45,最上位ドラゴンも結構適当
一つに纏めて貰った髪が揺れる。
何となく楽しくて、意味もなく頭を振って髪を揺らしてみたりする。
そんなことをしている間にコガネ兄さんと姉さまは準備を終えたらしく、のんびりとこちらに歩いてきた。
今日は姉さまの契約獣のうち、唯一リコリスで暮らしていない最上位のドラゴン、ヒソクさんに会いに行くのだ。
姉さまはコガネ兄さんに抱えられていくのだが、私は風を起こしてその後ろを付いていく。
流石のコガネ兄さんでも二人抱えて移動するのはつらいだろうとこの移動方法になった。これには、私の属性が風だからというのもある。
私は飛べるので、森の中を移動する姉さまたちと違って私は上から森を越えて森の終わりで合流するという話になっているのだ。
「セルリア、準備は出来てるな?」
「うん。ばっちり」
「よーし、じゃあ行こっか!」
姉さまの声を合図にして、コガネ兄さんが姉さまを横抱きにする。
そのまま森の中へ入って行ったのを見送って、私は手に持った杖を揺らした。
風を起こす場所は足元。ただ風を起こすだけではなく、自分の足の下にも別の風を作ってそれを踏み台にし、真下の風で上に上がる。
十分上に上がったら風の向きを変え、自分の周り全てを薄い膜で覆うように保護してから向かいたい方向への風を強くする。
上が無風であったり、逆風であったならそのまま。もし追い風が吹いているのならそれに乗っていく。
「……あははは!」
口角が上がる。声が漏れる。
楽しくて仕方ない。まるで、鳥にでもなった気分だ。
ちょうど吹き始めた追い風に身体を乗せて、時々上下に動きながら空を飛ぶ。
杖だけは落とさない様にしっかり握って、後は少しの方向修正だけで向かう方向へ吹いている風を見つけてそこに乗り、徐々に速度を付けていく。
学校では出来ない上空の飛行を楽しんでいる間に眼下の森が途切れて、どこにいるか分かりやすいようにと魔法を放っていてくれるコガネ兄さんを見つけて速度を落とした。
落としている間に真上に来たので、そのまま真下に落ちて着地の直前に風を起こしてふわりと地面に戻る。
姉さまが感心したように小さく拍手をしてくれた。そして何か思いついたのか神妙な顔でコガネ兄さんを見上げて小さく言った。
「これもしかしなくても私以外全員飛べるね?自力で飛行出来ないの私だけかな?」
「まあ……そうだな」
「魔法の才能が無くて今更悲しくなってきた」
呟く姉さまをなだめながら移動を始め、私はもう一度空へ上がる。
姉さまを抱えなおして進むコガネ兄さんを追いかけて風を起こし、上からその背中を追う。
なんでわざわざ地面から離れるのかというと、その方が見やすいし安全なのだ。
私は前方に何があるのか、という把握とそれを避ける判断力がまだまだ甘いので、高速移動しているとうっかり岩なんかにぶつかりかねない。
なのでそういった物がない上の方を飛ぶのだ。
しばらく飛んでいると、とても大きい峡谷が現れる。
地面をえぐるようなその溝は深く、除いてみても下は暗くて見えない。
この最下層が目的地である。
私が付いてきていることを確認して、コガネ兄さんがその中に飛び込んでいく。
それを追って中に入り、ついでに明かりもともしながら下へ向かう。
初めて来たときはあまりの暗さにちょっと泣いたような記憶がある場所だが、今となっては恐怖心もない。
峡谷の最下層にたどり着き、迷わず歩き出した姉さまを追いかける。
ここには日の光が入らないのだが、なぜか自生している光るコケやらキノコやらのおかげで周りは明るく照らされていた。
魔法でつけていた明かりは消して、足取り軽く進んでいく姉さまの後ろを歩く。
普段姉さまのすぐ後ろを陣取るコガネ兄さんも今日だけは私の後ろを進んでいてくれる。
つまり、このまま。姉さまのすぐ後ろを歩けと。そういうことなのだろう。
「……さあ、着くよー」
姉さまの緩い声がかかり、進んでいた洞窟の奥が一層の光を放ち始める。
それでも進んで、光に目を細めながら奥を見ると、発行する大木が枝を広げ、その根元には流水のような龍が鎮座していた。
「久しいな、アオイとその養い子よ。待っていたぞ」
「お久しぶりですね、ヒソク」
「こ、こんにちは。お久しぶりです」
穏やかな声は、少なくとも自分に悪意はないのだと分かるくらいの優しさを含んでいた。
それでも身体が硬直してしまうのは生物としての格の違いだろうと思っているので、きっとこれからもこのままだろう。
足取り軽く近付いていく姉さまに手を引かれ、転ばない様に必死に足を動かす。
コガネ兄さんは少し離れたところから見守っているようだ。
コガネ兄さんとヒソクさんはお互いに相手のことを自分より上だと思っているらしく、基本的に自分から動かない。
なので基本的には放置するのが安定なのだと姉さまが言っていた。
……姉さまは、そんな二人から主と慕われていることの意味を理解して……いるのだろうけど、どうしてもその気軽さにこちらの肝が冷えるのだ。
「学び舎に行ったそうだな」
「はい。……あの、聞きたいことがあって……」
「うん、何だ?」
「私に最上位ドラゴンの加護がかかってるって言われたんですが……」
「ああ、渡したなぁ」
結構覚悟を決めて聞いたのに、気軽に返事をされてしまった。
思わずなぜ……と呟いてしまったが、これに関しては私は何も悪くないだろう。
「渡したんですか。いつの間に」
「お主がその養い子を初めて連れてきた時にな。まだか弱い子供であった故、守らんとと思い」
「せめて私には一言教えてくれても良かったのに」
「忘れておった」
姉さまも知らなかったらしいし、かなり前から加護は与えられていたらしい。
最上位ドラゴンの加護って、そんなに気軽に渡す物じゃなかったはずなのだけれど。
ギギギギッとさび付いたような動きで首を回してコガネ兄さんの方を見ると、音を出さずに唇だけ動かしてお返事が来た。
読唇術なんて出来ないけれど、これは読める。
「あきらめろ」
と。きゅっと唇を噛んだら深く頷かれたので、お互いの言いたいことはしっかり伝わっているらしい。
楽しそうに会話を始めた姉さまとヒソクさんを眺めつつ、まあもう貰ったものだし、と加護の件は一旦諦めて、それでもどんな内容の加護なのかくらいは聞いておこうと決意を新たにする。
うっかりしているとそれも聞けずに帰ることになりそうなのだ。
多分この後また私に話題が振られるだろうから、その時に隙を見て聞いてみよう。
そう思って内心拳を握りながら、今は目の前のドラゴンの美しい姿に見惚れるのだった。




