458,進路相談
朝ご飯を食べた後、戦闘職の教室棟をのんびり歩いていたらヴィレイ先生と出会ったので、ちょうど暇だし準備室の片付けをすることになった。
今回は自分からやりに行った感もあるから、文句を言わずにせっせと片付ける。
「それで、何を悩んでいるんだ?」
「……そんなに分かりやすかったですか?」
「お前が自分から来るときは何か相談事がある時だろう」
実際そうなんだけど、ここまでしっかり把握されてるとちょっと笑っちゃうね。
ふは、と気の抜けた音を出しながら積み上げられた紙を回収して整えていく。
何から話そうかなぁって考えてもいたんだけど、あんまり悩むようなことでもないからとりあえず口を開く。
「そろそろ真剣に卒業後の事を考えないといけないなぁって思いまして」
「そうだな。考えてい無さそうなやつには釘を刺しているが、お前は何も考えていない訳じゃないだろう」
「んー……まあ、考えても居たんですけど……」
今年の初めくらいから、一応考えるだけ考えてはいた。
全ッ然考えが纏まってないけど、一応考えてはいた。
纏まってない時点で駄目な感じもあるけど、一応努力はしたってところは評価してほしいよね。
「全然決まらないんですよね。かれこれ一年ずーっとじんわり悩んでます」
「行き先が無い訳ではないだろう」
「というか、多すぎるんですよね……」
「……なるほどな。クリソベリルにも声を掛けられていたが、他に何か所ある?」
「……二?三?」
声を掛けられてるっていうのだと、二かな?多分。
ただ、今みたいに色んな所に行ってみたりも楽しそうだなぁって思ってるから選択肢でいうならもっと多くなりそう。
出来ればリオン達と一緒に旅したいけど、それは向こうの都合もあるからなぁと足踏みしてるから、選択肢が絞り切れない。
戦闘職四年生はテストが実技だけだから、シャムたちが忙しくて私たちが暇な時にそういう話もするべきかなぁ……?
「クリソベリルに行く気もあるのか?」
「……そうですね、絶対ないとは言えないです。ほとんど知り合いだし、安心感あるし」
お誘いを貰ったのは素直に嬉しかったしなぁ。
クリソベリルに行くならリコリスにも顔を出しやすいし、姉さまが遊びに来てくれそうっていうのも理由の一つだ。
結局完全に離れるなんてことは出来ないから、顔を出しやすいって言うのは要素として重要なんだよね。
年一くらいで顔出したい。その点、フォーンを拠点に冒険者活動するってなると気軽に顔を出せるからすごいいい感じなのだ。
「選択肢の全てが冒険者ではないんだろう」
「……ソウデスネ」
「どんな事情か知らないが、いつかは決めないといけなくなるぞ」
「そうなんですよねぇ……」
私が選べる選択肢の中で一番の問題児も、しっかり目を向けないといけなくなってきてる。
流石に、返事をしない訳にもいかないしなぁ……
卒業したらもう逃がしてくれないだろうから、それも含めてどうするのか決めないといけない。
嫌なら分かりやすくて良いんだけど、別に嫌でもないから困るよね。
嫌ではないけど胃は痛くなりそうだし想像が出来ないってのが困ってるところだ。
想像、出来ないよね。全く出来ない。考えてみたとて合ってるわけなくない……?ってなる。
「選択肢全部嫌じゃないから、どうやって選んだらいいか分かんないんですよね」
「嫌じゃない、ではなくやりたい事は?」
「……リオン達の都合聞いてみないと?」
「なるほどな」
「研究職って、やっぱり専攻してた分野で研究者とかになるんですか?」
「そういう者も多いが、冒険者活動もしていたならその道に進む者もいる。ギルドとしても別で研究者を同行させなくていい分、特殊な状況で優先的に声を掛けたりもするからな」
「あー、なるほど」
おっきいパーティーだと研究者っぽい人が所属してたりするのは、そこらへんが理由なのか。
元々同じパーティーで活動してる人たちを呼んだ方が何かと楽だし安全だから、ギルドも必要ならそっちを優先して指名でクエストを持ってくるんだろう。
確かクリソベリルにも研究者っぽい人たちはいたし、何なら簡単な判断は出来るって人は多いからその辺も含めて最上位なのだ、あの人たちは。
モクランさんとかね、学者かな?って知識量だったりするからね。
「んぁー……考えれば考えるほど分からなくなる……どうしよう……」
「……一つ選択肢を増やしてやろう」
「増やすんですか!?」
「教師になる気はないか?」
選択肢が多くて困ってるのに、まさかの更に選択肢を増やされた。
教師……教師か……確かに人員増やした方がいいですよとは散々言ってたけど、まさか自分に声がかけられるとは思わなかったな……
なんでそんな急に……と思わず声が零れた。
零れたついでに回収し終わった紙をヴィレイ先生の横に積み上げて、要るものと要らない物を仕分けて貰う。
「もともと声を掛ける予定はあった」
「え、そうなんですか?」
「アリアナとグラシェに飛行魔法を教えていただろう。それ以前にも、ミーファに文の手本を渡していたりもしていたからな、向いているだろうという声が多かった」
「知らなかった……そんな話出てたんですか……」
確かに一年生の時にはそんなこともしてたなぁ。
そんなに手間でもなかったし、ミーファと仲良くなり始めたくらいの時期だったから距離が詰まっていくのが嬉しくてやってたんだよ。確か。
「人に教えるのは嫌いじゃないだろう」
「まあ、嫌いじゃないですけど。でもそんなさっくり誘っていいものなんですか?」
「四年間見てきているからな、性格も能力値も基本的には把握できている。新しく探してきた者を見定めるよりもずっと正確だ」
「それは確かに?」
私の場合は家もしっかり把握できるわけだし、調べる必要がある事は大体調べ終わってるのか。
一から新しく探してくるよりは楽、なのかな。学校の中も授業の進行も知ってるわけだしね。
なるほどなぁ。と頷きながら棚に本を収めていって、出てきた謎の瓶は先生に渡す。
「無理にとは言わんが、考えておけ」
「はーい。……ここにきて選択肢が増えるとは……」
「ちなみに攻撃魔法の教師として期待している」
「まあ、やるならそうですよね」
むしろそれ以外に適性ないからね、私。
やるなら攻撃魔法と、あとは細々した作業に精を出す感じになりそう。
……それはそれで楽しそうなんだよなぁ……
「あー……決まんない……決まんない……」
「何にせよ、後悔のないようにな」
「はーい」
一番はそこかなぁ。何よりも、選んで後悔しないことが大事だよね。




