450,最後の遠征
朝起きて、着替えて朝ご飯を食べて荷物を持ってリオンを叩き起こした。
そして部屋の鍵を預けて学校を出た。今日は、第六大陸に向かう最初の日である。
しっかり準備も終わっているし、あとは向かうだけだ。
「さあ、それじゃあ行こうか」
「おー」
ロイに緩ーく返事をして、のんびりと歩き出す。
第六大陸は他に比べると近いから、割と気楽な感じがするよね。
数日は第四大陸を進むことになるし、気を引き締めるのは第六大陸に入ってからでもいいかな。
慣れが出て気が抜けるのは良くないけど、いつまでもガチガチに緊張してられないからね。
変なものを見つけたらちゃんと意識は切り替える……っていうか、勝手に切り替わるし平和な間はのんびりでいいよね。うん、だって平和な訳だし。
「今日は鳥型の魔獣が群れで飛んでるかもしれないんだって」
「へぇ、渡り?」
「うん。第六大陸から内海の方へ行くらしいよ」
「見たことあるかも、その鳥。リコリスからでも見える位置飛んでることあるんだよね」
「そうなんだ?真っすぐ海まで行くのかと思ってた」
今日は特に順番も決まってないから、シャムと並んでのんびり話しながら歩く。
リコリスの上って割と鳥飛んでるんだよね。
他のものが見えないから目立つだけなのかもしれないけど、それでも鳥の群れとかを見かける頻度は高かった気がする。
あれかな、人がいないからかな。
街から見るより森から見た方が、そりゃあ野生動物はいっぱい居るよね。
リコリスには人避けも獣除けもあったし、兄姉たちの獣的な縄張りもあったから上空を飛ぶ鳥以外の野生動物は見える範囲には全然居なかったけど。
「あ、なんか居る」
「鳥?」
「いや、動物かな。……リオン、ご飯にはまだ早いから見逃してあげよう」
「しょうがねぇな……」
話している間に索敵範囲に居た小さな動物は森の中に逃げていったので、そのまま見送ってリオンにはドライフルーツを渡しておいた。
横から伸びてきた手にもドライフルーツを乗せて、自分の口にも放り込む。
そんなこんなで平和に第四大陸を進み、三日ほどで第四、第六大陸間の関所に到着した。
関所に一泊して、翌朝通り抜けたら第六大陸だ。
前回が第一大陸で通る関所は第五大陸との関所だったから、すっごい近いような気がするよね。
「おー……なんか空気冷てぇような気がすんなぁ」
「そんなに変わってる?」
「進んで行くとどんどん冷えていくから、今のうちに外套を変えておこうか。寒かったら遠慮せずに言って、着替えたりして良いからね」
「はーい」
第六大陸に来るのも久々だ。学校に入学してからは来ていなかったから、最低でも四年ぶりになるんだなぁ。
一度深呼吸をして外套を取り換え、手袋をポケットに突っ込んでおく。
着替えとマフラーも荷物の上の方に乗せたし、靴は外側に付けてある袋の中だし、これで準備はオッケーかな。
あ、リオンが外套の前しっかり閉めてるの、すっごい珍しい。
「よし、それじゃあ行こうか」
「おー!」
「まずはペルーダだね。第六大陸はそこまで広くないから、二、三日で着くはずだよ」
第六大陸は第四大陸の半分以下の大きさしかなくて、国が一つと町が一つあるだけなんだよね。
まあ他にも村がいくつも点在してるし、狭い分人口密度は高いらしい。
野営はしなくてもいいくらいに村もあるんだけど、第四大陸に近い場所だと私はちょっと身構えちゃうから、ペルーダに着くまでは野営をする予定だ。
毎度ごめんね、と思いつつ、どうしても村の中は落ち着かないからみんなの気づかいに甘えている。
大陸の奥の方に行けば大丈夫かなぁ?とも思うけど、でも第六大陸は第四大陸の影響結構受けるからなぁって意識があってね。
第一から第五大陸までは内海に面していて、二つ以上の大陸と人の行き来が盛んにあるんだけど、第六大陸は内海には面してなくて外海に囲まれてるのだ。
そして隣接している大陸は第四大陸と第七大陸。第七大陸は絶賛鎖国中なので、第四大陸から人も物も入ってくることになる。
勿論第六大陸にしかない文化とかも沢山あるけど、なんか妙なところで第四大陸との共通点があったり古い文化が残ってたりするのだ。
だからちょっと怖い。未だにちょっと怖い。
「お、山の上白いぞ」
「雪積もってるねぇ。綺麗」
「なんかデカイ鳥いる……あ、違うあれドラゴンだ」
「どこだ?」
「あそこ。あのちっちゃい影。多分あれドラゴンだよ」
「そういえば第六大陸ってドラゴンの巣があるんだっけ。遠いからちっちゃく見えるだけで、あれ多分相当でっかいよね」
周りの景色も楽しみながら進んで行き、日が落ちた後の寒さに凍えて厚着をしたりと徐々に常冬の地が近付いているのを感じる。
寒さ対策に香辛料を持ってきたりもしていて、リオンとロイは自分の分に追加で掛けて食べていた。
私とシャムがちょっと辛い……ってなりながら食べるくらいで作ってるのに、あの二人の舌は一体どうなってるんだ。
そのせいなのか二人はあんまり寒そうじゃないんだよね。
「セルちゃん手袋どう?魔法使い辛いとかない?」
「慣れてないからちょっとだけ杖が握りにくい感じはするけど、魔法自体は問題なく使えるよ。いい感じ」
「良かった!何にもないと寒いもんね」
「シャムはつけてても大丈夫なんだね」
「うん。魔力を通す素材なら平気」
いよいよ寒くなってきたから手袋も付け始めて、問題なく魔法が使えるかどうかを確かめていたんだけど問題はなかった。
手を覆った状態で魔法を使う練習とか、しておいたら非常時に便利だったりするかなぁ?
まあ、妙な技術とかは身につけておくと妙なところで役に立つし、なんであれやっておいて損にはならないだろう。
私が普段からやってる不規則飛行も妙な技術の類だけど、あれもなんだかんだ役に立ってるからね。
「お?あれがペルーダか?」
「そうだね。もう少しだ」
「今日は宿のベッドでぬくぬく寝れるぞー」
「ペルーダの中もちょっと探索したいよねっ」
「そのあたりは着いてから考えようか。あんまりのんびりしていると宿が無くなりそうだし」
「おー。なら速度上げるか」
遠くにペルーダの壁が見えてきたので、速度を上げて進む。
寒いところでの野営は、いつも以上に宿が恋しくなるね。
温かい布団で寝たい……外套二枚を重ねて包まってるけど、やっぱり寒いもんは寒い。
リオンが火を絶やさないようにしてくれてるから、その分ちょっとは寒さをしのげてるんだろうけど、でも前回が温かいどころかちょっと暑い第一大陸だったからね。
一番暑い大陸に行った直後に一番寒い大陸に来てるから、なんというか身体が調整しきれて無いんだろう。体調を崩さないようにも注意しないと。




