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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
457/477

457,年末らしい話

 ペルーダからフォーンまでの道のりは非常に平和で、行きと同じ道順をキッチリ辿って五日ほどでフォーンに到着した。

 今回は割と近場だったこともあり、日程のズレはあんまりなかったね。


 目的の一つが魔物の素材だったこともあり、多少のズレは仕方のないものだから先生たちも問題が発生したとは思ってなかったみたいだし。

 そんなわけで戻ってきた日は先生たちからゆっくり休みな、と言われたこともあって部屋でゆっくり過ごした。


 そして今日はのんびり座学の授業に出たり図書館に行ったりしていたのだけれど、放課後になって何故かアリアナとシャムが連れ立って現れた。

 なんで二人が一緒に……?知り合いだったの……?


「セルちゃん」

「な、なに?」

「今年こそはダンスパーティー行こぉ!?最後だよ、ラストだよ!」

「んぇー……むしろもう行かなくてもよくなぁい……?」


 真剣な顔でしっかり手を掴まれたから何かと思ったら、割と聞きなれたお誘いが来た。

 そっか、今年もそんな時期か。

 ここまでしっかり逃げ切ってきたから今年も参加するなんて考えてなかったんだけど……


「え、もしかしてそのために二人で来たの?」

「意気投合した」

「セルリア先輩のドレス姿が見たくて……」


 ドヤ顔サムズアップのシャムと違ってアリアナはちょっと恥ずかしそうにしている。

 うーん、可愛い。可愛いけど、私は去年この可愛い後輩のお伺いとお誘いを振り切ってるんだよね。

 何故って言われたら面倒くさいし、わざわざ会いたい人も居ないから。


 別にダンスパーティーの時じゃないと会えない人とかいないし、新しく知り合いたい人もいないからね。

 そんなわけで今回も断る気満々だったんだけど、シャムの入れ知恵なのかアリアナが上目遣いでこっちを見てくるから凄く断りづらい。


「セルちゃんドレスはあるんでしょ?」

「……手元には無いよ」

「リコリスにはあるでしょ?」

「ある、けど……」

「一緒に行こうよぉダンスパーティー!最悪踊らなくてもいいからさぁ!」

「そんなにかい」


 そんなに私を連れていきたいのか。

 そこまでする理由無くない?って思いもしたんだけど、シャムは今年こそ絶対に私を連れていくつもりらしい。


「んえー……そこまで?」

「今年こそは!だって最後なんだもん!」

「今年を逃したら、先輩のドレス姿は見られないので……!」

「……一人にしない?」

「しないよ!」

「じゃあ、まあ、うん……途中離脱でもいい?」

「イイヨ!」


 あれこれと条件を付けて、それでもコクコク頷く二人に根負けした。

 ちょうどこの後家への手紙を書くところだったし、その時に書いておけばドレスは届けてくれるだろう。


 まだ時間はあるし準備自体は問題ないんだけど……まさか四年目にして初めてダンスパーティーに行くことになるとはなぁ……

 二人が喜んでるから、後から断るなんてことは出来ないし当日に向けて心の準備もしておこう。


 まあ、学校の行事だし会場には先生たちも居るから特に問題は起こらないと思うけどね。

 それでも私は単純に、人がいっぱいいるところが得意じゃないからね。

 疲れたらすぐに逃げ出せるように、あらかじめ予防線は張っておかないと。


「まあ、ならまぁ……いくかぁ……」

「やったー!やったねアリアナちゃん!」

「はい!やりましたね!」


 アリアナがグラシェ以外とここまでテンション高く話してるのってあんまり見ないから、珍しくてかわいかったのでとりあえず頭を撫でておく。

 シャムがテンション高いのはいつも通りだし、シャムは撫でようとすると逆に私の事を撫でようとして来て謎の争いが始まるからノータッチだ。


「手紙書かなきゃ。私は部屋に戻るね」

「はーい。ドレス届いたら一回見せて!」

「いいよ。シャムは去年と同じ?」

「うん。他に場所に合う服無いからね」

「じゃあ今度小物買いに行こ」

「うん!」


 手を取り合って喜ぶくらいには仲良くなっている二人に手を振って別れ、杖を揺らしながらのんびり部屋に戻る。

 昨日寝る前に来てた手紙の確認だけはしたんだけど、まだ返事には手を付けてない。


 元々書こうと思ってた今回の遠征の話題がほとんどにはなるけど……でもドレスの事もあんまり短いのもなぁって感じがするし、行くことになった理由も書いておこう。

 あとはまあ、ちび達元気だったよーとかそういう事をいっぱい書いておく。


 楽しい思い出いっぱいの方がいいよね。

 そんな感じでちまちま文を書き連ねて、量が増えてきたのでそこそこで止めて文を締める。

 最後に誤字とか脱字とかが無い事を確かめて、半分に折って宛名を書いた封筒に入れた。


「んー……行くか」


 時計を確認すると、夕食までまだ少しだけ時間があったので、さっさと手紙を出しに行くことにした。多分戻ってくる途中で鐘が鳴るだろう。

 明日の予定なんかを考えながらのんびり廊下を進んで手紙を出して、引き返して歩いている途中で予想通り鐘が鳴った。


「……よし、突っ切ろう」


 このまま廊下をお行儀よく進んでも良いんだけど、中庭を突っ切った方が早いからそっちを進むことにした。

 別に急ぐ理由も無いけどお腹空いたしね。


 中庭を突っ切って到着した食堂は、既に人で溢れかえっていた。

 多分誰かが席は確保してくれてるだろうし、自分の分の夕食を確保するため列に並ぶ。

 今日のスープ何かなぁ。前に魚のすりみが入ってたの美味しかったんだよなぁ。


「セルリア、向こうにもサラダあるよ?」

「うわぁ!?ロイ!?」

「ごめん、気付いてるかと……」


 後ろから急に声を掛けられて、驚いて跳ねそうになったので慌ててトレーを持ち直す。

 ロイか……びっくりした……学校で常に風を張ってるわけじゃないんだよ、私は。

 まあともかく、サラダがもう一種類あるらしい。


「どんなの?」

「……マッシュポテト系?」

「あ、そっちにしよ。ありがとう」

「いえいえ。驚かせてごめんね」


 話しながら夕食を選んで、ロイと一緒にいつも座っている辺りに向かう。

 そこでは既にリオンが座って、山盛りの夕飯を頬張っていた。


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