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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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46,いざ精霊に愛された国へ

 ヒソクさんの住む峡谷の底から上がってきて、来た時と同じように二手に分かれてリコリスに帰る。

 コガネ兄さんはいつも姉さまを抱えて森の中を進むが、正直上から向かった方が分かりやすいのだ。

 森の中を通ると道なき道を行かないといけないが、上からならぽっかり空いた空間を見つければいいだけなので簡単に戻れる。


 まあ、基本的には阻害の魔法をかけてあるらしく、私はそこで過ごした期間が長いからその魔法の対象になっていない、ということらしい。

 ちなみに私以外にも上から来る人たちが居るが、あの人たちは姉さまから魔道具を受け取っているおかげで魔法の対象にならないのだとか。


 この結界を張っているのもヒソクさんなので、その能力値の高さがうかがい知れる。

 その場にいないのにこれだけの範囲に結界を張って、それを維持し続けて、ついでに他の魔法も使って入れる人を選んでいるのだからなんというか上位種族、という感じがする。


 なんて考えている間に眼下の森の中に開けた場所を見つけて高度を下げる。

 家の前の開けた空間に着地すると、先に到着していたらしい姉さまが玄関を開けてくれた。


「ご飯食べながら明日の予定決めよっか」

「はーい」


 返事をして、家の中に入って手を洗って戻ってくると食卓にはすでに料理が並んでいる。

 明日、というと行く先はスコルだろう。

 第四大陸にある国の一つで、外海に面した美しい国だ。


 精霊に愛されているらしく、その加護を受けたものが時折市場に並んでいる。

 そして精霊に愛された国、というそれを強調するかの如く市場には精霊を模したものが売られていて、そのデザインがとても綺麗で可愛らしいのだ。


 若い女性に人気だというそれらの物は、私も好きだしなにより姉さまが好きだということが大きく、家の中にそれなりの数置いてある。

 私の持ち物の中にも姉さまからもらったスコルの工芸品はいくつもあったりする。


「明日はスコルに出店だから、セルちゃんはティーセットを探しておいで」

「私も一緒に行くから、色々見て回りましょ」

「うん」


 素直に返事をすると横からシオンにいの手が伸びてきて頭を撫でられた。

 シオンにいは、まあ行かないのだろう。そもそも出かけることも珍しい人だ。

 出店リコリスはいつも通りコガネ兄さんとトマリ兄さんが店番をするらしく、私とウラハねえは好きに市場を見て回っていいらしい。


 リコリスが帰る時間になったら戻ってくればいいから、好きにしなさいと。

 昔からよくやっていたお出かけの形だ。おかげで第四大陸の国々は随分と歩きなれたような気がする。


 ウラハねえと一緒ということは、市場を回るだけでなく布地なんかも見ることになるだろう。

 もしかしたら家に居る間に何かしら服を仕立てられたりするかもしれない。

 嫌ではないが、そうなると長いのだ。


「湯沸し器、探してみてなかったらレプさんにお願いしようかなって」

「確かに職人にお願いした方が確かでしょうね」

「ねえ、やっぱり私甘やかされ過ぎなんじゃないかな?」

「そんなことないと思うで?」

「言ったって止まんねえよ。諦めろ」


 やはり、この過保護と甘やかしに対する言葉は諦めろであるらしい。

 もう本能か何かの如く甘やかしてくるのだ。甘えきりにならない様に気を付けてはいるが、それでもここまで甘やかされるとどうしようかと思ってしまう。


 何を言っても止まらないのだろうから、必要なものは家に帰ってくる前に用意しておくくらいの心が必要かもしれない。

 今後はそうしよう、と一人頷いて、買い物の話しで盛り上がり始めた姉たちを眺める。


 出店リコリスがどこかの国に行くときに食糧なんかを買って帰ってくるのがこの家の買い物だ。

 今回は、市場を見て回っている私たちが買い物担当になるだろうか。

 それも楽しいので大歓迎だが。荷物が重ければ浮かせてしまえばいい、と思っているので、往復回数もそう多くはならないだろうし。


 とりあえず甘やかされることはあっても無理をさせられることは絶対にないので気楽に楽しめばいいのだ。

 回る場所や順番はウラハねえが考えているだろうから、私はのんびりついて行けばいいだけだろう。




 そんなわけで翌日の朝。動きやすい服装で髪留めを手に持って一階に降りる。

 すでに起きていて朝食の支度をしていたウラハねえとモエギお兄ちゃんに声をかけてから配膳に加わった。


 そうこうしている間に徐々に人が起きてきて、最後に姉さまが起こされてきてから朝食だ。

 朝食の間に出店リコリスの今日のあれこれが話し合われているので、何となく聞き耳を立てながら食事を続ける。


 買い物リストをウラハねえが受け取っているので、やはり買い出しは私たちが行うようだ。

 先に買い物リストを終わらせるのか、自分たちの買い物を先にするのか。そのあたりはウラハねえにお任せなので後で聞いておこう。


「あ、ウラハー。ついでにワイン見て来てや」

「それは自分で行きなさい。本当にもう、出不精なんだから……」


 シオンにいがだらりと発した言葉は容赦なく切り捨てられ、代わりにウラハねえの呆れたような目が返ってくる。

 それに対して慣れたようにええやぁん。見てくるだけやぁん。と言葉を続けたシオンにいは、絶対に過去何回か見繕ってきてもらったことがあるのだろう。


 知り合いからワインが貰える、となったら一人で出かけるくらいには好きなもののはずなのに、基本的には自分で買いに行かないあたり本当に出不精なのだろう。

 出かけるとなると第一声で珍しいと言われるのだから日頃どれだけ出かけないのかがよく分かる。


 そんな話をしている間に朝食も終わり、トマリ兄さんとコガネ兄さんが荷物の確認をしている間に食器を片付けてウラハねえに髪を結んでもらう。

 今日も一つに纏めて貰い、すっきりした首元を何となく触りながら家の外に出た。


 出店リコリスは人力の荷台だが、実は馬に引いてもらうことも出来るらしい。

 それをやっているところは見たことがないが、何となく前に回り込んでここら辺を繋ぐのだろうか、と考えてみる。


「なーにしてんだ?」

「トマリ兄さん。……この出店って、馬でも引けるんだよね?」

「おう。色々つけ変えて組み替えて、ってする必要はあるけどな」

「じゃあこのままじゃ出来ないんだ」

「そうだな」


 つまりさっきまで考えていたのは全て不正解、ということだ。

 その後弄り方は教えて貰ったが、どうにもこうなる、という想像が出来ない。


「……トマリ兄さんは馬が引いてるところ、見たことあるの?」

「ねえよ。そもそも引かせたこともねえんじゃねえの?」

「そうなの?」

「おう。一応できるようにしとけ、ってつけただけらしいからな」


 必要があるかは分からないがとりあえずつけておけ、ということだったらしい。

 姉さまの周りの物は、そうやって使ったことのない多彩な仕掛けで溢れていたりする。これもそのうちの一つだったのか。


 なんて納得している間に出発準備が整ったらしく、コガネ兄さんが顔を出した。

 促されて荷台に乗り込み、先に乗っていたウラハねえの横を確保したらいよいよ出発だ。


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