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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
471/477

471,テストの後

 自分たちの最後の試合を終えて、他の人の試合をのんびり眺めながらサヴェールとお喋りする。

 私たちはミーファとソミュールのペア以外には全勝し、ソミュールたちは完全勝利でテストを終えていた。


「ふぁ……ん、ソミュールが寝ている」

「最後ギリギリだったみたいだもんねぇ」

「セルリアととんでもない魔力量の魔法合戦してたもんな」

「他人事だな……?」


 サヴェールの防御が硬すぎて、壊すために使う魔法がどんどんグレードアップしていった感じがしたんだけどなぁ。

 なんて言いながら進んで行く試合を眺めて、時々欠伸を噛み殺す。


 もうね、ソミュールたちとの試合が終わってから疲れがね。

 どうしても消費した魔力と気力が多いから、もう自分たちの試合はないってなった瞬間からちょっと眠い。


「ふあぁ……」

「お前らさっきから欠伸ばっかだなぁ」

「眠い」

「もうちょっとだから頑張れー」

「終わったら昼寝するか?」

「んー」


 試合を終えて戻ってきたリオンとリムレが戻ってきて、横に並んで試合を眺め始めた。

 二人は割と元気そうだなぁ。これは魔力消費の差なのか、元々の体力の差なのか。

 どっちもありそうだけど、なんであれ私たちは疲れて欠伸が止まらないのでそんなことを詳しく考えている元気はないのだ。


「……お、次で最後か」

「そうだねぇ。はぁー、長かったぁ」

「もうこんな全力の試合も出来なくなるんだな」

「魔法陣があれば出来るよ」

「あの魔法陣がどれだけ高度か分かって言ってるだろう」


 あんなの作れる気がしない、と言われて、それに同意して改めて魔法陣を確認する。

 とんでもないんだよなぁ。魔法陣がそもそも得意じゃないってのもあるけど、あれは得意な人でも描けるかどうかはまた別って感じ。


「魔術混ざってない?あれ」

「混ざってそうではある」

「一回見てみたかったけど、掘り起こしたりとか出来ないもんねぇ」

「点検の時にやるかどうかだよな」


 気にはなるけど、だからって気軽に見せてって言えるものではないから、分かる範囲で想像するしかないんだよね。

 まあ、それだけでも何がどうなってるのか分からないくらいの複雑さなんだけどね。


「お前らには何が見えてんだ……?」

「リオンも見えるよ。魔視で手合わせ場の下の方見てみなよ」

「……おー?なんかある、か?」

「魔法の核は見えるのに魔法陣は何で見えないの」

「普段から見てりゃぁ見えるようになるだろ」


 その感覚も大概だと思うけど、実際見えてるからなぁ。

 私は自分で作った魔法の核は認識出来るけど他の人が作ったものはそんなにしっかり分かるわけじゃないし、やっぱりリオンは魔力の見分けが特別得意なんだろう。


 ……でもあれは見えないのか。いや、見えてはいるみたいだけど。

 リムレは見えてないみたいで、サヴェールが魔視の補助をしていた。

 なんか見覚えのある光景だと思ったら、これあれだ。コガネ姉さんが姉さまの補助をしている姿にそっくりだ。


「そこまで。……これで全試合が終了したな。この後は各自好きに過ごして構わんが、まだテスト中のところもあるので騒がないように。何かあれば俺の所まで来い」


 話している間に最後の試合も終了して、解散の合図があったので思いっきり伸びをする。

 シャムたちはまだ終わらないかな?終わったらお茶会しようねぇって言ってたんだけど、それまで食堂に居るかどうするか……


「リムレ達は何すんだ?」

「あー、俺は飼育小屋の方に呼ばれてるから、そっちに顔出すかな。サヴィは?」

「夕食まで部屋にいる。寝てたら起こしてくれ」

「はいはい。セルリア、すっごい眠そうだけど大丈夫?」

「……昼寝する。林のあたりなら邪魔にはならないでしょ」

「なんか飲み物だけ買ってから行くわ。せめてそれまで起きてろよ」

「うんー」


 杖を揺らして教室を出て、サヴェールに手を振ってそのままいつも遊んでいる林の方へ向かう。

 周りでテストをやっていない事だけしっかり確かめて、地面を軽く撫でて乾いていたので木に寄りかかって地面に腰を下ろした。


 杖を抱えてボーっと空を見ていたら、小走りに近付いて来る足音が聞こえて目の前に影が出来た。

 視線を上げるとリオンが飲み物を二つ持って立っていて、一つを差し出されたので受けとる。

 そのまま横に座ったリオンを目で追いつつ座り直す。


「貰っていいの?」

「おう」

「ありがとー」


 私がよく買っているものだから、最初から私用に買ってきてくれたみたいだ。

 よく見てるなぁなんて思いつつ口を付けて、思ったより喉が渇いていた事を認識した。

 眠いと自分の状況もあんまり認識出来なくて駄目だな。


 なんて思いつつ、かふりと欠伸を零して杖が倒れないように横倒しにする。

 駄目だ、眠い。木漏れ日がいい感じに当たってぽかぽかで、疲労もあって抗えそうにない。

 飲み物を持ったまま船をこいでいたら手の中の物が回収されたので、これは寝てもいいやつだなと抗うのをやめた。





 ガックンガックン揺れていたセルリアの頭がぶつからないように肩に乗せて、寝息を立て始めたのを確かめてリオンは軽く息を吐いた。

 スヤスヤと寝ているセルリアを起こさないように杖をずらして掴める位置に置いておく。


「んで、どうした?セルならしばらく起きないぞ」

「あ、気付いてたんだ……まぁそりゃ気付くか……」


 木陰からひょっこり顔を出した黒猫は、リオンはあまり関わりが無いが横で寝こけているのに懐いている後輩だ。

 セルリアを探している時などにたまに見かけたことはあるが、話した記憶はほとんどない。


 一度街で大きな面倒事に首を突っ込んだ際にも、会話はほとんどセルリアを中心にしていた。

 なので今日もセルリアに用があったんだろう。

 残念なことに、当の本人は寝ているが。


「なんか用事あったか?」

「いや、大したことじゃないんで。……先輩って一回寝たら起きないタイプ?」

「昼寝なら叩き起こせば起きる。夜は寝たら朝日が昇るまでは基本起きねぇな」

「……先輩、卒業後はどうするとか、なんか言ってたりしませんでした?」

「あー……まだ迷ってるみたいだぞ。卒業した後に決めるんじゃねぇかな」

「そっかぁ……」


 話題にされていることも知らずに、セルリアはスヤスヤ寝ている。

 そんな平和そうな顔を見ながら、リオンとイザールはしばらく雑談に興じるのだった。


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