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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
467/477

467,つかれた

 ウインドランスを撃ち込んだ直後、斜め前からの衝撃に備えて風を集めて壁を作る。

 魔力を整形している時点でリオンが気付いて回避行動を取っていたので、避けた方向にとにかく急いで壁を作らないといけなかったのだ。


「余波くらいは当たった?」

「お前の攻撃範囲広すぎんだよ」

「はっはっは。誉め言葉」


 地味なダメージしか入ってないみたいだ。細かい傷はいっぱいあるけど、決定打は一つもない。

 これじゃあ長引くだけだから、どうにかしてしっかり攻撃を当てないと。

 なんて考えながらリオンを吹き飛ばして、まだ場内に残っていたリムレに杖を向けた。


 実は最初からリムレを狙って撃ったんだけど……避けられるとは。ちょっとショック。

 あんまり見せてない魔法だからいけると思ったんだけどなぁ。

 なんて考えながらちょっとだけリオンと話して、勢いをつけて吹き飛ばす。


 そのままの勢いでリムレに風をぶつけて、リオンからの追撃への対処はサヴェールに任せて風を練り、風を放ったら直後に追加で魔力を練る。

 追加分は氷にして、追撃は氷を乗せた風にして思い切りリムレに向けて放った。


 最初の数発は避けられたけど、その後の数発がしっかり当たって、氷の影響で動きが鈍ったところに作っておいた氷の短剣を放つ。

 それが当たる直前、リムレが焦りの見える顔で口を開くのが見えた。


「サヴィ!」


 呼ばれた瞬間、リオンの攻撃に対して防御魔法を発動させていたサヴェールの反応が一瞬止まって、その瞬間に防御を割られて致命傷判断で場外に飛ばされた。

 リムレも飛ばされているので、場からは一気に二人が減って一騎打ちの形になる。


 状況確認のために風を回している間にリオンが距離を詰めてきたので、風を起こして上に避難し、魔力を練ってどうしようかと考える。

 下の方に風を残しておくと登ってきかねないので消しておいて、上の方で風を起こしてそれを使って魔法を練り直す。


「そーおーれっ!」

「あっぶねぇな!?」


 掛け声と共に頭上で作っていた氷の塊を落として、どうせまだ場外には飛んでいないだろうから次の魔法を練る。

 とりあえず風にしようと練っていたら私が落とした氷の欠片が打ち返されてきたので、身体を揺らしてそれを避ける。


 その後に練っていた風を下に流してリオンの動きを阻害しつつさっきの氷を拾い、後ろから投げつける。

 いつもより動きが鈍い。最初に打ち込んだ連撃砲は一応効いていたみたいだ。


 あれだけ撃ったのに致命傷が一つも入ってないってのはちょっと悔しいけど、まあいいとしよう。

 普段なら避けられそうな氷での奇襲が綺麗に入って、なのにまだ場外に転送されないリオンにどうなってんのと文句を零しつつ上から追撃を放つ。


 最初の一撃を撃った後に上から降り注ぐように曲射を撃って、それが落ちきるまでの時間を埋めるために更にもう一発ちょっとだけ曲げた風を撃ち込む。

 こんだけ撃ったらどれか一発くらいは当たるでしょ!という雑な考えで撃ったんだけど、ものの見事に三撃目になった曲射が当たって、リオンが場外に転送された。


「そこまで」

「よーっし!」


 聞こえた声に思わず盛大なガッツポーズをしてしまった。

 いやぁ、長引いたなぁ。実際の時間としてはそんなに経ってないかもしれないけど、ずーっと気が抜けない状態で魔力回し続けてたから普通に疲れた。


「魔力を片付けて行け」

「はぁーい」


 床をコツコツと杖で突いて場に残った魔力を消して、氷は砕いて霧散させていく。

 量が結構あったからちょっと時間が掛かったけど、しっかり全部消して手合わせ場の外に出た。

 そこでリオンが立ち止まっているからどうしたのかと思ったら、視線の先で何やらリムレとサヴェールがわちゃわちゃやっている。


「あれどうしたの?」

「さあな。俺が弾かれた時はもうあれやってたぞ」

「じゃあそれなりに長い間やってる……ってかリオン、ポーション貰ってきなよ。やったの私だけど小さい傷いっぱいあるよ」

「おー」


 決定打にならなかった攻撃がいっぱいあったから、リオンが割とボロボロだ。

 本人は気にしてないみたいだけど、私は申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 でも最初の連撃砲を全部避けれるのには納得してない。なんであれを撃たれてその程度の傷で済んでるんだ。


 なんて考えながらポーションを貰いに小走りで去っていくリオンを見送って、小競り合いをしているサヴェールとリムレの所まで歩いて行く。

 ……小競り合いっていうか、リムレがやたら焦ってる感じ?


「何してるのー?」

「あ、セルリア。お疲れ」

「お疲れー。私たちの勝ちだ。はっはっは」

「いや本当に強い……つうか怖い……」

「んで、サヴェールどうしたの?」


 完全に拗ねてるんだけど……なんて話している間にサヴェールがリムレから離れて私の後ろに移動した。

 ……え、私今盾にされてる?


「何してんだお前ら。ほい、セルの分」

「あれ、私どっか怪我してる?」

「手」

「手。……あ、本当だ」


 ポーションの小瓶を渡されたので、いつのまにやら切れていた腕の傷にかける。

 全然気付かなかった。いつ斬られたんだろう。

 ポーションを使いきったらリオンの分の小瓶もまとめて空瓶入れまで飛ばして、改めてリムレに向き直る。サヴェールは背中に張り付いてるから見えない。


「んで、本当にこれどうしたの?」

「えーっと……サヴィが拗ねた」

「そりゃぁ見れば分かるけどよ」

「リムレが悪い」

「すっごい拗ねてる。どしたのサヴェール」

「えー……多分、俺がサヴィを道連れにしたからだと思う……」


 リオンと顔を見合わせて、後ろにいるサヴェールを確認してもらう。

 ……頷いてる?そっか、じゃあそれが原因だ。


「まあ、完全に意識取られてたからな」

「いやでも、敵だったわけだし……」

「リムレは敵にならない!」

「うわビックリした。サヴェールそんなでっかい声出るんだ」


 ずっと一緒に冒険者活動してたんなら、呼ばれたら一瞬考えちゃうよね、分かる。

 その一瞬だけ意識が逸れた瞬間をリオンが見逃さなかったって話な訳だけど……まあ、見逃さないよなぁ。私でも見逃さない。


 何はともあれ原因は分かったので、とりあえず移動して他の人の試合を観戦することにした。


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