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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
442/477

442,移動のおとも

 クンバカルナを数日観光して、見たかったものは大体全部見れたので帰りの支度を始めることになった。

 基本的には来た道をそのまま戻る感じだけど、ちょうど乗合馬車の護衛のクエストがあったので、それを受けてレモラまで行くことにする。


「スレイプニルにも行くことになるとは……」

「まさかだったねぇ」


 乗合馬車のルートを確認したら、デルピュネーの前にスレイプニルに向かうらしく、歩きだったら絶対に通らない国にも行くことになったのだ。

 まあ、せっかくだから行ってみたいって気持ちもあったし、ラッキーくらいに思っておこう。


「スレイプニル……って、どっちだ?」

「あっち。外海の方だよ」

「あっちか」

「明日出発だけど、買い足しておきたいものとかはある?」

「飯」

「馬車移動だから要らんでしょうに……」

「ちょっとつまめるおやつとか探してみる?」


 食料の買い出しは第五大陸についてからでいいので、そのほかに必要なものを考える。

 ポーション類、ちょっと買い足しておこうかなぁ……第一大陸にいる間は非常用に多く持っておいてもいい気がするよね。


 他に急ぎの買い物は無かったと思うので、後はリオンの小腹を満たせるものがあればいい感じかな?

 ……リオンの小腹を満たせるのはもう普通にしっかりしたご飯しかない気もするけど、それは言ったら負けだ。


「セルが前に食ってたの美味かったよなぁ」

「どれ……?私割とおやつ食べてるけど」

「なんか……果物」

「あー……ドライフルーツ?」

「多分それだな」


 移動中に食べてる果物系のおやつって言うとそれくらいだよね。

 確かに気に入ってたような気もするし、探してみるのはアリだなぁ。

 そんなに珍しいもんでもないから捜せば見つかるでしょう。


「あれってどうやって作んだ?」

「果物を切って乾燥させるんだよ」

「……セル作れるんじゃねぇの?」

「あー……まあ確かに乾かすの得意だけど……やったことないなぁ」


 なんか特別気にしないといけない事とかあるのかな?

 無いならとりあえず風でやってみてもいいよね。出来るんならこれ以降は市場で果物買って行けばいいわけだし。


 そんな話をしていたら、ちょうど良く果物を売っているお店を見つけたので、とりあえずリンゴを一つ買ってみることにした。

 邪魔にならないところに移動してリンゴを薄切りにし、杖を回して風を起こす。


 作った風の中に薄切りのリンゴを入れて水分を飛ばして、乾いたら回収して半分に割る。

 とりあえずちゃんと乾いてはいるので、片方をリオンに渡して口に放り込む。

 ……んー?なんだろう、美味しくない訳じゃないんだけど……


「なんか、水分飛ばし過ぎた?」

「あー……そういうことか?」

「もうちょっと水分残してやってみようかな」


 もう一度リンゴを薄切りにして、風で囲って水分を飛ばす。

 今回は表面を乾かすくらいを意識して乾燥させ、出来上がったものを四等分にした。

 ロイとシャムも食べたそうにしてるからね。


「……ん!美味しい!」

「こんくらいで良さそうだね」

「うめぇ。リンゴ以外でも出来んのか?」

「出来ると思うよー」

「他にも買ってっていいか?」

「いいよー」


 この程度なら疲れもしないから、ロイとシャムも食べるようなら多めに作っても良さそうかな?

 保存もそれなりに効くだろうし私も食べるから多めに作っちゃおう。

 なんて考えている間にリオンとシャムが追加の果物を買いに行っているので、私はリンゴの残りをドライフルーツにしてしまうことにした。


「セルリアは微調整が上手だよね」

「普段からやってるからね。リングとロングステッキが同期してからは余計にやりやすくなったし」


 話しながら作ったドライフルーツを口に放り込み、差し出されたロイの手にも乗せる。

 荷物の中に空き瓶とかあったっけなぁ。なければ紙袋とかに入れておくんだけど……あ、ちょうどあるわ。これに入れよ。


「……戻って来たね」

「おわ、思ったより買ってる」

「乾かすと減るだろ?」

「まあ確かに嵩は減るけどさ」


 気に入ってくれたなら何よりだけども。

 それにしても買ったなぁ……一回宿に置きに行った方がいいんじゃないかってくらいある。

 まあでも、リオンは一切気にしてなさそうだからこのままでもいいのかな?


 他に必要なものもそんなに無いし、サクッと買い物終わらせて戻った方が早いか。

 とりあえずポーションか。普段使ってるのが姉さま特製のやつだから、あんまり質が落ちないのを探すの大変なんだよなぁ。


「知り合いの薬師とか居ねぇのか?」

「居たとしても姉さまに聞かないと分かんないよ。それに姉さま、上位薬師会に年一、二回顔出すだけだから薬師の知り合いそんなにいないらしいし」

「そうなんだ。じゃあ前に会った人は数少ない知り合いなんだね」

「あー……ハルフさん?」


 ハルフさんは確かに貴重な薬師の知り合いで、友人と呼んでもいい関係値の人だからなぁ。

 始まりは薬師会ではないらしいから、薬師会から姉さまと知り合いになるのは多分無理なんだろう。

 人多いしね。姉さま人の顔とか覚えるの別に得意でもないって言ってたし、単純に覚えられないってのが大きそう。


「お、薬屋あるぞ」

「んー……他のところ探そうか」

「あら、駄目そう?」

「最低限のラインは守られてるけど、あの値段なら他がいいかな」


 近付くまでもなくロイのストップが掛ったので、他の所を探してしばらく大通りをウロウロして、最終的には優秀な薬師一本外れた通りに居がち説を信じて細道に入った。

 そうしたら本当に質の良い小さな薬屋が見つかったので、私はこの説を信じていこうと思う。


 なんで本当に皆一本か二本か外れたところに居るんだろうね?

 作るのにもそれなりに時間がかかるから、一人でやるなら静かな場所の方がいいとか、そういう理由なのかな?


 今度手紙で姉さまに聞いてみよう。

 少なくとも姉さまは面倒事が寄ってくるのを嫌がって森に引きこもってるわけだし、理由の一つとしてはありそうだよね。


 なんて考えながら宿に戻り、荷物整理を終えてからドライフルーツを作る作業に集中することにした。果物は切ってくれるから、私は乾かすだけだ。らっくちーん。


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