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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
461/477

461,レース盛り盛り

 天気のいい午後に、のんびりと一人で街を歩く。

 待ち合わせ場所は大通りにある噴水のあたりだから、そこまで散歩がてら通り沿いのお店を見たりしながら進む。


「あ、可愛い」


 のんびり歩いていたらよく行く文房具屋さんの窓際に新作のレターセットが並んでいたので、思わず入店して三種類も買ってしまった。

 もう家に手紙を出すのもあと一か月くらいなのに、流れるように買っちゃったよね。


 まあ可愛いからいいか。どっかで使う用事もあるだろうし。

 なんてことを考えながら噴水の傍で止まって、空を見上げつつ杖を揺らした。

 風を起こすかどうか考えていたら、人が寄ってくる気配がしたのでそちらに顔を向ける。


「モエギお兄ちゃん」

「お待たせしました、セルちゃん」

「今来たところだよ、大丈夫」


 手に荷物を抱えて歩いてきたモエギお兄ちゃんに手を振って、荷物を受け取ろうとしたらその前に一歩下がられてしまった。

 お兄ちゃんはそのまま私の事を上から下までじっと見て、頷いてから持っていた荷物を差し出した。


「サイズは問題なさそうですね。あ、でも一回着てみて、どこか不都合があったら連絡してください。まだ直す時間もあるだろうし」

「はーい。……今の一瞬で何を計ったの?」


 モエギお兄ちゃんのやたら正確な目測で持ってきてもらったドレスのサイズが合うかを計ったんだろうけど、なんでそれで分かったのかは全く分からないよね。

 姉さまといいお兄ちゃんといい、謎技術は本当に謎だなぁ。


「靴も入ってます。小物は、シャムちゃんと買いに行くんですよね?」

「うん。ミーファも引っ張ってく予定」

「ふふ、いいですねぇ」

「ミーファのもお兄ちゃんが作ったんだよね?」

「そうですね、ソミュールちゃんのと合わせて、二着作って渡しています」

「じゃあミーファのと色味合わせて小物買ってきたらソミュールも連れだせるかな?」

「そうですねぇ……ミーファちゃんの方は寒色が強くて、ソミュールちゃんの方は暖色が強いので、そこだけ意識してみてください」

「はーい」


 ベースは同じで、細かい色味とかデザインがそれぞれに合わせてある感じなのかな。

 ソミュールが行くかどうかは分からないけど、一回見せてもらった方が確かだな。

 買い物に行く前にソミュールの所に行って、ついでに行く気があるかどうか確かめてこよう。


「それじゃあ、何かあったら連絡してくださいね」

「うん。ありがとうお兄ちゃん」


 お兄ちゃんと別れて学校に戻りながら、行きと同じように通りのお店を眺める。

 帰り道では特に目を引かれるものはなかったのでそのまま学校に戻り、門のところで何故か待ち構えていたシャムに捕まった。


「おかえりセルちゃん!」

「ただいま。待ってたの?」

「うん!気になって仕方なかったから!」


 腕にくっ付いたシャムはそのままにして寮に戻り、部屋で受け取った荷物を開ける。

 私よりシャムの方が楽しみにしてたみたいだから、見えやすいようにそっちが表になるように持ち上げた。


 持ち上げたのと同時にシャムが小さく歓声を上げていて、釣られるようにして私も声を漏らす。

 ドレスと言ってもそこまでちゃんとしたものである必要は無いから、丈は普段着ているワンピースより少し長い程度で、けれど普段着ではないことが一目で分かる。


「おわー……すご」

「可愛いー!!」

「……あ、靴もあるんだって」

「え、見たい見たい。というかセルちゃん着てみて!」

「そうだね、お兄ちゃんからも一回着てみてって言われてるし」

「モエギさんが来てたんだね」

「うん。私がお兄ちゃんって呼ぶたびに周りの人が二度見してた」

「んふふふ……まあ、だよねぇ。見えないよねぇ」


 これはもう仕方がないことではあるんだけど、モエギお兄ちゃんとサクラお姉ちゃんは私との関係値と見た目がどんどん釣り合わなくなっていっちゃってるからね。

 あと、お兄ちゃんの場合は女の子に見られがちだから二重でびっくりされている。


 そんな話をしながらドレスと靴を持って一度シャワールームの方へ行き、着替えて靴も履き替える。

 こういう服を着る時ってさ、どっか引っ掛けてないかとか、破いちゃわないかとか不安になって着替えるのにいつも以上に時間が掛かるよね。


「……うん、オッケー。どう?」

「可愛いー!え、すごい、お嬢様の気配がする」

「可笑しいところない?」

「ないよー!わー……可愛い……」


 明るい緑色の生地の上に薄い布が何枚も重ねられていて、歩くとふわふわ揺れる。足元は前の方が少し短くて、後ろが長くなっているみたいだ。

 腕の部分はレースになっていて、肘あたりまでを覆っている。裾側に行くにつれ広がっていく感じで、腕を出している感じがあまりしなくて凄く良い。


 腰にはリボンが巻かれていて、そこにもレースがあしらわれている。

 ついでに細かな飾りも付けられていて、ここだけでどれくらい時間が掛かったのだろうかと思わず考えてしまった。


「ん?……あ、すごい、シャム、見てここ杖入る」

「えっ、わ、本当だ!?すごい!?」


 凄いなぁとのんびり考えながらドレスの表面を撫でていたら、左側にタスクだけなら入るくらいの細いポケットが付いていることに気が付いた。

 思わずシャムにも知らせていそいそとタスクを取り出し、ポケットに入れてみる。


「どう?分かる?」

「分かんない!そこだけ飾りも付いてるし、ちょっと形が変わったとしても分かんないようになってるみたい」

「……シャムのにもついてるのかな」

「え、もしかして付いてる?私そんな便利なものに気付かずに過ごしてたの?」


 付いてそうな気がするなぁ。シャムはメインの杖がタスクだし、持ち歩けた方がいいよねーとかは考えてそうだ。

 付けるだけ付けて説明してないのも、服飾ハイになったウラハねえとモエギお兄ちゃんならやりかねない。


「後で確認してみよう……」

「分かったら教えてね」

「うん。……ちなみにセルちゃん、その靴ヒール何センチくらい?」

「分かんない……思ったより高い……」


 少なくともいつも履いてるブーツよりは高い気がする。

 動けないほどじゃないけど、あ、思ったより高いな……って感じるくらいの高さではある。

 可愛いんだけどね。ドレスに合ってるライトグリーンで、小さな飾りも付いてて、ついでにレースもあしらわれてて。


 ……もしかしてこのレースだけ後付けだったりするのかな?

 靴は流石に既製品だろうけど、どうせなら合わせてレースだけはつけたいよね!みたいなことを言ってそうな二人ではあるしな。

 よく見たらドレスのレースと同じ柄だし、多分きっとそうなんだろうなぁ……


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