449,後輩たちとのじゃれ合い
木の上からぶら下がっている、ゆらゆら揺れる尻尾を眺める。
……気になるなぁ。でも、触ったら木の上に持っていかれてしまうだろうから、手を出すわけにはいかないのだ。
「先輩、俺の尻尾狙うのやめてよ」
「目の前でこれ見よがしに揺らしてるのに……」
逃げられたとしても一回くらい触ってやろうかな、とか考えていた邪心を察知されたのか、何もしてないのに釘を刺された。
私が読書してたところに寄ってきて木に登ったのはそっちなのに……
「先輩が剣持ってるの珍しいね」
「見せるって約束しちゃったからね。普段から一応持ってはいるよ」
「へぇ……次はどこ行くの?」
「次は第六大陸。それが終わったら遠出はもうしないんじゃないかなぁ」
「……卒業近いもんね」
「うん」
第六大陸に行って帰ってきたら、卒業まではもう一か月ほどしかない。
だからもう遠出はしないで、行くとしても大陸内くらいになるだろうなぁという話は皆でしていたので、今回が最後の遠征だ。
のんびりとそんなことを考えていたら、いつの間にかイザールは木から降りてきて隣に腰を下ろしていた。
あら、尻尾が近くに……あ、逃げられた。
「先輩は卒業後に何するかとか、どこ行くかとか、そういうの決まってるの?」
「決まってない。……決めないと……」
「……フォーンに残ったりはしないの?」
「フォーンに?……まあ、無くはないよね。ここからなら帰れもするし、冒険者するなら拠点にしてもいい感じはする」
「ん、そっか」
なんかちょっとだけ機嫌よくなった?なに、私が卒業するの寂しいの?可愛いじゃないのよこの猫ちゃん。
可愛いねぇと頭を撫でようかと思ったらするりと逃げられてしまった。
「なんで逃げるの……」
「先輩が気軽に触れ合いすぎなんだよ」
「えー……ネコチャン……」
「俺の事そこまで猫扱いするのも先輩くらいだよねぇ」
「……嫌だった?」
「嫌じゃないけどさ……」
チリン、と鈴が鳴って、イザールが立ち上がった。
どうしたのかと思ったら、建物の方からアリアナとグラシェが歩いて来ているのが見えた。……あれ、ルナルもいる?
なんか仲の良い後輩が勢ぞろいしてるなぁ。
可愛い。揃って並んでるとなおさら可愛いね、私今後輩の可愛さを噛みしめてるところだから、イザールも逃がさないからね?
「先輩?」
「なぁに?」
「思ったより力強いね?」
「私普段からこの杖振り回してるんだよね」
「あぁ……納得した……」
イザールの腕をしっかりつかんでいたら、ちょっと焦った声を出された。
そんなことをやっている間に後輩たちが傍まで来ていて、ルナルがすぐ傍まで寄ってきたので頭を撫でておく。
「セルちゃん先輩、これあげる」
「ん?なぁに?」
「おまもり。魔力が切れても、ちょっとだけ回復して気絶を防いでくれるの」
「え、凄いそんなのあるんだ」
「試作品だって。何個かあったからあげる」
「えー、ありがとう」
渡されたお守りには紐がついていて、どうやら荷物に付けておけばいいらしい。
貴重品入れに付けておけばいいのかな。部屋に戻ったら早速つけよう。
ルナルはお守りを渡してすぐに戻って行ってしまったので、手を振って背中を見送る。
さて、大人しく待ってた二人の目的はレイピアなわけだし、ちょうど良くイザールも居るからちょっと遊んでもらおうかな。
いやそうな顔しないでよ。あとついでに手加減もしてほしい。本職じゃないから。
「自由人め……」
「甘やかされて育った末っ子を舐めるなよ」
「もー。俺今武器持って無いし……」
「体術でもいいよ」
「レイピア相手に!?」
イザールにならちょっとくらい我が儘言ってもいいと思ってるから、ここぞとばかりに駄々を捏ねて相手をしてもらう。
最終的には練習用の剣を借りてくるからちょっと待ってて、と小走りで建物の方へ向かって行った。
「セルリア先輩、あの人と仲良いんだね」
「まあ、それなりに。ちょくちょく遊んでるからねぇ」
なにせもう三年の付き合いだからね。普段から一緒にいるとかではないけど、一緒に出掛けたりもするし。
そんなことを話している横でアリアナがレイピアを気にしているので、剣を抜いて見せておく。
そんなことをやっている間にイザールが戻ってきたので、杖を木の傍に避けてレイピアの先にポンポンを付けてゆっくりと構える。
イザールと手合わせとかは初めてだな。一個下とか一個上とかは、授業被ってないと戦闘自体見ることは無いからね。
「すーっごい気が重いんだけど」
「身軽なのに」
「いやそうじゃなくて」
「あーそーぼー」
「はいはい……」
ここまで嫌々なイザールも中々見れないよね。
まあ、本気で逃げてないから遊んでくれはするんだろう。
剣を構えたイザールに合わせて少し姿勢を変え、二年生ズがちょっと距離を取ったのを確認する。
さあ、遊ぼう!レイピア使うの久しぶりだから、上手くできるかは分からないけどね。
なんて考えながら、切り込んで来たイザールの剣を横に逸らす。
一歩下がって、もう一回逸らして横に逃げる。
「あ、普通にやりづらい」
「言い忘れてたんだけど、私のレイピアって非常用だから、基本的に逃げるのと避けるのにしか使わないんだよ、ねっ!アブナイ!」
話しながらイザールの剣を逸らして逃げて、リングに魔力を通してちょっとだけ風を起こし、レイピアの周りに纏わせる。
防いだついでに風で剣を巻き取って、動かそうとしているのとは逆方向へと動かす。
「な、にそれ!」
「魔法使いだからねっ」
無理矢理作った隙に突きを放ったが、イザールは飛び退いて逃げてしまった。
流石猫。逃げられたのなら仕方が無いから、防御のためにレイピアを構え直した。




