469,息をつく暇はない
サヴェールが防御魔法を演唱しているのを聞きながら、ソミュールが飛ばしてきた魔法を風で包んで減速させ、なるべく刺激しないように動きを止める。
明らかにヤバそうな魔力が中に詰め込まれているから、これ絶対破裂するタイプの魔法だ。
多分時間差で発動もするんだろうけど、防御時の私の役目は時間稼ぎだからね。
あと、これとは別に炎を広げて維持もしているので操作は結構ギリギリまでやっていて、追加で風を練っている分で許容量一杯だからこれ以上はどうにも出来ない。
「もう持たない、爆発するよ。……三、二、一」
「ヴァントボルト 構築」
時間ギリギリ、というかピッタリ。
この短時間で魔導基盤を有している魔法使いに対抗できる防御魔法を展開できちゃうの、本当にすごいと思う。
「エッグイ音してる」
「そうだな。どうなってるんだこれ」
「爆発と地が混ざってるのは確認した」
「……雷もあるか。なんでこれ混ぜたんだ」
「そういう魔法?難呪以外にそんなにいっぱい混ぜる複合魔法ってあるっけ」
話しながらそれぞれ魔法の維持と追加の魔力練りをして、ソミュールの魔法が消えるのを待つ。
もうちょっとかな?私たちが防御姿勢で耐えてる間に、ソミュールはミーファに保護をかけていたので追加の攻撃は来ていない。
「炎一気に広げるね」
「あぁ。そろそろ消えるな、炎も追加して、次の防御も用意する」
「おねがーい」
攻撃魔法が消えたのを確かめて、役目を終えて解けたヴァントボルトを薙ぐように杖を振って炎を広げる。
手合わせ場は全部覆えたけど、ミーファが確実に最初よりも炎を気にしなくなってて、これだけじゃあんまり動きが鈍らないなぁ。
信頼してる相手から保護魔法がかけられたからって、そんなすぐに眼前に迫る炎への恐怖が薄まるとは思えないんだけど……流石ミーファ。戦闘時は本当に怖いね。
恐怖心がないのは流れる血の影響か、本人の気質か。まあ、血も含めて本人の気質だとは思うけど。
「……雷混ぜる」
「了解」
これだけじゃちょっと手間と効果が釣り合ってないので、もうひと手間加えて相手への影響力を引き上げることにした。
風と炎に混ぜるから、水やら氷やらは意味がない。となるとまあ、雷だよね。
実はちまちま練習していたから、それなりに使える属性なのだ。
バチバチと音を立てて床を走り始めた雷を見てミーファが大きく跳躍し、ソミュールの横で停止した。
「対策かな?」
「そうだな。地属性」
「じゃあいい感じだ。……巻き上げろ」
ソミュールがミーファへの保護付与とそれの為の足場維持に意識を裂いているので、まとめて地面の炎を巻き込んだ風を吹き上げて攻撃する。
避けられたけど、まあ避けるよねって感じだから別にいい。
「……地面から空中に居る相手を狙うの、初めてかも」
「普段はセルリアが空中に居るもんな」
「うん。新鮮な気分。……あ、来る」
「任せろ」
ソミュールの傍から離れたミーファが落下の勢いを乗せて振ってきた短剣をサヴェールが弾いて、同じ場所に降ってきた魔法を減速させて一部打ち返す。……三割は打ち返せたかな?上々だ。
「セルリア、氷が降ってくる」
「うわ、炎無理矢理消す気だ。風で対抗してこないのかぁ」
「セルリア相手に風は流石に誰だってやりたくないだろう」
「ふはは。ちょっと嬉しい」
誰だって自分の属性で対抗は無理って思われるくらいに極めるのはちょっとした憧れだよね。
私は加護もあるし、取り合いには強い。
まあ、影響で過ぎて炎魔法使えない訳だけど……必須でもないからね、風の方が優先だ。
なんて考えながら炎を自分たちの上にも引き寄せて降ってきた氷を消し、ミーファの足元に風を飛ばして絡め取ろうとする。
逃げられたけど、ミーファが避けた先にはサヴェールが撒いた罠があるので、追撃を放っておく。
「……当たった」
「まだ落ちてないか」
「当たったけど、避けられた。来るよー」
「あぁ」
罠に足を取られたミーファは、それでも私が放った追撃をギリギリで避けてカウンターで突っ込んで来ていた。
防御はサヴェールに任せて攻撃の準備をして、上から魔法を飛ばしてくるソミュールの邪魔をしながら杖を構える。
「その一突きに無駄は無く、その一突きに慈悲は無く」
「あっ」
「穿て ウインドランス」
ガキン、と音を立ててミーファの短剣が障壁に阻まれ、私の杖の真正面で身体が止まる。
小さく零れた声をかき消すように発動した風の槍を押し出して、ミーファにしっかり当たったのを目視した。
あんだけしっかり正面に狙いを定めたのに、最後の最後までちょっとでも横にずれようとしていたミーファの反射神経と運動神経は本当にすごい。
なんて考えていたら上からとんでもない濃さの魔力が降ってきたので、慌てて風を送って盾にする。
「やっばいこれ!?」
「普通に怒り心頭じゃないか?」
「ミーファの事好きすぎるんだよなぁ!炎消すね!」
「あぁ。もう要らないだろうな」
炎の維持に向けていた魔力を回収して、片っ端から防御に突っ込む。
サヴェールも炎を消して防御用に魔法を組み始めているので、それが完成するまではこの暴力の塊みたいな魔力丸ごと攻撃を押さえ続けないと。
「重たいなぁ!」
「タックロフィ。……軋んでるから、長くはもたないぞ」
「おっけ、ちょっと飛ぶ。腕掴んどいて」
「分かった」
サヴェールが腕を掴んだタイミングで風を起こして身体を丸ごと包み、それとは別の風に乗って一気に横に移動する。
移動した瞬間サヴェールの力が強くなったので、驚かせてごめんねと思うだけ思って速度を上げた。
「ポザム・ケルシゲーギス」
「うっわ、やば」
「セルリアすまん、肩掴むぞ」
「いいよー!」
まさかそんなん使う?って魔法の名前が聞こえたので、とにかく速度を上げて逃げることに専念する。サヴェールが魔力を練ってるから、それが終わるまでは逃げかな。
ソミュールとの戦いはここからが本番だけど、もう既に大分しんどいなぁ。




