463,最後のテスト
杖を回しながら欠伸を噛み殺して、ざわついている教室内を眺める。
今いるところは、一番広い手合わせ用の魔法陣がある実技教室。
今日は、正直いつなのかあんまり認識していなかったテストの日なのだ。
四年生になって絶対出なきゃいけない授業は無くなったし、最近はダンスパーティーの準備とかに意識を裂いてたから半分くらい忘れてた。
筆記テストもないからね、準備することも何もないからいつだって大丈夫ではあったのだ。
シャムたちは相変わらず勉強が大変そうだったし、校内はテスト前の勉強しなきゃーって雰囲気に染まってたからそろそろだろうとは思ってたけどね。
そんなわけで気が緩んでたわけだけど、戦闘職四年生はテストの日程を忘れがちなのか、昨日先生から通達が来ていた。
なので今日は約一年ぶりに朝ご飯を食べた後パンを持ってリオンを叩き起こしに行き、一緒に教室まで来た。
ダラダラと話しながら開始時間を待っていたんだけど、久々に見る人とかもいてなんかちょっと面白い。
「静かに。始めるぞ」
武器が変わってる人も結構いるなーとか考えていたら、鐘が鳴ってヴィレイ先生が入ってきた。
他の先生もいるんだと思ってたけど、ヴィレイ先生一人みたいだ。
今までは二人以上の先生が来てたのに、今年は一人なのか。……他のテストに人員割かないといけないのかな?
「四年生のテストは、二人一組での戦闘だ。特に指定はしないので、相方を探して報告に来い」
パンッと手を叩く音が響いて、教室内が騒がしくなる。
なるほど、そういう。確かに二対二は今までそんなにやってこなかったかもしれない。
説明の続きは組み合わせが決まった後になるようで、思わず隣にいるリオンと顔を見合わせた。
「組むか?」
「……ちょっと誘いたい人が居るから、振られたら泣きつくね」
「マジか。俺お前以外に誘う奴いねぇんだけど」
断られるとは思っていなかったらしいリオンが後ろを付いてくるけど、それは一旦無視して目的の人影を探す。
早めに行かないと、誘うことも出来なくなるから駆け足だ。
「……あ、居た。サヴェール!」
「うん?どうしたセルリア」
「私と組まない?」
「え、セルリア、リオンと組むんじゃないのか?」
「俺今振られてんだよ。つーか誘いたい奴ってサヴェールか」
「うん。今まで魔法使いって別のパーティーだったから、共闘したことないなって」
「確かにそうだな。組もうか」
「マジか、リオンどうしよう俺振られた」
「俺も振られてんだよなぁ。……組むか」
「そうだな。……むしろお願いします。頼むリオンこの凶悪魔法使いコンビどうにかしてくれ」
「一人じゃ無理だろ」
見つけたサヴェールに声を掛けて、リオンとリムレがやいのやいの言ってるのを聞きながら握手をしてヴィレイ先生に報告に向かう。
サヴェールとは今まで授業で戦うことは結構あって、戦いたくない相手だったりもした。
戦いたくないのと同じくらい一緒に戦いたいって気持ちもあったから、今回はちょうどいいタイミングだったのだ。
ウキウキで杖を揺らしていたらリオンに捕まれたので、軽く振って開放を求める。
「せんせー」
「決まったか?」
「はい。私とサヴェールがペアです」
「んで、余った俺らが組むっす」
「そうか。他のペアが決まるまでもう少し待っていろ」
「はーい」
私たちは決まるのが結構速い方だったみたいだけど、それでも聞いた瞬間に報告に行った組もあるみたいだ。
……ミーファとソミュールが順当に組んでるみたいだから、そこをどうするかだなぁ。
「セルリア、情報交換しよう」
「オッケー。内緒話ね」
コツン、と杖で床を叩いて、私とサヴェールだけが入るように風を作る。
音だけ遮断して、周りが見えるようにはしておく。どのタイミングで説明の続きが始まるか分からないからね。
「俺は光、補助と攻撃」
「私風。攻撃特化。レイピアも持ってきた」
「音魔法が使えない、あと土と無も」
「私は炎が……全部燃やして良いなら使えるけど」
「やめておこう」
「そうだね」
そういえば今まで何となく把握してただけで、お互いの魔法適性とかしっかり話したことはないんだよね。
ある程度使ってる魔法とか動き方で分かるから、わざわざ言うタイミングも無かったし。
「基本的には私が攻撃、だよね?」
「うん。防御は任せろ」
「あんまり動かない方がやりやすいかな。近くにいよっか」
「最初にピカッとするか?」
「しとこう。私その後そよそよする」
……なんか、サヴェールって言葉選びとか話し方とか緩いんだよなぁ。
無口だからとっつきにくそうに見えるけど、話すとふわふわだから研究室の後輩とかがポカーンとしてる時あるもん。
私が遊びに行った時にたまたま見た回数だけでもそれなりにあるから、普段からあんな感じなんだろうなぁ。
私は何だかんだそれなりに交流があるから見慣れてるけど、ふとした瞬間にふわふわしてる……って思うし。
「説明を再開する。魔法を消せ」
「はぁい」
明らかにこっちを見て言われた言葉に、なーんで魔法を貫通してくるのかなぁとか思いつつも素直に返事をして杖で床を叩き、魔法を霧散させる。
室内を見渡したヴィレイ先生は、腕を組んで説明を始めた。
「……よし。戦闘職四年生のテストは、二人一組での戦闘だ。制限時間は設けない。転送を含めた場外判定のみで勝敗の判断を行い、先に二人とも場外に出た方の負けになる。
以上の条件で二日間かけて総当たり戦を行う。質問はあるか?」
時間制限、ないのか。今までも時間制限で終了ってことは少なかったけど。
……あ、勝敗が明確だからヴィレイ先生一人なのかな。
でもそっか、場外か。……場外狙いで風吹かせまくってもいいかもしれない。
「ないな。では一周目の組み合わせを発表する」
先生の声と同時に名前の書かれた紙が浮き上がって、空中で並んで表の形になった。
私たちは……真ん中くらいだから、しばらくは待機だ。
というか、あの表そのまま動いてるけどどうやってるんだろう。
風じゃなさそうだし、無属性かなぁ。
そもそも魔法でもないかもしれないけど、どうやってるのか後で聞いてみよう。




