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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
445/477

445,片付けの日

 朝、部屋の明かりがついたことで目が覚めた。

 身体を起こして伸びをして、時間を確認してベッドを降りる。

 昨日フォーンに到着し、毎回遠出から帰ってきた時と同様に、部屋に戻って全てを後回しにして爆睡した。


 顔を洗って着替えて髪をハーフアップに纏め、杖を持って部屋を出る。

 ひと月以上居なかったけど、部屋の中は特に変化も無くて片付けも簡単に終わりそうだ。

 換気は昨日のうちにやったし、荷物を仕舞いがてら棚の掃除でもしようかな。


 なんて考えながら食堂に向っていたら、見慣れた後姿を見つけた。

 速度を上げたら向こうも気付いたようで、耳がピクリと動いて尻尾が揺れて、そのままゆっくり振り返る。


「先輩戻ってきてたの?」

「やっほーイザール。昨日戻ってきたんだよ」

「おかえりなさい。今回も長かったね」

「第一大陸行ってたからね」

「わあ、思ったより遠出」


 元々会う頻度も少ないから、凄い久々に会った気がするなぁ。

 今日は機嫌がいいらしい黒猫後輩と話しながら食堂に向い、食堂に入ったところで別れる。

 また放課後に話そうねぇって言ってたから、近いうちに現れそうな感じかな。


 他の後輩たちの顔も見に行こうかなぁなんて思いつつ朝食を選んで席に着き、まずは一口スープに口をつける。

 うん、美味しい。落ち着く味だ。


 シャムとリオンは確実に朝ご飯には現れないだろうし、リオンは昼ご飯に現れるかも微妙な所だから、共有したい何かしらがあったとしたらそれは夜になるかな。

 私の今日の予定は部屋の片付けくらいしか決まってないので、共有事項が発生するかも分からないけどね。


「おはよう、セルリア」

「おはようロイ。サラダもりもりだね」

「やっぱり食べたくなるよね」


 いつもより多めにサラダを持ってきたロイも、割と遠征期間後の恒例行事な気がする。

 かく言う私もしっかりサラダ持ってきてるわけだけども。

 ロイは今日、遠征関係の書類を纏めて書いてしまう予定らしいので、感謝を込めて拝んでおく。いつもありがとう、クッキーとか要りますか?


「セルリアは掃除?」

「うん。今ね、後ろから謎の圧を感じてるところ」

「だろうね。入口に居るよ」

「わざわざ捕まえに来たか……仕方ない、行ってくる」

「いってらっしゃい」


 後輩たちが授業参加のために居なくなった食堂でのんびり食後のお茶を飲み始めた時から、謎の圧は感じてたんだよ。

 一旦スルーしたけど、お茶も飲み終わったし大人しく食器を片付けて入口に向かう。


「おはようございます、ヴィレイ先生」

「おはよう。無事なようで何よりだ」

「先生の研究室は無事ですか?」

「無事だと思うか?」

「無事であってほしいなと祈ってはいます」

「残念ながら床の一部が埋もれている」

「はぁー……」


 だろうとは思っていたけど、床が消えたか……

 嘆いても仕方ないのでさっさと移動しつつ、ヴィレイ先生の横顔を眺める。

 なんか若干体調悪そうな感じがするんだけど、気のせいかな?


「何だ?」

「……いつもより顔色悪くないですか?」

「ただの寝不足だ。昨日は夜の見回りがあった」

「なるほど」


 次の日の一限に授業が無い先生とかが持ち回りでやってるんだっけ。

 一回だけ見たこともあるし、誰か他の先生から仕組みについてちょっとだけ話を聞いたような記憶もある。


「今回は最短日程ではなかったようだが、道中何か問題があったか?」

「えーっと……海が荒れてて船が出るまでに少し足止めをくらいましたかね。そのほかは割と順調にいったと思います」

「そうか。大結界の感想は?」

「意味が分からない。何だあの変態技術」

「……まあ、言わんとすることは分かるな」


 やっぱり先生もちょっとは思ったってことですよね。

 回路系ちょっと触ったことある人間なら、あれがどれだけ意味の分からない技術の結晶かを認識出来るんだろう。だって本当に上辺しか触れてこなかった私でも分かるもん。


 良く作ったよなぁ、あれ。壊れたとして、治せるのかな。

 そこは流石に何か対策を取っているんだとは思うけど、設計図があったとしてもあれをもう一回作れるかは別だと思うんだよね。


「見れてよかった、とも思いました。色んな意味で」

「そうか」

「あ、ちなみに今は、見たくなかったなって思ってます」

「悟った目を向けるな」


 話しながら魔術準備室まで移動して、扉を開けた瞬間に思わず乾いた笑いが零れた。

 雪崩が起きてるなぁ……あの辺りなんてもう、なんかちょっと歴史を感じるよね。

 私がいなかったの、一ヵ月ちょっとだったはずなのに。


「……はぁ。よし、やるか」

「頼んだ」

「先生もやるんですよ。とりあえず机の上の書類片付けてください」

「分かった」


 私はいつも通り棚の前に積まれたものを退かすところからかな。

 なんで棚の前に物積むのかなぁ……これ、もうこの棚の扉が要らない説無い?そしたら一応ものは入るし、この余ってる部分が埋まったら他の所には余裕が出来るよね?


 ……いや、違うか。場所が空いたら空いただけものが増えて終わりか。

 なら扉はこのままにしておこう。扉が開いたらスペースがあるから物を入れられるって思えるだけ、精神的にマシな気がするからね。


「ヴィレイ先生、薬学の本読むんですね」

「あぁ、それか。毎年キャラウェイが来るからな、念のため目だけは通しておこうと思ったんだ」

「なるほど」


 見覚えのある本があるなぁと思って手に取ってみたら、姉さまの薬学書だった。

 そういえば二冊目ってどうなったんだろう。作るよーって言ってたし、進んでるならそろそろ出たりするのかな。


 一冊目で反省して事前に告知してくれると良いんだけど……多分しないんだろうな。

 また完成品を薬師会に持っていって、周りが大慌てになるのが目に浮かぶ。

 色んな所に影響が出るのに、その範囲を見誤ってるって言うか、自分の影響力を過小評価してるっていうか……


「そういえば先生、姉さまの二冊目の薬学書の話って知ってますか?」

「なんだそれは」


 とりあえず私は、手の届く範囲の被害を抑える方向で動いておこう。


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