464,相性の良いサポート
手合わせ場の中に入って、ゆっくりと杖を回す。
リオンやミーファと一緒に戦う時には基本後ろ待機で始めるけど、今回はサヴェールの前に陣取る。
私は攻撃に集中してていいみたいなので、防御は任せて押せ押せで行こう。
普段は誰と一緒でも自分の防御くらいは自分でやるから、全くやらなくていいのはちょっと新鮮だ。
風属性以外の防御ってのも久しぶりだし、なんかもう楽しくなって来たな。
卒業前に出来てよかった。卒業したら会うことも無くなるだろうからね。
「私は何もしなくていいんだよね?」
「うん。保護も俺がやる」
「オッケー」
斜め後ろの近い場所に居るサヴェールと話している間に開始の合図があって、直後に円の中心が激しく発光した。
宣言通り私の保護もしっかりしておいてくれたおかげで、私からはあまりの眩しさに腕で目を覆う人影までしっかり見えている。
相手が動く前に足元に風を起こして、思い切り下から上に吹き上げた。
身体が浮いたら、中央に作っておいた風で思い切り吹き飛ばす。
一人はそのまま吹き飛ばせたけど、もう一人はギリギリで地面に戻ってしまった。
「あら、駄目だった」
「一人飛んだだけで十分じゃないか?」
「行けるとこまであれで行きたかった、な!」
小声で話しながらもう一度風を起こして、向かってきた相手を今度こそ吹き飛ばしにかかる。
なんか思ったよりも風の勢いが出てるのは、後ろからサヴェールが補強してくれているからかな。
すごいな、シャムに時々やってもらうことはあるけど、ここまでガッツリ補助がかかる事は中々ないからちょっとびっくりしちゃった。
「そこまで」
「凄い威力でたなぁ」
「後からでも補助を入れれば吹き飛ばせるか?」
「かも。いい感じだぁ」
魔法を消して手合わせ場から出て、邪魔にならない場所まで移動する。
次は誰が相手かなぁなんて思いながら杖を揺らしていたら、サヴェールが無言で髪紐の先を弄り始めた。
「なぁにー?」
「キラキラしてる。どこのだ?」
「あー……これフォーンじゃないかも。ネフィリムとかだったかなぁ」
シオンにいと出かけた時に買ったものだった気がする。
サヴェールも髪長いし、髪紐とか結構気にしてるのかな。
実は手首にも一本予備で付けてるもんね。ちょいちょい入れ替えてるのも知ってる。
「二戦目以降も同じ始まりでいいよね?」
「いいんじゃないか?警戒はされそうだが」
「警戒のひと手間があるだけでも楽そう。最初三戦目くらいまでは同じことして、印象強くしておこ」
「分かった。防御張り次第風の補助もする」
「サポートが手厚い。ありがとう」
「長引いたらもう全部頼んだ」
「分かった頑張る」
ゆったり話しながら進む試合を眺めていたら、イザールがなぜか私の髪紐を引っ張り始めた。
なぜ引っ張る。気になるにしても引っ張るのは違うでしょうに。
なんて思いながら軽く風を起こして抗議してみたけど、止まる様子は無いのでむしろ私も風でイザールの髪紐を引っ張って対抗する。
「……あ、解けた」
「俺も解けた」
「もー。暇だから良いけどさぁ」
「……セルリアは低い位置では結ばないのか?」
「ん?まあ、あんまりやらないよね。サヴェールもポニーテールにはしないじゃん」
「してもいい」
「それはそう。……え、髪型交換する?」
「いいな。意味が無くて」
手軽にできる意味のないことはやっておいてもいいよね。
ぱっと見ていつもと違うことが分かりやすいから、相手が一瞬でも何あれ……?ってなってくれれば御の字だ。
欲を言うなら一瞬でも混乱してほしい。
冷静になるまでの一瞬でぴかっと出来るし、対策なしに光れば転ばせるのも簡単だからね。
そんなわけで髪型を交換して、いつもより低い位置で括られた髪を揺らす。
「よし。……凄く揺れる」
「思いっきり振り返ると毛先に襲われるから気を付けてね」
「あれは痛い。この間強風の日に襲われた」
「可哀想」
「後ろを歩いていたリムレも襲われていた」
「被害が拡大してる」
可哀想。ともう一度繰り返して杖を揺らす。
視線を手合わせ場に戻したら、ちょうどリオンが相手を場外まで吹き飛ばしたところだった。
致命傷判定の場外転移じゃなくて、単なる腕力でぶっ飛ばしての場外なのがリオンが筋肉お化けたる所以だよね。
「……サヴェール、リオンの攻撃防御しきれる?」
「分からない。なんで魔法斬れるんだ?あいつ」
「うちの兄さんが教えたから」
「セルリアのせいか……」
「私のせいになるんだ。……まあ私のせいでもあるか」
魔法を斬れるようになってからリオンは大体のものを斬れるようになっていて、ついでに大剣も進化したのでもう本当に斬れない物を探す方が難しいくらいなんだよね。
一緒に冒険者活動をするなら心強いんだけど、魔法使いとしては何してくれてんだという気持ちも痛いほど分かるので、甘んじて私のせいだということにしておく。
「あ、終わった」
「まあそうだろうな。……リムレがすごくしおしおしている」
「本当だ。あれどうしたの?」
「やることなかったんじゃないか?」
「あぁ、リオンが大暴れするから」
のんびり話しながら、しおしおなリムレが壁際に歩いて行くのを見守る。
なにやらリオンと話してはいるから、ちゃんと会議はしてるんだろう。
私たちより会議してるのかな?結構ちゃんとやってない感じだけど、四年目ともなると慣れてる相手と組んでる人がほとんどだから、会議なんてやってないところも多そうだ。
「セルリアは普段リオンと一緒に戦う時にどうやってるんだ?」
「んー?特に何にも考えてない。呼ばれたら追い風だけ渡してる」
「なんとまあ」
「サヴェールだってリムレと共闘する時、特別何か考える事ないでしょ?」
「……確かに」
話している間に一周目が終わりに近付いてきたようで、再び名前の書かれた紙が浮き上がり始めた。
ここからだとちょっと見えにくいので、軽く魔力を練って遠視を仕込む。
気付いたサヴェールが相乗りしてきたので、落とさないようにいつもよりゆっくり進んで表を見に行く。
次の相手は……お、魔法使いだ。流石に無防備にぴかっとはされてくれなさそうだけど、どうしよっかなぁ。
まあ最初はどうせぴかっとするんだけどね。
確認を終えて魔法を手元まで戻して、サヴェールが離れてから霧散させた。さ、次に備えよう。




