459,最後くらいは
今日は午前中は座学の授業に出て、午後はのんびり読書をしていた。
放課後になったので久々にどこかの研究室にでも遊びに行こうかなぁと思っていたんだけど、移動しようかと思ったタイミングでイザールが来たので座り直す。
「やっほーイザール」
「やっほー先輩。おかえり」
「そういえば戻ってきてから会ってなかったか。ただいまー」
「ダンスパーティー行くって本当?」
「なんで知ってるの」
「猫だからね。耳いいんだ」
それにしたって聞きつけるのが早すぎる。
……なんか機嫌が良さそうだけど、もしかしてそれが理由?
だとしたらあまりにも可愛いな。撫でようとしたら逃げちゃうから撫でられないのがあまりにも惜しい。
「誰と行くとかあるの?」
「シャムかな。あとアリアナが多分一緒に居てくれる」
「なるほどねー」
流れるように横に座ったイザールの尻尾を目で追いながら、ぽっかぽかの日差しに誘われた欠伸を噛み殺した。
もう遠出の予定は無いし毎日大分のんびりしてるんだけど、流石にちょっとは動かないとなぁ。
リオン誘ってクエストにでも出ようかな、なんて考えながらイザールの尻尾に手を伸ばして逃げられたり、耳を見てたら距離を取られたりして過ごす。
特に会話が有るわけではないけど、なんか居心地いいよね。
「……先輩、誰か来たよ」
「用事ありそう?」
「ありそう。多分ウサギの人」
「あぁ、ミーファか」
ならそのまま待ってていいかな。多分急ぎではないだろう。
なんて考えている間に建物の方からミーファが顔を出して、そのままトコトコ寄ってきた。
……もしかして二人とも、誰が居るか把握してた?ミーファならイザールに気付いててもおかしくはないよね。
「セルちゃん、ダンスパーティー参加するって本当?」
「何でみんな知ってるの……?」
「耳がいいと色々聞こえるからね」
「……なるほど」
「あ、えっとね、シャムちゃんに聞いたの」
「あぁ、なるほど」
なるほどなるほど、凄く納得した。
シャムがウキウキで知り合いに言いに行ってて、イザールはそれをどこかで聞いたんだろう。
……何で聞こえてるんだろう。色んな所に意識向けすぎでは?
「実は私も誘われて……」
「え、そうなの?一緒に行く?」
「う、うん。でも私、ダンスなんて踊れないから、どうしようかなって」
「あー……教えようか?」
「え、先輩リードも踊れるの?」
「うん。習った」
「なんで?」
「かー……えっと、姉さまのご友人が両方踊れた方が楽しいぞって」
うっかり名前を出しそうになったけど、ギリギリ気付いて言葉を濁したからセーフだと思いたい。
実際ミーファは分かってないし。イザールは何かを察して黙ってるけど、何も言わないならバレてないってことで良いよね。
これ以上この話題が続くのは危険な気がしたので、立ち上がって杖を木に立てかけて、ミーファに手を差し出す。素直に手を乗せてくれたミーファを軽く引っ張って、とりあえず基本の形を作る。
「手は肩に乗せて、背筋伸ばして」
「う、うん」
「まあ基本的にそんなガッツリやるわけじゃないだろうし、リズムに乗って揺れてるくらいで大丈夫だと思うよ。行ったことないから詳しくは分からないけど」
「大体そんな感じだけどさ、先輩やたら慣れてるね?」
「んー。昔お姉ちゃんと遊んでた時期があるから」
のんびり話しながら、ゆっくりとステップを踏んでミーファを誘導する。
ミーファは元々運動神経がいいし、ある程度動きの先読みが出来るからゆっくり繰り返していれば段々動き方が分かってきたみたいだ。
慣れてきて余裕が出てきたら、少しだけ速度を上げて繰り返す。
凄く簡単にしかやってないけど、ぶっつけ本番よりは心配事も減るんじゃなかろうか。
そんなことを考えながらゆらゆらしていたら、いつの間にかイザールが立ち上がって寄ってきていた。……なんか悪戯を思いついた顔してるなぁ。
「一回外から見た方が分かりやすいんじゃない?」
「あー……それもそうかも?ミーファ的にはどう?」
「見てみたい」
「オッケー」
ミーファも見たいんならやろうか。
私は軽く踊るだけならまあ別にいいから、イザールが悪戯半分でもまあいいや。
それに、私も本番前に一回確認はしたかったしね。本番踊らない可能性あるけど。
「……あ、イザールこっち派か」
「あれ、違った?」
「違くはないよ。ちょっとずつ国によって違ったりするんだってさ」
「へぇ。先輩はイピリアの?」
「基本は。でもフォーンのもスコルのも習ったよ。あとガルダ」
のんびり話しながらステップを踏んで、速度を上げて通常の速度で踊る。
流れでとりあえず踊りきってミーファの方を見ると、彼女は目をキラキラさせて小さく拍手をしていた。
「……もっかい踊る?」
「うん……!」
手を差し出すとすぐに手が重ねられたので、先ほどと同じように引き寄せてゆったりとステップを踏む。一回見ただけなのに理解したのか、さっきとは違ってしっかり選んで足を進めている。
「上手」
「えへへ……」
徐々に速度を上げてもしっかりついてくるので、ちょっと楽しくなってきてリングに魔力を通して小さく風を起こした。
それに気付いたミーファが首を傾げているけれど、何か言わせる暇は作らず足元に作った風を集めて一気に上昇する。
「わぁ!?」
「あははっ」
上昇ついでにミーファの身体を軽く投げ、キャッチするのと同時に着地する。
腕の中で耳をピンと立てて目を丸くしているミーファをそっと下ろして、とりあえず頭を撫でる。
ごめん、ちょっと楽しくなっちゃって。悪戯が過ぎたね。
「セルちゃん、もっかいやって?」
「あ、楽しかった?」
それなら、ともう一回同じように急上昇してミーファを軽く投げる。
今度は小さく歓声が上がった。びっくりしたけど楽しかったって感じかな?




