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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
453/477

453,いざ常冬の地へ

 目的の一つであるコズペの討伐と素材の回収を終えて、私たちは現在常冬の地を進んでいる。

 事前に準備していた冬装備とかんじきで移動は問題ないのだけれど、天気が良くて太陽の反射がすごいので、とりあえず目だけ魔法で保護しておいた。


 まっぶしいんだ。本当に。

 私は闇系の魔法も割と得意だから、全員分のヴェールを作って被せている。

 それは疲れるほどのものでもないから全然平気なんだけど、歩くのにすっごい疲れるからもう浮いちゃおっかなってちょっと考えてるんだよね。


「ゴーグルの用意をすっかり忘れてたね……」

「吹雪だとしてもあった方がよかったよね。うっかりしてたー」

「もう村とかねえんだよな?」

「ないね。というか常冬の地に住んでる人がいるっていうのも初めて聞いたよ」

「あの人は色々おかしいからね」

「セルの知り合い大体オカシイじゃねぇか」

「だって姉さまの知り合いだもん。私のって言うよりも」


 話しながら雪原をざくざく進み、夜は見つけた洞窟で暖を取りつつ休んだ。

 洞窟の入口を風で塞げば、割と温かいもんだね。

 塞いでいるのは風なので、換気の点でも問題はない。


 そんなわけで一晩休んで、二日目も雪の上をざくざく進む。

 多分二日くらいで着く……というか、見つかってお迎えが来ると思うんだよね。

 雪原に入ってある程度進めば探知が出来る、って前に聞いたことがあるから、そろそろ見つかってはいるはずだ。


「流石に腹減った……」

「休憩にする?」

「あー……この辺休んで平気なのか?」

「常冬の地に関しては、あんまり情報が回ってないからどこが危険とかも分かってないかな。休むところはリオンの勘でいいよ」

「んなら別んところにするかぁ……セル、なんかくれ」

「リンゴで良い?」

「おう」


 荷物からリンゴのドライフルーツを取り出してリオンに渡し、再度足を進めたところで何やら結構な速度で近付いて来るものを見つけた。

 リオンも気付いたみたいで、足を止めてリンゴのドライフルーツを食べている。


「お、もう気付かれたか」

「あれがその知り合いか?」

「うん、多分。他にあの速度で進む何かを私は知らない。もし魔物だったら全力で応戦しようね」

「安心しろ。俺だ」


 話している間に傍まで来ていた犬ぞりが私たちの横で動きを止めて、乗っていたお兄さんが声を掛けてきた。

 話し声も聞こえていたらしい。ちゃっかり会話に加わってきたので、上げられた片手に答えるように私も手を上げる。


「お久しぶりです、ジーブさん」

「あぁ。久しぶりだなセルリア。早速だが、乗れ」

「はぁーい。お邪魔しまーす」


 親指を立てて自分の後ろを指したジーブに従って犬ぞりに乗り込み、話が急すぎて止まっている三人を手招きする。

 リオンが横に乗ってきたらそれに続くようにロイとシャムもそりに乗ってきて、三人がしっかり座ったところでそりが動き始めた。


「姉さまから連絡いってました?」

「あぁ。そのうち行くらしいとだけな。随分帰ってないらしいじゃないか」

「いや休みのたびに帰ってはいますよ。姉さまが寂しがりなだけです」

「待つのに慣れてないんだよ。普段は自分が待たせる側だから」


 歩きの時とは比べ物にならない速度で進んで行く景色を眺めながら、ジーブさんと話をする。

 ジーブさんは姉さまとも長い付き合いだから、他の人とは違う視点で姉さまを見てる感じがするんだよね。


 待たせる側……姉さまって、待たせる側なのか。

 確かに言われてみれば、何かあったら家を留守にする姉さまをお留守番しながら待ってた記憶もあるし、ああいうのを含めるなら待たせる側なんだろうな。


「顔見せに帰るべきですかね?」

「待たせとけ。周りが皆あいつに甘すぎるんだよ」

「……そう言うもんです?」

「あぁ。甘やかすな。あいつもういい歳だろ」

「いい歳て……まあそうですけども……」


 姉さまの事をそうやって言う人中々居ないから、ちょっと笑っちゃったよね。

 確かにそうではあるんだけどさ。姉さま見た目全然変わらないから、そうは見えないんだよ。

 未だに子ども扱いされてる現場の方が見るもん。本人は不満げだけど。


「……お前たちとは初めましてだな。俺はジーブ。この場所に籠ってる変人だ」

「自分で言うんだ……」

「自覚はある」


 確かに変わり者の類ではあると思うんだけど、姉さまの知り合いでそうじゃない人の方が少ないから堂々と言われるとなんかちょっとそっかぁ……ってなるな。

 なんならジーブさんはそんなに変わって……無い事はないな。


「お前らの事は話には聞いてるよ。アオイがまた随分と楽しそうに話してたからな」

「そうなんすか?」

「おう。森の中に引きこもってる所為で今までセルリアに友人が出来なかったから、今が楽しそうで嬉しいんだとよ」


 姉さま……そんな風に思ってたんだ。

 なんかちょっとしんみりしちゃいそうになるけど、隣でシャムが何か凄い盛大に照れてるからそこまでしんみりもしなかった。


 というかシャムが照れすぎてて、私までなんかちょっと恥ずかしくなって来たな……

 なあに、なんでそんなに照れてるの。釣られちゃったじゃん。

 ロイがすっごいい微笑ましそうにこっち見てるし……


「仲が良さそうで何よりだ。ほら、着いたぞ」

「えっ、はやーい!」


 雪原に建てられた一軒家は、屋根と地面が雪で繋がっているせいで近くまで来ないと見つけることが出来ない。

 気付けば家の横まで来ていて、促されるままそりを降りて建物の中に入り、中で出迎えてくれたお姉さんに手を振る。


「お久しぶりです、フレアさん」

「久しぶり、セルリアちゃん。来てくれて嬉しい」

「チビたち寝てます?あんまりおっきな声出さない方がいいかな」

「寝てるけど、早々起きないから大丈夫よ」


 流れるように頭を撫でられながら、とりあえずジーブさんとフレアさんに改めてリオン達を紹介する。

 二人とも姉さまから話は聞いてたらしいけど、一応ね。


 今回会いに来たのは、単に私が会いたかったからってのが半分、ジーブさんが魔法回路の研究をしている人だから、シャムとロイが会ってみたいって言ってたからってのが半分なんだよね。

 そっちで話が盛り上がっている間は、リオンと雪遊びしてようかな。


 なんて考えていたら、犬ぞりを引いていた二匹の犬が私をじっと見ていることに気付いたので、とりあえず忘れられてるんであろう犬たちとの距離を詰めることから始める。

 コワクナイヨ……アッタコトアルヨ……オイデ……


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