460,全方位迎撃
ゆっくりと杖を回して、他の人の所を回っているノア先生を眺める。
私は最後みたいだから、とりあえずのんびり待ってるのだ。
今は攻撃魔法の授業中で、なんか先生がやりたい事があるらしいんだよね。
先生が四年生を巻き込んでやりたい事って、なんかすごい規模がでかいとか難易度が高いとか、そんなイメージがあるからちょっと身構えちゃうよね。
私個人への無茶ぶりの可能性もある。
今から難呪とかは流石にやめて欲しいなぁなんて思いながらのんびり眺めていたら、指示を出し終えたらしいノア先生が歩いてきた。
……ウッキウキだなぁ。一体何を言われるんだか。
「さて、セルリア。今日は全方位迎撃をやりましょう」
「なんですかそれ」
「このくらいの氷を全方位から撃ち込むので、動かずに全て撃ち落としてください」
「……なるほど、分かりました」
ノア先生が手のひらの上に浮かべている氷は、握りこぶしくらいの大きさだ。
当たったらちょっと痛そうだけど、当たらないように撃ち落とせってことだもんね。
私が普段からフラフラ逃げることが多いから、たまには迎撃してねって感じかな?
「高さはあの辺りで」
「はい」
氷で示された場所まで飛んで、そこで風を起こす。
自分の周りをしっかり覆いきって停止すると、氷が一つ飛んできた。
それを打ち落として、杖を握り直す。魔力を込めて一気に風を起こして、迎撃態勢を整える。
飛んできた氷を周りに展開した風で探知して、思い切り上からたたいて地面に落とす。
やっていることはそれだけなんだけど、最初の五発くらいが終わったあたりから速度も数もどんどん増えているせいで大分大変なことになっている。
探知に風が欲しいのに、打ち落とすのにも風を使うから使った端から作ったり回収したりしないといけない。
最初は回収してたんだけど、そんなことしてる余裕が無くなってきて、ゴリゴリ魔力を消費しながら風を起こし続けている。
「あっぶないなぁ!?」
後ろから飛んできていた氷を打ち落としたら、下から別の氷が飛んできていた。
ギリギリでそれも落として、なんかもう視覚情報が邪魔になってきたので目を閉じて風に意識を集中させる。
身体の周りにある風を二分化して、中心近くの風に触れた瞬間打ち落とす。
それより外側の風は氷の探知に集中させる。
中央に到達するまでに個数の把握と、それぞれの速度をしっかり認識しないと駄目になってきてるのだ。
「舞え、落とせ、落とせ、回れ、舞え、落とせ、落ちろ」
小さく呟きながら風を操作して、ごうごうと吹かせて量を保つ。
魔力の消費量が増えてきた。
けど、授業の時間程度で魔力切れになるような魔力量じゃないから、あんまり気にせずに作り続けておく。
というか、それを気にして風の量を減らしたら対処できなくなる。
氷の量が増えてるだけじゃなくて、飛んでくる速度が全部違うように調整されてるから、探知にも風をそれなりに割かないといけない。
ごうごうと鳴っているはずの風の音まで聞こえなくなるくらい集中して、風を起こし続けてどのくらい経ったのか。
とんでもない密度で飛んできていた氷が止まって、三つくらいポーンと少し大き目の氷が放り込まれた。
撃ち込まれていたさっきまでと違って、緩く投げるように向けられたから、これで終わりってことかな?
その三つを打ち落としてからゆっくり目を開けると、先生が笑って手を振っていた。
これは終わりってことで良さそうなので、とりあえず地面に降りる。
地面に降りて上を見上げたら、とんでもない風の塊が渦を巻いていて思わずうわぁ……と声が漏れた。
「なーにあれ。えっぐ」
「作ったのは貴女ですよ」
「まだ渦巻いてますよ。もう魔力入れてないのに」
「凄いですねぇ」
あんまりにもえぐい塊が浮いてるもんだから、全てを棚に上げて思わずゆったり感想を述べてしまった。
ノア先生ものんびり笑っているから、もうちょっと眺めてようかな。
「周りに影響が出始めているので、片付けましょうか」
「はぁーい」
ぼんやり眺めていたら釘を刺されたので、杖で地面を強く叩いて風を消していく。
量と密度が凄くって、一回じゃ消しきれなかったから何度かコンコンやって風の塊を消し、最後に周りに散っている風も消しておいた。
「……もしかして、周りにも結構影響出てました?」
「何人か気になって仕方がない様子ではありましたね」
「なんも気にしないでやってたなぁ……」
「いいものが見られました。まだ魔力は余裕があるんですか?」
「そう、ですね。まだ」
多分半分くらいは残ってる、かな?この短時間でものすごい量使ったけど、倒れるほどではない。
魔力をちょっと回してみて残量を確認したり見つけた風を消したりしていたら、なんかでっかい犬っぽい気配の後輩が勢いよく突っ込んできた。
「セルリアせんぱーい!」
「グラシェ、ストップ。まだ授業中」
「もう終わるよ!」
「え、そんなに時間経ってた?」
走ってきたグラシェにストップをかけつつ時計を確認したら、確かにもう授業が終わる時間だった。
集中してたせいで時間の経過に気付いてなかったみたいだ。
なんてこった、びっくりだ。まだあと三分の一くらいは時間あるかと思ってたや……
「先輩あれ、なんて魔法?」
「……どれの事?渦?」
「そう!」
「あれは、別にああいう魔法があるわけじゃないよ。私が普段周りに纏ってる風を最大まで強くするとああなるってだけで」
「え、じゃああれ初級魔法なの!?」
「分類的にはそうだねぇ」
初級魔法は、その属性を「集める」「作る」「操作する」ってのをやるだけの、各属性で一番最初の魔法だからね。
私はあの風を「作って」「操作していた」だけだから、あんだけの魔力量を注ぎ込んでいても、やっていること的には初級魔法ってことになる。
風で壁を作る魔法も勿論あるんだけど、それを使うとまた別で打ち落とし用に魔法を組まなきゃいけないから、むしろ面倒なんだよね。
対応にも速度が必要だったから、なるべく扱いやすい魔法が良かったって言う理由もある。
そんな話をしていたら授業終了のチャイムが鳴って、グラシェは友人に呼ばれて去って行った。
私も先生から授業の出席証を貰ったので、次の授業に行くことにする。次は……魔法歴史かな?




