?
……まあ、本人が良いって良いってるんだからいいか。それにフォーンの王城なら姉さまを通せばどうにかなるしね。
「……先輩」
「うん?」
「出来ればでいいからさ、今後どうするとか決まったら教えてよ」
「……分かった。決めたら手紙出すわ」
この期に及んでまだ決めかねてる私がいけないんだけど、イザールがここまで知りたがるとは思わなかったな。
決まったら手紙送るの、忘れないようにしないと。
その後も少し話してから別れ、教室に向おうかと歩き出したところで見知らぬ女生徒に声を掛けられた。
なんかすっごい緊張してるけど、会ったことあったっけ、私が忘れてるだけかな?
「あの、えっと……一年生の時の、先輩との試合からずっと憧れてました!卒業おめでとうございます!」
「ありがとう」
なんか後ろにもきゃあきゃあ言ってる子たちが居るけど……二年生だよね?
そういえば二年生は前から時々きゃあきゃあ言ってたな……?
アリアナから害はないって聞いてたから気にしてなかったんだよね。
手を振って歩き出したらまたきゃあきゃあ言われた。
ちょっとビビるなぁ、なんて思いながら杖をクルクル回していたら、横にリオンがやって来た。
もうちょっと掛るかと思ってたけど早かったな。
「囲まれてんなぁ」
「なんでだろうね」
「お前女子にモテるよな」
「リオンは男子にモテてるけどね」
のんびり話しながら教室に向かい、自分の席に腰を下ろす。
……ここに座るのもこれが最後か。なんかちょっと感慨深いなぁ。
なんて考えながら杖をひっかけて、何となく机を撫でる。
流れるように私の前の席に座ったリオンと話していたら、しばらくしてからヴィレイ先生が教室に入ってきたので話すのをやめて席を移動していくリオンを見送る。
教室内を見渡したヴィレイ先生が教卓に手を置いて、ゆっくりと口を開いた。
「全員居るな?まずは、卒業おめでとう。ここにいる全員が無事に卒業できたことを喜ばしく思う」
ヴィレイ先生が静かに発した声に、なんか皆がちょっとそわっとした気配がした。
先生に素直に褒められることってあんまりないから、なんか嬉しいよね。
そんなちょっとソワソワした空気に呆れたようにため息を吐いて、先生は連絡事項が書かれているらしい手元の紙を読み上げた。
最後にやることが、もうちょっとだけあるんだよね。
次回、最終回




