439,警戒すべきもの
杖を揺らしながら第一大陸を、流れている小川を遡るように進んで行く。
今日は天気もいいし良い感じにそよ風が吹いていて、そこだけ見ると凄く穏やかでいいお散歩日和なのだけど、進むにつれて空気感の魔力濃度が上がっていくのであんまりのんびりも構えていられない。
さっきから本当に、ずーっと魔力の波がゆらゆらゆらゆらしてるんだよなぁ……
酔うほどの波長ではなくて、すっごい長い波だから注意してみてないと気付かないくらいのものではあるんだけど……でも気が抜けない感じが凄くって、ちょっと疲れる。
「セルちゃん大丈夫?魔力当てられてない?」
「とりあえず大丈夫……だけど、慣れるまでは疲れそう」
「休むか?」
「んや、気ぃ張ってるだけだから大丈夫」
周りの警戒もあるから風で魔力を遮断するとかも出来なくてちょっと気になる、ってだけで、休む時とかは割と遮断もしてるからね。
野営期間もそんなに長くないし、このくらいなら全然大丈夫……だろう。うん。
駄目そうなら早めに声かけて休憩すればいいし、とりあえず今は移動に集中した方がいいだろう。
無理も良くないけど、休憩ばっかりしていると野営期間が延びるからね。
それはそれで安心できない場所に長く留まることになって神経使うし、出来る事なら早く安全地帯まで行ってしまった方がいい。
「……ん?なんか空気おかしくねぇか?」
「え、そうかな?どうだろ」
「僕は何も感じないけど……セルリアはどう?」
「……んー……あぁ、確かに。さっきと波の感じが違う」
穏やかな風を感じながらのんびり歩いていたらリオンが急に足を止めたので、それに合わせて足を止める。
そのままあたりの魔力を探ってみたら、確かに魔力の波が少し変化していた。
注意して見ないと気付かないくらいの変化なんだけど、これリオンは何で探知したんだ……?
勘と言われてしまえばもう何も言えないが、それでも何かこう、ちょっとくらい説明できる何かがあるんじゃないかって思っちゃうよね。
もう本当にいつか鬼人の事とかちゃんと調べよう。気になって仕方ないわ。
希少種っていうか、第七大陸外には基本的に居ないから全然情報が出てこないんだよね。
第七大陸は鎖国しててそもそも情報が出てこないし、どうやって調べればいいのかなーってここ三年くらいずっと思ってたのだ。
でももうこうなったら姉さまを経由してでも調べてやる。
私は本気になったら使える物は全部使うんだ。そして私の使える力の大半は「姉さまにお願いする」ことなので、今度会ったら全力で甘えることにした。
姉さまは何故か第七大陸に出入りできるからね。
本当に何故なのかは知らないけど、歓迎されてお迎えまで来るらしいからね。
聞かない方がいいのかなぁって思って今まで触れずにいたけど、もうそこも含めて聞いてやる。誤魔化されたら深追いしなけりゃ許されるでしょ。
「セル?どうした?」
「んや、何でもない。ところでこれなんの魔力かな?多分魔獣か魔物だよね」
「おう。索敵っぽいよな」
グルグルと別の事を考えながら索敵をしていたら、意識が別の所に向いていたのがバレてしまったので軽く話題を変える。
リオンもそうだと思うなら、やっぱり土地の魔力じゃないんだろう。
波状になって魔力が飛んできているから、どっちの方向に居るのかは分かりやすいんだけど……敵対的かどうかが分からないとどうしたらいいか決めにくいな。
今すぐに攻撃してくるって感じにも見えないけど、ちょうど進路の方に居るせいで動いた後の行動を予測しないといけないのが面倒くさい。
「どーする?」
「こっからじゃ見えねぇしなぁ……ロイ、あっちなんかあんのか?」
「その方向は……丘と湖があるくらいだよ」
「なんか居るって報告書は見たことないけど、どっかから入ってきたのかな」
シャムとロイも心当たりはないらしいから、いよいよ行ってみないと分からない感じか。
少し話し合った結果、ここでずっと止まっているわけにもいかないし、警戒はしつつ進んでみることになった。
向こうもこっちを警戒してるなら、変に刺激しなければ大丈夫……だよね、きっと。
なんかあったら全力で退避するってことにはなっているので、警戒だけはしっかりしておく。
防御魔法も準備だけはしておいて、いつもより距離を詰めて進む。
「……あー、反応変わった。警戒強まってるかも」
「攻撃してきそう?」
「動きそうな気配はないけど……どうだろう、一気に動けるタイプかもしれないしなぁ」
「すぐ動く感じじゃねぇんじゃね?」
「かなぁ?」
話しながらもゆっくり歩いていたら、徐々に魔力の波の感覚が短くなっていった。
警戒が強まっているんだろう。私も詳しく知りたいところに風を多めに飛ばしたりするから、やりたいことは何となく分かる。
それでもまだ動く気配は無いので、警戒しているだけ、なのかなぁ。
一応出来る限り大回りで行こうとは思ってるけど、それで大人しくしててくれるだろうか。
まあ、そもそも動く気があるのかどうかも分からないんだけどね。
「ここからなら見れるかなぁ?セルちゃん、ちょっと空見に行ってもいい?」
「いいよー、ゆっくり上がり続けるからいいところで声かけて」
「うん。ロイこれ遠視ね」
「了解、気を付けて」
気付いた場所から結構進んだところでシャムに声を掛けられて、一旦二人で空から索敵することにした。
ロイに遠視魔法の片割れを渡してるってことは、飛んで遠視で確認かな?
「ここらへんで止まって!」
「はーい」
「ちょっと待ってねー」
「はぁーい」
「……あ、居た!ロイ見えるー!?」
「見えるよー」
遠視魔法は作ったけど、会話用の魔法は作らなかったらしい。
全力で声を張っての確認が行われていて、二人の目の前には円形の薄い魔力が膜を張っているので目視確認中だろう。
「……グルレル?フィフィート?」
「フィフィートっぽいけど……鱗の色こんな感じだっけ?」
「尻尾見えないなぁ」
「……もしかして、抱卵中?」
「あ、そうかも!ならフィフィートだ。進んで大丈夫!」
よく分からないけど、安全確認が取れたらしいので地上に降りる。
フィフィートというそれに聞き覚えは無いけれど、抱卵中ってことはそれが理由で警戒してたんだろうし、動くこともないのかな。
二人が大丈夫だって言うなら大丈夫なんだろうし、素直に先に進むことにした。
向こうからはまだ警戒するような魔力が飛んできているけど、やっぱり動く気配はないしね。
その後、一番近付いたタイミングでも特に動きは無く、距離が開くのに従って警戒も解かれて行ったようだった。
私たちも予定通りに進めたので、結果的には天気と同じくらい穏やかな日だったな。




