466,リオンとリムレ
手合わせ場の中に入って、ゆっくりと杖を構える。
正面にはリオンとリムレが横並びに立っていて、既に剣を抜いていた。
「圧やば」
「リムレが部下にしか見えないな」
「聞こえてるぞサヴィ!」
サヴェールが大真面目な顔で言った言葉に思わず笑い、リムレの叫びでさらに笑い、リオンも笑っているのに気付いてどうにか笑いを引っ込める。
さっきまでのそれなりに緊張感のある空気は完全に霧散して、なんとも気の抜けた開始になった。
「さ、頑張ろう」
「あぁ」
杖を構え直して正面を向くのと同時に開始の合図が響き、サヴェールの目くらましが発動する。
それに合わせて風を吹かせ、吹き飛ばしではなく動きの妨害のために上から下に吹き付けるように流れを作り、それでも普通に突っ込んでくるリオンに杖を向けた。
「絡み付け、塞き止めろ」
「駆ける光を通さぬように、貫く全てを落とすように」
足止めに特化させた風を起こしてリオンの動きを妨害し、最初の風から抜け出して動き始めたリムレの動きを補足する。
そうして時間を稼いでいる間に後ろから聞こえてくるサヴェールの演唱が進んで、バチバチと音がし始めた。
「ヴァントボルト 構築」
「……ウィルヴァ カフレ グヴェリェッテント レワァマレワマ イリツィヴィア ワルガレシュ アットレグレス エレア コレフ オーレアレアド キエケタ ノークラッティエ エルバーレ」
雷魔法とは思えないほど重々しい音を立ててヴァントボルトが発動し、目の前に壁が展開されたことを確かめてから杖を握り直した。
深く息を吸ってから、焦らずゆっくりを言葉を紡ぐ。
覚えてはいるし実は時々演唱を忘れないように確認もしていたけど、実戦では使っていなかった難呪の初投入だ。
リオンに見せたことも無かった気がするけど、発動の段階で普段使っている魔法と違うことに気が付いたのか文字通り目の色を変えて斬りかかってくる。
が、ここでビビって演唱を中断するくらいなら、最初から難呪なんて使わないのだ。
私が作る防御魔法より、サヴェールの作る防御魔法の方が強い。得意分野の差は大きな信頼なので、眼前に迫るリオンは無視して演唱の続きを声に出す。
「ケテラ ケテラ チオダヨイ ウビカレモマ ザレスドレア シウエ ソタノミラ ワコニノレェ コエタモタウ レワレ スリファカ タフレス サリサエレ セヴァイストレヴィア ガウネ」
演唱が進むごとに周りに風が吹き荒れて行き、完了と同時にあらゆるものが周りに浮いて飛び始めた。
先ほどまでヴァントボルトをガンガン攻撃していたリオンが何かを察して下がったので、そこに狙いを定めて連撃砲を撃ち込んでいく。
「……なんで避けれるんだ?あれ」
「分かんない。ちょこちょこ当たってはいるけど……決定打にならない、ね!リムレ!」
それほど広くはない手合わせ場の中を器用に逃げるリオンを連撃砲で追っている間に、注意から外れたリムレが接近してきていたので声だけかけて、後はサヴェールに任せておく。
流石に連撃砲撃ちながら他の魔法は使えないからね。
「あとどのくらいいける?」
「まだまだぁ!」
連撃砲でリオンを追いかけながら、ヴァントボルトに攻撃しているリムレの位置を把握する。
……あ、これちょっとこのままだと不味いかもしれない。
「サヴェール、あとどのくらい?」
「半分。……リオンが来てるから、次だな」
「おっけ」
魔法を撃ち込む向きを変えてもリオンに対しての決定打にはならず、逃げ続けていたリオンが方向を変えてこっちに来ているので次を考える。
火力は十分だったと思うんだけど、当たらないと駄目だなぁ。
最後まで撃ちきった連撃砲はそのまま放置して、急いで風を作って周りに集める。
予備動作ついでにリムレの足元をすくって転ばせ、先ほどまでリムレが叩いていた場所を正確に叩いてきたリオンを正面から見据える。
がっつり目が合ったのと同時にヴァントボルトがパリンと音を立てて壊れ、リオンの剣がそのまま振り下ろされたのを一度風で弾いてサヴェールの手を掴む。
足元に集めておいた風で一気に上昇すると、少し遅れて風が強化された。
「サヴェール軽すぎない!?」
「そんなことはない。リオンが来てる」
「だよねぇ!この風維持できる?」
「少しだけなら。長くはもたない」
「充分、お願い!」
足元の風の操作をサヴェールに任せて、魔力をぶん回して氷を練り上げ、真下に落としてさらに氷を追加する。
リオンが氷を斬っているのは見えるけど、リムレどこだ?
「セルリア、右だ」
「右……居た」
「それから、風が限界だ」
「おっけ。攻撃一瞬任せる」
「分かった」
練った魔力を半分風に回して、残りの半分を地上に落とす。
浮いたままだと、私はともかくサヴェールは満足に動けないだろうからほどほどの所で着地したい。
考えながら風の補強を終えて、下に撒いた魔力を風に変換して情報を拾う。
「攻撃して、急降下する。着地の後の防御任せる」
「分かった。思い切り降りていいぞ」
攻撃の準備をして、サヴェールの合図に合わせて一気に魔法を放つ。
足元の風も全部攻撃に変換して消費しきり、支えが無くなって落下するのをそのままにして次の攻撃魔法を練る。
練り終わるのと同時に着地したので、即座に斬りかかってきたリオンの攻撃を弾いて死角に待機していたリムレに上に残っていた風をぶつけた。
さて、どうしようかな。ずっと思ってたけど、リムレが探知から外れるのが上手すぎてすぐに見失うのがちょっと厄介だ。
「サヴェール、炎作れる?」
「ああ。……燃やすのか?」
「範囲絞る。後ろ全部燃やそうかなって」
「なるほど。なら火種は作って置いておく」
リムレがさっきから死角に入り込みまくるので、死角そのものを潰してしまう。
炎を風で拡大させたら、サヴェールに防御を任せて全力で魔力を練り上げる。
杖を構えて魔力を整形し、向かってくるリオンの足元に風を撒いて動きを妨害する。
「その一突きに無駄は無く その一突きに慈悲は無く
穿て ウインド、ランスッ!」
なんだかんだ言って、ウインドランスが一番安定して火力が出る。凄く速い魔法で範囲もほどほどに大きいから、大抵の場合これでいけてると思うんだけど……さて、どうなったかな?




